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カラオケやエステまで!今話題の「産後ケアホテル」、立ち上げの舞台裏

スタジオパーソル

SNSで多くのインフルエンサーが宿泊し、新しいトレンドになりつつある「産後ケアホテル」。中でも高い人気を誇るのが、カラオケで有名なパセラグループが運営する『マームガーデン葉山』です。

目を引くのは、パセラグループらしいカラオケ、ドリンクバー、ずらりと並んだアメニティ。宿泊に必要なものは「母子手帳・保険証・下着」のみで、スキンケア用品も母乳パッドもナプキンも赤ちゃんグッズも延長コードも、ありとあらゆるものがアメニティとして完備されています。

施設の責任者であり、株式会社マムズCEOの斎藤睦美さんに、『マームガーデン葉山』をどのように立ち上げて運営しているのか、裏側でどんな仕事をして支えているのかを伺いました。

姉の出産を機に「産後ママが休める場所をつくろう」と決めた

――『マームガーデン葉山』はどんな施設ですか?

都内から車で1時間でいける、日本最大のリゾート型産後ケアホテルです。出産後のママのためのホテルで、助産師・保育士・専門スタッフなどプロによる育児サポートを24時間受けられます。赤ちゃんを預けるベビールームや、1日5食の食事に加えて、スパやハーブテント、足湯、カラオケなど無料アクティビティも豊富にあり、リラクゼーションや遊びを楽しむこともできます。ママだけでなく、パパやほかのお子さまなどご家族での宿泊も可能です。

――かなり充実していますね。産後ケアホテルに興味を持ったきっかけは?

もともと保育に携わっていたのですが、姉の出産を機に初めてリアルな育児を知り、課題を感じたからです。保育園などの育児現場では、ママではなくお子さんに目を向けます。産後ママの過ごし方を目にすることはなく、どんな気持ちで過ごしているのか知りませんでした。

姉はいわゆるバリキャリ女性でバイタリティに溢れていましたが、産後はホルモンバランスが崩れて心身が不安定になってしまって。いつもの姉とのギャップが大きく「産後ママってこんなに大変なんだ」と愕然としました。

産後ケアホテルの存在を知ったのは、姉が利用していたからです。私にとって未知な領域でしたが、改めて産後サポートの重要性を知り「日本にも、もっと産後ケアホテルがあったらいいのに」と考え、産後ケアホテルの立ち上げを志しました。

――パセラグループで産後ケアホテルを立ち上げるにあたって、どのような提案を行いましたか?

パセラグループでは飲食事業もホテル事業も保育事業も行っていたので、基本のノウハウは持っていました。また、グループ全体で「社会的意義があり、幸せになれるサービスをつくっていこう」というビジョンがあるので、産後ケアホテルのニーズを改めて伝える形で企画提案を行い、立ち上げが決まりました。

――特に苦労したことは?

ここまでの規模で産後ケア専門の施設は日本に前例がなく、サービス設計をゼロから考えるのが大変でした。「産後ママはどんなサービスがあれば助かるのか?」とニーズを理解するのに時間をかけています。ただなんでもあればいいというわけではなく、「産後の疲れている心身でも楽しめるものってなんだろう?」と一段階掘り下げて考えています。

サービスを考えるにあたっては、産後ケアサービスの先進国である中国・韓国・台湾の現地視察を行い、リーズナブルな施設からラグジュアリーな施設まで幅広く調べました。パセラグループではリゾートホテルを経営しているので、ノウハウを活かしやすいオールインクルーシブの充実した産後ケアホテルを作ろうと決め、パセラらしい豊富なアメニティやドリンク、栄養たっぷりの食事、スパやカラオケなどを提供しています。

――カラオケはいかにもパセラグループらしいアイデアですね!

そうですね。ほかには、スパや足湯など、ほっと一息ついてリラックスしてもらうために取り入れたものもあります。育児は没入しやすく、気が休まらず心身が疲れてしまう方も多いので、利用者の方からは「リフレッシュすると、赤ちゃんがより一層かわいく見える」といった声をいただいていて、育児にもゆとりが必要だと感じます。

――中でも反響がいいサービスは?

ハーブテントやエステの評判がいいですね。やはり「リラックスしてゆっくり休みたい」というニーズが高いのだと思います。リゾートホテルとしてもご満足いただけるように、施設全体がリラックスしやすい環境になっています。

ロケーションにもこだわり、部屋から山や海など美しい景色が見えるようにしました。海を眺めながら、ぽろぽろ泣いている方もいらっしゃいます。都心のほうがアクセスは良いと思いますが、リラックスできる環境を優先し、東京から車で1時間の葉山を選びました。タクシー補助サービスを設けるなどして、産後ママが訪れやすいサポートを行っています。

応募多数。「こんなに“ありがとう”と言ってもらえる職場は初めて」

――これまでのキャリアを教えてください。

幼少期から保育に興味があり、大学で保育と幼稚園教諭の資格を取りました。社会人になってからは、0歳から高校生くらいまでのグレーゾーン※1 の方や障害を持っている方の療育に携わっています。25歳で株式会社NSグループ※2 に入社してからは保育事業を立ち上げ、保育園の園長としてはたらきました。

※1 発達障害の症状が見られるが、発達障害の診断基準のすべてを満たさない状態※2 カラオケパセラをはじめ、ウエディングやレストラン、リゾートホテル等を運営するマームガーデンも行う株式会社のホールディングスカンパニー

――保育事業を立ち上げた理由は?

株式会社NSグループはサービス業を行う会社です。女性もはたらきやすい職場をつくっていきたいという思いから、店舗も多く、本社のすぐ近くである新宿で、保育園を作りました。これは、自己肯定感の高い、その子らしさを育める保育を出来る保育園を作りたいという私の目標の一つでもありました。

――『マームガーデン葉山』の責任者になってからは、どんな仕事をしていますか?

まずはお客さまが安全に利用して満足できるサービスを考えること、そしてそれを叶えるスタッフを採用し、教育からフォローまで行うことです。ほかにはお客さまの集客に向けてのマーケティング活動も行っています。

――スタッフの採用はどのように行っていますか?

幸い、採用募集の応募数はとても多いです。産後ケアホテルの重要性を理解し、「私も産後に困っていたから、こういう施設を応援したいです」という方がたくさんいらっしゃいました。

産後は1週間足らずで退院するので、助産師さんでも長期的に産後ママをサポートする機会はほとんどありません。また、病院だと特定のサービスを紹介できないという規則もあるため、産後ケアホテルで長い期間、自由度が高いサポートができることを喜ぶスタッフも多いです。

――採用後は、どんな教育を行っていますか?

基本的なマニュアルは、ホテル事業や保育園事業のノウハウを土台にしつつ、現場メンバーと意見を交わしながら作りました。あとは、現場でママたちと触れ合いながらサービスの改善を行っています。スタッフからは「こんなに“ありがとう”と言ってもらえる職場は初めてです」といった声をよく聞きます。

また、柔軟にはたらく場所を選んで成長できるのが産後ケアホテルならではだと感じます。調理、清掃、保育などさまざまなサービスがあるため、多種多様な職能を活かせます。スタッフごとのスキルや志望に合わせたポジションチェンジや、マルチプレーヤーの輩出など、適材適所で活躍しやすい環境を整えるよう努めています。

――責任者として苦労したことは?

24時間365日サービスを提供してしますし、センシティブな状態になっているママも多いので、お客さまの悩みに共感して気疲れしてしまうスタッフもいます。オープン当初は、こうした特殊な職場環境で、はたらきやすさを維持するのに苦労しています。

現在は、年2回、スタッフ全員にアンケート調査や面談を行い、真摯に向き合いながらケアしています。今現在の気持ちや困りごと、願望などをヒアリングして、意見一つひとつに耳を傾け、常に改善を続けていかなければと思っています。

――産後に、今後の目標を教えてください。

「お客さまは神様である」とよく言いますが、満足していただけるサービスを提供して、逆に「お客さまの神様になる」ことを軸に、サービスの向上に努めていきます。そして「産後ケア」という言葉を社会に浸透させ、ママたちが安心して出産出来る社会を作っていきたいです。

(文:秋カヲリ 撮影:重松善樹)

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