ニコラス・ケイジが後悔する「俳優が一番やってはいけない行為(笑)」とは?A24『ドリーム・シナリオ』インタビュー
我らがニコケイが最新作『ドリーム・シナリオ』を語る!
このところニコラス・ケイジが絶好調である。大切な豚が誘拐された怒りで立ち上がる『PIG/ピッグ』(2020年)で再評価され、自身をパロった役を余裕で演じた『マッシブ・タレント』(2022年)、短いカメオ出演ながら念願のスーパーマン役を任された『ザ・フラッシュ』(2023年)、そして最新作『ドリーム・シナリオ』ではゴールデングローブ賞の主演男優賞(コメディ/ミュージカル部門)にノミネートされた。
『リービング・ラスベガス』(1995年)でアカデミー賞主演男優賞を受賞して名優として認められ、『ザ・ロック』(1996年)、『フェイス/オフ』(1997年)、『ナショナル・トレジャー』(2004年)などのアクション大作でボックスオフィスを賑わせつつ、莫大な借金など私生活で問題も抱えたケイジ。一時は「どんな仕事も断らない」状態で、トンデモ作品にも多数出演。B級映画スターのイメージもついてしまった彼が、その真の実力を証明し始めた印象だ。長年、“ニコケイ”と呼んで愛してきたファンにもうれしい限り。
『ドリーム・シナリオ』は、人気スタジオA24の製作。『ミッドサマー』(2021年)などのアリ・アスターがプロデューサーを務めた。A24らしい大胆不敵なストーリーに、ニコラス・ケイジの名演・怪演がぴたりとハマり、センセーショナルな一作となった。
「キャリアで5本の指に入るほどの面白い脚本」
ある日、何百万もの人の夢に、ケイジが演じる大学教授のポールが現れるようになる。この現象によってポールは一躍、有名人に! しかし夢の中のポールは暴走を始め、それが彼の現実の生活を“悪夢”にしてしまう……。
堅実に教授の仕事をこなし、穏やかな家庭生活を送っていたポール。一方で他人の夢の中では謎の行動も起こす。さらに夢の影響で静かなる男が狂気と化す。一人の人物のそんな変化を演じられるのは、俳優としての大きな喜びかもしれない。ケイジも脚本に惚れ込んで出演を快諾したことを次のように語る。
まずタイトルに心がときめいた。ドリーム(夢)とシナリオ(脚本)は僕の大好きな単語で、その2つが組み合わさっていたわけだから。実際に読み進めると、キャリアで5本の指に入るほどの面白い脚本だった。残りの4本は『赤ちゃん泥棒』(1987年)、『バンパイア・キッス』(1988年)、『リービング・ラスベガス』、『アダプテーション』(2002年)だ。主人公のポールを演じるうえで、僕がこれまで積んできた人生経験も生かせると信じ、すぐにプロジェクトをスタートさせてほしい気分になったよ。
もうひとつ、ケイジが『ドリーム・シナリオ』の展開に共感した点があったという。それは、かつて実際に彼が体験した“苦い思い出”とシンクロしたからだ。
たしか15年くらい前のことだけど、目が覚めた時になぜかGoogleで自分の名前を検索してしまった。今となっては、俳優がいちばんやってはいけない行為だとわかっている(笑)。そこで目に入ったのは、僕が演じたキャラクターが危機を迎えるシーンを集めたマッシュアップ動画だった。
それを眺めていたら頭の中がパニックになり、しばらくは食事中も放心するなど、精神的に参ってしまったんだよ。他人がアップしたネット上の動画を、僕が削除することはできない。これって、他人の夢をコントロールできない『ドリーム・シナリオ』の設定と、まったく同じだったのさ。
「僕は夢をたくさん見るタイプかもしれない」
父親の仕事も教授だったニコラス・ケイジは、ポール役に親近感をおぼえつつ、ヘアスタイルなど外見も大きく変えて演技に挑んだ。よほど気合いを入れて臨んだことがよくわかる。外見のチェンジも含め、どのように役にアプローチしたのだろう。
俳優の仕事は外見と内面をリンクさせること。外見が大きく変われば、朝から役に入り込み、その性格になりきれることを本作で試したかった。“ニック・ケイジ”という現実を一旦消し去るわけだ。ポールの雰囲気や、肉体の動き、声の出し方は普段の僕とまったく違うと思い、そのようにアプローチした。そこにリアルな感情を重ねた感じだ。
僕は俳優を始めた頃、自分の声にコンプレックスがあった。ジェームズ・キャグニーやハンフリー・ボガートのように声の響きで魅了する俳優になりたくて、ずっと声の出し方を実験してきて、それが今回も大いに役立ったんだと思うな。
『ドリーム・シナリオ』は、夢が現実を侵食するというシュールな展開が作品の持ち味になっている。最初は“傍観者”として他人の夢に出ていたポールが、あるきっかけから危うい行為にも及ぶようになり、その結果、現実での周囲の対応、彼自身の言動もおかしな方向へ進んでしまう。「正夢」という概念を改めて考えさせられ、本作を観た多くの人が夢についてあれこれ妄想するに違いない。ではケイジは、夢と現実の関係についてどう思っているのか。
僕は夢をたくさん見るタイプかもしれない。子供の頃から、よく悪夢にうなされているのを両親に指摘されてきた。大人になってからは悪夢への対処法も考えるようになった。たとえば飛行機事故の夢が続いた場合、目が覚めた瞬間に事故に遭った人への同情で心を満たすようにする。そうすることで悪夢がトラウマにならなくて済むんだ。夢と現実のリンクや、夢が叶える魔法などは信じたいけど、冷静に考えれば無関係のような気がする。見たい夢を聞かれたら、妻や子供たちと一緒に過ごしている光景だけどね。
「これまで演じた役は僕にとって、すべて“実験”の繰り返し」
ニコラス・ケイジを好きな人にとって、この『ドリーム・シナリオ』と重ねたくなるのは、彼が脚本ベスト5にも入れた『アダプテーション』かもしれない。ケイジが双子の兄弟を演じ分けた作品だが、弟の方は架空の存在で、アイデンティティが混乱する設定だった。現実と幻想、それぞれの自分が交錯する点がよく似ている。
この点についてケイジは、「監督のクリストファー・ボルグリが『アダプテーション』の大ファンで、チャーリー・カウフマン(同作の脚本家)の作風を意識したようだ」と振り返る。
2024年に60歳を迎え、日本人妻のリコさんとの結婚生活も幸せいっぱい。この『ドリーム・シナリオ』でもわかるように、公私ともに順調なニコラス・ケイジ。改めて40年以上におよんだキャリアや、演技への向き合い方について、このように語る。
作品の成否は別にして、これまで演じた役は僕にとってすべて“実験”の繰り返しだった。以前は本番直前まで何度もセリフを練習したり、セットをうろうろ歩き回ったりもしていたが、ここ10年くらいは、監督の「アクション!」の声で瞬時にスイッチが入るようになった。『マッシブ・タレント』のように一歩間違えたら自虐で屈辱になるリスクのある作品も、何とかやりとげることができたしね。
今後のチャレンジとしては、シュールレアリズムや抽象的な表現をもっと取り入れて演技を完成させること。美術でピカソやアンディ・ウォーホールが達成したことに、俳優業で近づきたいんだ。
このようになかなか壮大な理想を掲げるニコラス・ケイジにとって、今回のようなA24は最適のパートナーかもしれない。「A24は自由な発想の作品を成功に導く魔法を持っている。それが何なのか僕も知りたい」と話すケイジ。
今後の作品も、シリアルキラーを演じた『Longlegs(原題)』、中年サーファーが暴漢たちや野生動物によってとんでもない運命を強いられる『The Surfer(原題)』、NFLの名解説者、ジョン・マッデンに扮する『Madden(原題)』、シリーズ初の実写ドラマ『スパイダー・ノワール』の主人公スパイダーマン・ノワール役など、興味を掻き立てる作品や役が続々と待機。ニコラス・ケイジのこの快進撃を体感するうえでも、『ドリーム・シナリオ』は必見の一作なのである。
取材・文:斉藤博昭
『ドリーム・シナリオ』は2024年11月22日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開