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漫画やアニメの長嶋茂雄!フィクションとノンフィクションを駆け抜けたスーパースター

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1977年10月01日 日本テレビ系アニメ「新・巨人の星」放送開始日

『巨人の星』『侍ジャイアンツ』『アストロ球団』『男どアホウ甲子園』『あぶさん』… 。日本でもっとも多くの漫画やアニメ作品で描かれた実在の人物は、故・長嶋茂雄だろう。しかし、“ミスター・ジャイアンツ” の人物像の描かれ方は時代ごと、作品ごとに大きく変化している。本稿では6つの時期に分けて、主な長嶋登場漫画・アニメを整理していく。

*「長嶋」と「長島」は公式に併用されてきたが、ここでは便宜上「長嶋」に統一することをご了承いただきたい。

【第1期】衝撃のデビューから球界の顔に(1958〜1964年)


1958年、プロ入り1年目の長嶋は、本塁打王・打点王・新人王を獲得し、全国的な注目を集めた。そして、その人気を漫画業界は放って置かなかった。翌1959年3月、 『週刊少年マガジン』(講談社)と同日に創刊された『週刊少年サンデー』(小学館)創刊号は、長嶋が表紙を飾っているのだ。さらに、同号で連載が始まった寺田ヒロオの『スポーツマン金太郎』では、主人公がやがて巨人に入団し、長嶋らとともにプレーする展開が用意されていた。一方、1961年に『週刊少年マガジン』で始まった『ちかいの魔球』(原作:福本和也 / 作画:ちばてつや)は、主人公の二宮光(にのみや ひかる)が魔球を武器に巨人入りし、実在する選手たちとのプレーを通じて成長していくストーリーとなっている。そこに描かれるのは、爽やかな青年でありながら貫禄十分の長嶋だ。

スランプに陥った長嶋が、自らにそっくりなロボットの力を借りて復調するという、1963年に『週刊少年マガジン』で短期連載されたSF作品『ロボット長島』(原作:久米みのる / 作画:貝塚ひろし)は、長嶋の特異性を際立てる。その存在自体が、すでにひとつのエンタメコンテンツだったのである。 また、同年の『黒い秘密兵器』(原作:福本和也 / 作画:一峰大二)や、1965年の『ミラクルA(『九番打者』から改題)』(貝塚ひろし)など、成長した主人公が巨人に入団し、長嶋や王貞治らとともに戦うというフォーマットの野球漫画が量産されるようになっていく。

その路線の極めつけは『巨人の星』(原作:梶原一騎 / 作画:川崎のぼる)だ。『週刊少年マガジン』での連載は1966年からだが、物語は長嶋茂雄の巨人入団会見から始まる。その場に、幼い星飛雄馬(ほし ひゅうま)が乱入し、父・星一徹の編み出した “魔送球" を投げつける。長嶋は冷静にその球をかわして手でキャッチ。大事には至らない。梶原一騎は、長嶋の非凡さを際立たせると同時に、飛雄馬を歴史的瞬間の目撃者として登場させることで、物語に強烈な導入部を作り出した。

【第2期】絶頂期と “ON” の黄金時代(1965〜1971年)


1965年、川上哲治が監督に就任して5年目以降、巨人のV9時代が始まる。長嶋と王による “ON砲” は打撃タイトルを独占し、2人はジャンルを超越した国民的英雄となる。『巨人の星』は、まさにそうした時代と並行して描かれていった。高校を中退し、巨人にテスト入団した飛雄馬はONにたびたび感化される。ここでの長嶋は、己に厳しく、他者には誠実で高潔な人物として描かれている。また、飛雄馬が編み出した “大リーグボール2号(消える魔球)” の秘密を見破るなど、天才として扱われる。1968年に日本テレビ系で始まったアニメ版『巨人の星』でも、長嶋のキャラクター像は原作を踏襲していた。

【第3期】衰えと世代交代の兆し(1972〜1974年)


長嶋は選手として晩年を迎え、1972年以後はシーズン打率が3割を下回る。1973年にはコーチ兼任に。引退はV10を逃した1974年のことだ。この時期の長嶋も漫画の中で鮮明に描かれている。1971年に『週刊少年ジャンプ』で始まった『侍ジャイアンツ』(原作:梶原一騎 / 作画:井上コオ)は、まさに長嶋晩期と重なる作品である。『巨人の星』と同じ構造ながら、主人公の番場蛮(ばんば ばん)は生真面目な星飛雄馬とは異なる自由奔放で型破りなキャラクターだった。『侍ジャイアンツ』は1973年10月から日本テレビ系でアニメ化され、最終回は1974年9月―― 長嶋の引退直前に放送された。

漫画、アニメともに『侍ジャイアンツ』の長嶋は人間味あふれるユニークなキャラとして描かれた。とくにアニメではヒゲの濃さを強調するように口の周りが青っぽく着色され、コミカルさが強調された。また、慢心した番場蛮を長嶋が鉄拳制裁するシーンは語り草だ。殴られた番場蛮は勢いで壁を粉砕し、隣室まで吹っ飛んでしまうのだ。なお、アニメ版での長嶋はコーチ兼任という設定になっている。第1話で川上が高校時代の番場を視察に行く際も長嶋を帯同する。

『侍ジャイアンツ』と同じ『週刊少年ジャンプ』に、1972年から連載されたエクストリーム野球漫画『アストロ球団』では、沢村栄治の遺志を継ぐ超人たちが、“打倒アメリカ大リーグ” を掲げて集結し、“アストロ球団” を結成。壮絶なデスマッチ野球を繰り広げる。この作品に限っては、巨人は主人公の所属球団ではなく、謎めいた新球団を警戒し、既得権を守ろうとする側にまわる。そして長嶋は、引退後を見据えた動きを見せる。自らの後継者と目した若者(実は超人だった)を、他球団のスカウトに見つからないように千葉の無名校に通わせ、密かに育成。確実に巨人へ入団させようとする。また、他の超人にも巨人入りを打診し、悪役的な投手・無七志(む なし)の獲得にも乗り出す。最後には、アストロ球団を球界から追放する謀略に加わるなど、ビジネスライクな策士として描かれるのだ。

引退を目前とした長嶋を描いた作品が、1970年から『週刊少年サンデー』で連載された『男どアホウ甲子園』(原作:佐々木守 / 作画:水島新司)だ。主人公・藤村甲子園(ふじむら こうしえん)は、高校・大学で活躍後、阪神タイガースに入団。1975年に描かれた最終話で、現実にはすでに引退していた長嶋と対決する。剛球に三球三振で抑え込まれた長嶋は、笑顔で去っていった。

【第4期】最下位から始まった第1次監督時代(1975〜1980年)


第1次監督時代は、初年度に球団初の最下位という屈辱から始まった。1976〜1977年にリーグ優勝こそ果たしたが、采配は決して安定せず。加えて、球団による“怪物” 江川卓の強引な獲得劇は世間からの反発を招き、長嶋巨人のイメージにも少なからぬ傷を残した。球団内の派閥抗争もあり、事実上の解任となったのが、1980年10月のことだった。

第1次監督時代の長嶋を描いた代表作が『新・巨人の星』だろう。『週刊読売』(読売新聞)で1976年より連載され、翌年から日本テレビ系でアニメ化もされた。左投手として選手生命を絶たれ巨人を退団していた星飛雄馬が、代打・代走専門選手として復帰。やがて、右投手として再びマウンドに立つ。作中での長嶋はコミカル要素ナシの熱き人格者で、飛雄馬に永久欠番の “背番号3”を託した。

『新・巨人の星』の漫画は、飛雄馬が “大リーグボール右1号(蜃気楼のボール)” を完成させるが、宿命のライバルである花形満に攻略された後、中途半端な終わり方をする。しかし、アニメ版は1979年から続編『新・巨人の星Ⅱ』がスタートし、視聴者向けに独自の結末を用意した。広島カープが優勝した現実世界と異なり、巨人が日本シリーズで阪急ブレーブスと戦う。そして、最後の試合で飛雄馬が完全試合を達成し、日本一に輝くのだ。最終話では、メジャー挑戦を決意した飛雄馬が、大型新人・江川卓のピッチングを見守ったあと、 “背番号3” のユニフォームを長嶋に返しに行く。だが長嶋は “背番号3はお前のものだ” と言って、飛雄馬を送り出した。

一方、打ち切り気味に終わった漫画の『新・巨人の星』には、同じく『週刊読売』に連載された『巨人(ジャイアンツ)のサムライ炎』(原作:梶原一騎 / 作画:影丸譲也)という続編があった。ここでの長嶋は非情な勝負師として描かれる。まず、荒々しい個性を持つ水木炎(みずき ほのお)という逸材に惚れ込み、入団させようと画策する。一方で、巨人に残っている右腕の飛雄馬に見切りをつけて、コーチ転向を要請する鬼采配をみせるのだ。それを受け入れた飛雄馬は、水木の指導役を志願する。大リーグボール養成ギプスは水木が受け継ぐのだった。

1977年から『コロコロコミック』(小学館)などで連載された『リトル巨人くん』(内山まもる)では、長嶋が小学生をドラフト指名して入団させるというミラクルを発動した。また、この頃の『週刊少年ジャンプ』は、1974年の『炎の巨人』(原作:竜崎遼児 / 作画:三枝四郎)、1976年の『悪たれ巨人』(高橋よしひろ)、毛色は異なるが1977年の『すすめ!!パイレーツ』(江口寿史)など “主人公が長嶋巨人(またはその下部組織)でプレーする” という構造の作品を連発した。まだ、巨人 = 夢の到達点という図式は残っていた。

【第5期】浪人時代と “おもしろキャラ化”(1981〜1992年)


第1次監督辞任後、長嶋は文化人としてあらゆる分野に顔を出した。“いわゆるひとつのぉ〜” といった独特の語り口により、おもしろキャラとして、広く認知されるようになった。ただし、この時期は野球ネタの4コマ漫画、1コマ風刺漫画を除けば、さすがのミスター・ジャイアンツも漫画やアニメに登場する機会は少ない。

そのなかで数少ない例が、1981年にテレビ朝日系で放送されたアニメ『タイガーマスク二世』(原作:梶原一騎 / 作画:宮田淳一)だ。この作品では、長嶋が主人公の特訓相手を買って出ている。プロレス vs 野球。これが成立するのはノンジャンルで活躍していた当時の長嶋だからだろう。

【第6期】第2次監督時代と“メークドラマ”(1993〜2001年)


1993年、長嶋は13年ぶりに監督復帰。長嶋フィーバーが再燃する。翌年オフには野茂英雄がメジャーリーグに挑戦し、日本球界は新しいフェイズに突入していく。それでも、依然としてプロ野球は国内で注目度の高い娯楽であり、長嶋はそこで監督として数々のドラマを演出していった。

第2次監督時代を象徴するのが1995年から『週刊少年チャンピオン』(秋田書店)で連載された『ドカベン プロ野球編』(水島新司)だ。実在のプロ野球関係者が続々と実名で描かれる作品において、長嶋は巨人の監督として複数回登場する。ドラフトでは岩鬼正美を1位指名するが、王ダイエーと競合し、抽選で敗れる展開もあった。

最後に、長嶋が “時代を超える存在” であることを示す好例を紹介したい。『ビッグコミックオリジナル』(小学館)で、1973年から2014年まで続いた『あぶさん』(水島新司)である。パ・リーグが舞台の作品だが、時代ごとに立場を変えながらも長嶋の登場シーンはある。現役だった1973年の日本シリーズでは、南海ホークスに属する、“あぶさん”こと主人公・景浦安武(かげうら やすたけ)のバッティングに一目置く。第一次監督時代には、不調のあぶさんを「失敗は成功のマザー!」と励ますシーンがある。第二次監督時代、2000年の日本シリーズ後には、あぶさんと王、長嶋の3人が共に酒を酌み交わす場面が描かれた。

日本のプロ野球界は、ON後も多くの超一流選手を輩出している。しかし、様々な権利が厳しく管理される時代となったことで、長嶋茂雄のように、フィクションとノンフィクションを横断するスーパースターは、二度と現れないだろう。

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