「本当に最高」時給275円から「自立」の道へ 好きを活かして働く障害者支援の現場
障害のある人たちが、どうすれば経済的に自立し、暮らしていくことが出来るのか。新たな支援の取り組みが、進んでいます。
その支援の現場では、何より車が好きという人たちが、汗を流していました。
連載「じぶんごとニュース」
車が好き!障害者16人が安心して働ける職場
自動車整備工場にとって、タイヤ交換の繁忙期となる4月。
札幌東区の『D.Factory』には、車が絶えず運ばれてきます。
タイヤを車体に取り付けたり、工具でナットを締めたり、ごく普通の作業風景ですが、作業にあたる人たちには、それぞれ精神や身体、知的障害があります。
霜鳥翔太さんはここに通い、自動車整備の作業を進める障害者の一人です。
インタビューをしていると霜鳥さんが、直前に取り付けたタイヤを、別の人が確認しています。
オイルの交換作業でも、仕上がりをチェックする人が…。
ここでは障害者のほかに、2人の整備士が常駐していて、作業状態を一つ一つ確かめるダブルチェックを欠かしません。
整備士の山中徹さんに通ってくる利用者の働きぶりを聞くと…。
「もうばっちり。普通に僕らと同じ感覚で、やってくれている。頑張っています」
『D.Factory』は4年前、就労継続支援B型事業所として開設されました。
現在10代後半から60代の障害者16人が、安心できる職場として通っています。
運営しているNPO法人『ニルスの会』小林誠理事長がこの事業所を作ったワケを教えてくれました。
「私も以前から障害を持っている方々に関わっている中で、車が好きな人ってすごく多かった。それであれば直接、車に触れるような事業所を作りたいと思った」
安全と信頼の仕事…当初は戸惑いもあったけど
『D.Factory』では、オイルの点検や交換、洗車や室内清掃も行っています。
ここに通う障害のある人たちは、車の知識を学びながら、やりがいを感じています。
新保佑哉さんもその一人。
「小さい時から車が好きだったので、細かい構造とかいろんなことが学べて、ここに来られて楽しい仕事ができて、本当に最高です」
作業は、整備工場の隣りの建物でも進められています。
車のヒューズの分解や、アルミホイールの洗浄など、より細やかな仕事にも取り組んでいます。
ただ、安全と信頼が何より求められる現場だけに、受け入れる側には戸惑いもあったと整備士の山中さんは話します。
「車は命がかかっている。安全が第一なので、なかなか素人さんにやらせるというのは抵抗があった。だけど、僕らメカニック、資格を持っている人間がついて見ていれば、時間はかかるが問題はないかなという感じはしている」
運営する団体の母体は、札幌市内で病院や介護サービスなどを手掛ける、社会医療法人のグループです。
グループ所有の送迎車両や職員の車のほか、近隣にある障害者施設の車も整備。
年間の整備台数は300台に達します。
自閉症者地域生活支援センター『なないろ』も整備を受けている施設のひとつ。
平松浩樹課長は「去年の冬、急に雪が降ったので、連絡してお願いして、仕事前に預けて、仕事が終わると、タイヤ交換が終わっていると、とてもありがたくお願いしている」と話します。
時給換算275円の現実
製造業や食品加工などに取り組む『B型事業所』が一般的な中、あえて『D.Factory』は、自動車整備に特化しました。
A型とB型が存在する『障害者就労支援』の事業所。
雇用契約を結ぶ『A型事業所』は、給料を受け取り、最低賃金の保証もあります。
一方、雇用契約を結ばない『B型』の場合、工賃と呼ばれる対価に最低賃金の保証がありません。
北海道内の『B型事業所』の平均工賃は、2022年度、時給換算で、わずか275円。
これに対し『D.Factory』の工賃は350円からに設定。
高い人で500円ほどにまで達し、平均の約1.8倍。
専門性が高い分野に特化した結果です。
NPO法人『ニルスの会』の小林誠理事長「親御さんが一生いるってわけでもない中で、自立するためには、ある程度の働いた対価としての見合いを出せるような事業をやりたいっていうのが思いだった」と話します。
障害者の社会的、経済的な自立に向け、企業との連携も進んでいます。
この日は、洗浄したアルミホイールの納品日です。
『D.Factory』に通う林幸志郎さんも車が大好き。
「ホイールを見れば、車種はすべてわかる」のだといいます。
洗浄したアルミホイールの納品先は、自動車のリサイクルなどを手掛ける『鈴木商会』です。
自社でも福祉に関する事業を展開していることから、『D.Factory』に作業を委託しています。
鈴木商会ELV事業部の丸山敦次長は「洗浄のクオリティ、仕事の速さが大変当社と合っている」と太鼓判を押します。
『D.Factory』の『D』は夢の“ドリーム”、出発の“デパーチャー”、運転の“ドライブ”、発見の“ディスカバリー”の意味が込められています。
「自分を見つめ直したり、ここから出発したり、自分の人生をもう一回楽しもうということで『D.Factory』のDとした」
小林誠理事長がそんな思いも明かしてくれました。
自分が“好き”と思うことを活かして、障害のある人たちが、ここから走り出せるように…。その挑戦は、一歩ずつ確かに広がっています。
自立への「支援の場」として…資格取得の仕組み作りも
『D.Factory』は、あくまでも障害者の就労支援にあたる福祉事業所という位置づけです。
つまり、ここでの経験を活かした仕事を見つけて、経済的な自立につなげてもらう「支援の場」なんです。
そして『D.Factory』では、より具体的な仕事先につなげたいと、板金や洗車といった資格も今後、取得もできるような仕組み作りも進めているとのことです。
このような支援の取り組みがある中で、その自立に向けた一歩を社会がどう受け取っていくかが、とても大事になるかと思います。
整備士の不足も全国的に深刻化しているので、当事者の“好き”を活かした障害者の自立支援が、いい形で結びついてほしい。
そして、障害のある人たちが、経済的に自立して心穏やかに暮らせるように、社会全体で向き合っていく必要があると感じました。
連載「じぶんごとニュース」
文:HBC報道部
編集:Sitakke編集部あい
※掲載の内容は「今日ドキッ!」放送時(2025年5月9日)の情報に基づきます。