「クィア映画であり反恋愛映画」クリステン・スチュワート、役への想いや監督への信頼を語る『愛はステロイド』
観る者の心に焼き付いて離れないジャンルレスな映画を数々手掛けてきたスタジオ「A24」が新たに放つ、規格外のクィア・ロマンス・スリラー『愛はステロイド』が、現在全国公開中だ。このたび、主演クリステン・スチュワートのロングインタビュー映像が解禁となった。
この愛は、膨張して、依存して、暴発する
一部の映画館では連日満席の回が続出しており、SNSでも絶賛の声が多く寄せられている本作。大胆で示唆に富んだストーリーテリング、刺激的な演出、そして俳優陣の化学反応が各所から絶賛され、映画批評サイト「Rotten Tomatoes」では94%フレッシュ(6月3日時点)という高評価を獲得。「ゴッサム・インディペンデント映画賞」をはじめとする世界各国の映画賞に44ノミネートを果たし、「第74回ベルリン国際映画祭」にも出品され、『ピンク・フラミンゴ』などで知られる鬼才ジョン・ウォーターズが<2024年最高の映画>として挙げた一作。
メガホンをとるのは、狂信の末に暴走するカトリック信者の看護師を描いたホラー『セイント・モード/狂信』で長編映画デビューを果たし、映画の常識を打ち砕いて世界に衝撃を与えた新鋭・ローズ・グラス。前作で彼女の才能に惚れ込み北米配給を担当したA24が、本作の製作にFilm4と共に名乗りを挙げたのだ。グラスはその期待に応え、官能的なクィア・ロマンスに退廃的なフィルム・ノワール、デヴィッド・クローネンバーグを想起させるボディ・ホラー、そしてデヴィッド・リンチが愛するシュールレアリズムまで、あらゆるジャンルを横断しながら、映画そのものに中指を突き立てる衝撃作を完成させた。
父親を嫌悪しながらもその影響下から逃れられない女性・ルーに扮するのは、名優クリステン・スチュワート。ボディビルダー・ジャッキーには、ケイティ・オブライアン。さらに、エド・ハリスをはじめ、ジェナ・マローンやアンナ・バリシニコフなど、これまでのイメージを打ち砕く役に挑戦している実力派キャストの名演からも目が離せない一作となっている。
まずクリステンが最初に惹かれたのは監督ローズ・グラスの存在だったそうで、「彼女の初長編『セイント・モード/狂信』は衝撃的だった。ホラー系の映画祭で偶然観る機会があって、その後にリモートで登場した監督の語り口は軽やかで丁寧だったのに対し、作品のトーンはシリアスで恐ろしかったから驚いた。だから今回彼女の2本目に出演の話が来たときは、うれしかった」と振り返る。ルーというキャラクターについては、「強い女性の話を作るべきだという、周りの意見に対して監督が少し皮肉を込めてアイデアをひっくり返した。その結果、私は弱くて繊細な人物を演じることになった」と明かす。またクリステンはこの作品を引き受けた理由として、「破壊的な愛の物語を監督と一緒に伝えたいと思った」と語った。
そしてジャッキーを演じたケイティ・オブライアンについては、「ルーが働くジムに初めてジャッキーが入ってきた時、ルーは衝撃を受ける。なぜなら彼女の暮らす町の女性とは見た目も雰囲気も全く異なるから。ケイティはフェミニンで優しくてどこか尖っていてカッコいい。ボディビルの経験も役に説得力を与えていた。ケイティは素朴な美しさを役にもたらしてくれた」と賛辞を送った。
さらに1980年代のアメリカを描く監督のビジョンについては、「完成した作品を観たとき、まるで80年代に作られた映画のようだった。セクシュアリティを大胆に描いているのも最近では珍しい。多様性は受け入れられつつあるけど、過度に慎重になっている気がする。この映画は面白いけど怖いというあまりない作風だと思った。でもホラーというわけではなく人間の本質的な恐ろしさを描いている」と話す。
エド・ハリスとの共演にも触れ、「私の父親と同じ髪型で最初は監督の冗談かと思った!だから2人(クリステンの父親とエド・ハリス演じる父親)が似ていたのは妙な感覚だった。彼がこの小さな映画に出てくれたのは奇跡のよう。彼は伝説的俳優で、優しくて天才的で、共演できたことが信じられない。だからこそ、彼を憎む娘役を演じるのは難しかった」とモノマネも交え語った。最後にクリステンは、「これまでになかった映画。クィア映画であり反恋愛映画でもある。監督には感謝している」と締めくくった。
『愛はステロイド』は全国公開中