再開発により渋谷駅およびその周辺はどう変わる?進行中の事業をわかりやすく解説
渋谷駅再開発の全体像(位置関係)
現在、JR渋谷駅および周辺では複数の地区で再開発が進められている。特に駅内部の工事は2000年代以降断続的に続いており、普段から渋谷駅を利用している人にとっては「いつ終わるのか」と思ったことがあるかもしれない。渋谷駅は谷地形のA特徴を持つエリアに位置しており、駅構造も地下5階・地上3階の多層構造となっているため、利用者にとって複雑で分かりにくい状況にある。
しかし、そうした状況も現在進行中の再開発によって徐々に解消されつつあり、利便性や快適性が向上した新しい渋谷駅へと生まれ変わろうとしている。そこで本稿では、計画中・事業中の再開発の位置を地図で確認するとともに、すでに明らかになっているスケジュールや主要プロジェクトを紹介していく。
現在、JR渋谷駅およびその周辺で進められている再開発事業は6ヶ所ある。このうち、都市再開発法に基づく市街地再開発事業は4ヶ所で計画・事業が進められている。
・道玄坂二丁目南地区第一種市街地再開発事業
・渋谷二丁目西地区第一種市街地再開発事業
・宮益坂地区第一種市街地再開発事業
・公園通り西地区第一種市街地再開発事業
・渋谷駅街区計画(第Ⅱ期)・渋谷駅街区土地区画整理事業
・渋谷一丁目地区共同開発事業
このうち現在建築工事が進んでいるのは、「道玄坂二丁目南地区第一種市街地再開発事業」と「渋谷駅街区計画(第Ⅱ期)」である。特に渋谷駅の工事に直接関わるのは、東急株式会社・東日本旅客鉄道株式会社・東京地下鉄株式会社が推進する「渋谷駅街区計画(第Ⅱ期)」である。
また、これらの再開発事業の一部は相互に連動しており、渋谷駅の利便性や魅力を高めるという共通の目的を持っている。本稿では、それぞれの再開発事業の位置関係や建築計画の概要を確認していく。
これまでの渋谷駅およびその周辺はどのように変化してきたのか
渋谷駅周辺では、2005年に都市再生特別措置法に基づく都市再生緊急整備地域に指定されて以降、官民一体で駅および周辺の再整備が進められてきた。これまでに、2013年には東急東横線の地下化と東京メトロ副都心線との相互直通運転開始、2020年1月には東京メトロ銀座線渋谷駅のホーム移設と新駅舎の供用開始、さらに2023年末から2024年にかけてJR渋谷駅新駅舎の一部供用開始と新南改札の移転が行われてきた。
また、市街地再開発事業としては、2012年に渋谷駅東口地区第一種市街地再開発事業(渋谷ヒカリエ)、2020年に道玄坂一丁目駅前地区第一種市街地再開発事業(渋谷フクラス)、2023年に渋谷駅桜丘口地区第一種市街地再開発事業(渋谷サクラステージ)などが竣工した。このほかにも、中小規模の都市再生プロジェクトが数多く進められている。
改めて、都市再生緊急整備地域に指定されて以降、渋谷駅周辺には駅の顔となるような大規模な商業・業務複合施設が次々と誕生している。
渋谷を代表する施設を竣工年順に挙げると、2012年の「渋谷ヒカリエ」、2017年の「渋谷キャスト」、2018年の「渋谷ストリーム」、2019年の「渋谷スクランブルスクエア(東棟)」「渋谷フクラス」「渋谷パルコ・ヒューリックビル」「渋谷ソラスタ」、2023年の「渋谷サクラステージ」、2024年の「渋谷アクシュ」などである。
注目される主要なプロジェクト
前述のとおり、現在、渋谷駅およびその周辺では複数の再開発事業が進められている。その中でも、普段から駅を利用されている方が気になっているだろう、渋谷駅での工事(渋谷駅街区計画)について取り上げていきたい。
渋谷駅では、「100年に一度」と題して、2034年度の全体完成を目指し、東急株式会社、東日本旅客鉄道株式会社および東京地下鉄株式会社が中心となり、官民協働のもと、スクランブルスクエア開発や駅改良、広場整備などを同時並行で進めている。すでに、第Ⅰ期となる渋谷スクランブルスクエア東棟は2019年に竣工しており、オフィスや大規模商業施設、高さ約230mに位置する展望施設(渋谷スカイ)の開業などにより新たな賑わいを生んでいる。
そして、次に進められているのが、歩行者ネットワーク空間等の整備や開発の核となる渋谷スクランブルスクエア中央棟・西棟となる。さらに、ハチ公広場や東口地上広場などを含む都市基盤整備の全体完了は2034年度を予定している。
東急株式会社らが2025年5月9日に行った報道発表資料によると、同年5月に渋谷スクランブルスクエア第2期(中央棟・西棟)の工事に着手したとしている。全体的な完成を迎えると、渋谷駅は各鉄道間での乗り換えや再開発施設間のアクセスが改善する見込みとなっている。
はじめに、2030年度に完成(一部は概成)する、地上部分とデッキ部分に歩行者ネットワークとして、特徴的といえるのが、デッキレベルとして整備される東京メトロ銀座線渋谷駅の直上に設けられる「4階東口スカイウェイ(仮称)」ならびに「西口3階上空施設(仮称)」となる。これらの整備により、上空のデッキ上で渋谷駅東西が結ばれることとなる。
また、地上レベルでは、JRハチ公前改札前およびJR南改札前にそれぞれ最大幅員20m超の東西自由通路が設けられることで、道玄坂方面と宮益坂方面のアクセス性が向上することとなる。現状では、駅が工事中であることもあり、比較的狭い歩行者通行帯や空間であるが、これらが改善する。なお、「西口3階上空施設(仮称)」は約3,000m2に及ぶ歩行者デッキとなり、渋谷スクランブルスクエア西棟にも接続されることとなる。デザインは、国内外で有名な内藤廣建築設計事務所が手掛ける。
次に、2031年度には、店舗・駐車場等を用途とする渋谷スクランブルスクエア中央棟・西棟が完成する。延べ面積は、約95,000m2に及ぶ。中央棟は地上10階・地下2階、高さ約61m、西棟は地上13階・地上4階、高さ約76mとなる。デザインアーキテクトとして、隈研吾建築都市設計事務所や日建設計、有限会社SANAA事務所が参画する。隈研吾氏は建築界隈に在籍していなくても多くの人が知っているだろう。SANAAは、妹島和世氏と西沢立衛氏の建築家ユニットであり、2010年にはプリツカー賞を受賞している世界的な建築家である。
最後に、最終年度となる2034年度には、合計2万m2に及ぶ複数の広場が駅に接続する形で完成するほか、中央棟4階部分には「4階パビリオン(仮称)」と地上のハチ公広場とをつなぐ縦方向の移動空間として「アーバン・コア」が完成する予定となる。
この項では再開発事業のうち、「渋谷駅街区計画(第Ⅱ期)」・「渋谷駅街区土地区画整理事業」について、その概要を紹介したが、この他にも駅周辺では複数の再開発事業が進められている。その中でも2025年4月に東京都から再開発組合が認可された「宮益坂地区第一種市街地再開発事業」については、2031年度の竣工を目指して事業が進められ、東京メトロ銀座線上空に整備される「4階東口スカイウェイ(仮称)」や、渋谷ヒカリエに接続する形で建築計画が進められる。概要は次の記事においてまとめているので渋谷の将来像を知りたい方はぜひ。
▶︎2025年4月に再開発組合が認可された「宮益坂地区第一種市街地再開発事業」の概要
再開発のスケジュールまとめ
現在進められている再開発事業のうち、最も早く完成するのは、渋谷マークシティWESTに隣接する「道玄坂二丁目南地区第一種市街地再開発事業」で、2027年2月の竣工が予定されている。
次に、渋谷ヒカリエに隣接し宮益坂や六本木通りに面して行われる「渋谷二丁目西地区第一種市街地再開発事業」が2029年度に竣工予定である。
その後、「渋谷駅街区計画(第Ⅱ期)」が2030〜2034年度にかけて段階的に完成し、さらに「宮益坂地区第一種市街地再開発事業」が2031年度に竣工を予定している。
渋谷駅の工事はいつまで続くのか
渋谷駅の工事については、最終的な完成は2034年度を予定しており、それまでは工事が続けられる。
ただし、JR渋谷駅の新南改札に隣接するエリアでJR東日本が建設を進めている新駅舎(地上6階建て、延べ面積約5,300m2)は2026年度に完成予定である。さらに、2030〜2031年度には渋谷駅街区計画(第Ⅱ期)の整備が進み、渋谷駅の東西・南北を結ぶ歩行者ネットワークの概成や、渋谷スクランブルスクエア第Ⅱ期(中央棟・西棟)の建築工事などが完了する。
このため、工事が順調に進めば、利便性向上という観点では今後5〜6年程度で、現在の複雑で分かりにくい状況は改善される見込みである。ただし、最終的な完成を待つには、2034年度の広場整備完了まで見守る必要がある。
また、社会経済情勢次第では今後5〜6年の間に駅周辺でさらなる再開発事業が展開される可能性があり、今回「100年に一度」と称される再開発を起点として、新たな都市再生プロジェクトが進むことも想定される。さらに、新しい商業施設やオフィス、防災性を備えた大規模広場の完成により、住む人・働く人双方の利便性が一層高まり、周辺住宅の魅力も増すことが期待される。