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アワビもナマコもウナギも想像以上に密漁品が多い? 書籍『サカナとヤクザ』ブックレビュー

サカナト

『サカナとヤクザ』(出版:小学館)

年の瀬も迫り、そろそろ今年(来年)のお正月に食べる「おせち」をどうしようかと考えている人もいるのではないでしょうか。

おせち料理にも使われることがある、高級食材・アワビ。そのアワビは誰が捕り、どこに流通して、あなたの家の食卓にのぼることになったのか……。そんなことを考えたことはありますか。

長年実話誌などで反社会的勢力に関するルポルタージュを届けてきた著者が送る、『サカナとヤクザ』(鈴木智彦著、小学館刊)。知られざる密漁の闇に迫る一冊です。

きっかけは東日本大震災だった

なぜ「サカナとヤクザ」をテーマに取材をしようと思ったのか。

著者にとって、密漁がヤクザの大きなシノギになっているという流れは既知のことだったそうですが、NHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』が話題になり、東北のアワビが暴力団の資金源になっていることに思い当たったそう。

海女のウニ漁(提供:PhotoAC)

震災と津波の影響で東北沿岸では人の気配が無くなってしまい、反社会的勢力関係者による密漁が大々的に横行するようになったというのです。

まことしやかに囁かれる噂は本当なのだろうか、だとしたら実態はどのようなものなのだろうか。足掛け5年にも及ぶ「サカナとヤクザ」を追う日々がここからはじまったのでした。

本当にアワビは密漁されているのか

最初の取材は三陸沿岸。漁協や海上保安庁、警察、逮捕された犯行グループから情報を得て実際のアワビ密漁現場と実行ルートを見聞。

夜ごとに暗躍する密漁団に対して、海保や警察が捜査を繰り広げているという実態を明らかにしていきます。

密漁パトロール中(提供:PhotoAC)

ではなぜ密漁が止まないのか。

ひとつは当時の法律の罰則規定の効力が弱く、実質的に密漁者の参入を抑止できていないこと。そして、密漁品が目立ちにくい地場産業だけではなく、水産業者などを仲介する大規模な表の販売ルートが存在してしまっているのではないかという推測に突き当たります。

これを明らかにするため、著者は次に築地市場の仲卸で仕事を得ることで実際に密漁品が売られている現場を目撃し、販売ルートがあることを確認します。

サカナがヤクザの食い物にされている……。都市伝説的な話が実在し、また、その実態の一端が明らかになったのでした。

高額水産物の影に裏社会あり

本書では冒頭1~2章のアワビ編のほか、3章は黒いダイヤと呼ばれるナマコ編、4章は近世の銚子を戦後昭和まで支配した任侠高寅一家興亡編、5章に東西冷戦の間に翻弄されたカニ漁の戦後史編、6章に九州~台湾~香港を結ぶシラスウナギの国際密輸編があります。

高価な水産物取り引きの背後には、その隙を目ざとく見出すかのように裏稼業の人間が近寄ってきやすいのでしょう。

シラスウナギ漁(提供:PhotoAC)

ここでひとつ注意しておかなければならないのは、大枠として水産業そのものに就業者の背後関係や過去をあまり詮索しないでも就業しやすいというセーフティネット的な役割を果たしている性格があるのだろう点があげられます。

これはなにも水産業だけに限ったことではありませんが、社会的に難しい立場に置かれた人でも働ける環境が存在することは、課題もまた含みつつ、社会に余裕をもたらす安全マージンにもなっている一面があります。

著者は築地市場で4ヶ月働き、様々な人生的な物語を抱えている人々と出会ったうえで「豊洲に移転しても、こうしたおおらかさを失ってほしくない」と評しています。

流通するアワビの45%が密漁品? 2018年には法改正も

本書では過去の資料や取材などを通し、一般に流通している高額密漁品の割合はどれくらいなのか数字を出しています。

アワビは45%、ナマコは50%、シラスウナギは全体の2/3が密漁品と考えられるのだといいます。特にシラスウナギは国際的な産地ロンダリングが行われており、悪質性が高いです。

ただし、これらは古い資料を引用しているものもあるので、令和6年現在では状況が大きく違っている可能性もあり、受け取り方に注意が必要です。

例えばここで特筆して数字が出ている3品目、アワビ、ナマコ、シラスウナギについては平成30年の漁業法改正によって「特定水産動植物の採捕の禁止」が定められ、違反した場合、3年以下の懲役又は3000万円以下の罰金が科されることになりました。

これにより、本書の取材時と比較すれば、現在では法律による抑止効果が向上しているとも考えられます。

まずは知ることが未来を変える第一歩

本書は非常にセンセーショナルな数字が踊っていること、実態のわからなかった裏社会の業態現場や発展史について実録を交えて描いていて、大変ショッキングな一冊であるといえるでしょう。

しかし繰り返しになりますが、取り扱いには注意を要します。例えば、ヤクザが絡んでいるのだから水産業は悪だと単純にみなすようなことです。

実態として社会に様々な悪徳がはびこっているのは厳然たる事実。これに対し、現場であったり法律の整備と執行で不断の努力をしていたりする人たちもまたいます。

旧築地場内市場(提供:PhotoAC)

正業としている人たちに対してフェアではない実態が存在するのであれば、課題を見つけて改善していくしかありません。

本書は取り上げにくい話題に切り込んでいくことによって知られざる闇の世界に光を当て可視化しています。ヤクザ、暴力団、反社会的勢力とはどういう存在なのか、どう付き合わざるを得ないのかを考えるきっかけを与えてくれる本ともいえるでしょう。

水産業の現状と未来を考えるうえで、これほど刺激的な本もないではないかと思います。

(サカナトライター:鈴川悠々)

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