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高齢者の低体温症の予防と対処法とは?原因や症状、対策のポイント

「みんなの介護」ニュース

長谷川 昌之

高齢者の低体温症とは?発生メカニズムと症状を徹底解説

低体温症の定義と高齢者に多い理由

低体温症とは、体の深部温度が35℃以下に下がった状態のことを指します。

体温が低下すると、体内の酵素活性が低下し、臓器の機能が著しく損なわれます。その結果、生命の危機に直面することになるのです。

高齢者は低体温症になるリスクが特に高いとされています。その理由は、体温調節機能や基礎代謝の低下が挙げられます。若い頃と比べ、寒さを感じる力が鈍くなっているため、体が冷えていることに気づきにくいのです。

加えて、高齢者は皮下脂肪が少なく、筋肉量も減少する傾向にあるため、体温を維持する能力が衰えていることが多いです。また、血管壁の弾力性が低下し、血流が悪くなることで、体の末端まで十分な熱が届きにくくなります。

さらに、感染症にもかかりやすく、その際に発熱などの症状が出にくいことも、低体温症のリスクを高める要因です。体調の変化に気づきにくく、適切な対処が遅れてしまうのです。

政府の調査によると、2022年における65歳以上の低体温症による死亡者数は1000人以上に上ります。この数字は氷山の一角であり、実際にはさらに多くの高齢者が低体温症で命の危機に瀕していると考えられます。

高齢者人口の増加に伴い、今後さらに低体温症のリスクは高まると予想されています。高齢者本人だけでなく、家族や介護者も低体温症の危険性を理解し、予防と対処の方法を身につけておくことが大切です。

高齢者の低体温症の主な原因

高齢者が低体温症になる原因は、単に寒冷環境への暴露だけではありません。実は、室内でも十分に発生し得るのです。

高齢者は、節電意識から暖房をつけずに我慢したり、薄着でいたりすることで、知らず知らずのうちに体温が奪われてしまいます。エアコンの風が直接体に当たる場所で長時間過ごしていると、体が冷えてしまうこともあります。

また、加齢に伴う食欲不振から低栄養状態に陥ったり、脱水症状を起こしたりすることも、低体温症のリスクを高めます。体を温めるためのエネルギーが不足し、体温調節機能が低下してしまうのです。

アルコールの多量摂取も低体温症の原因となり得ます。アルコールには血管を拡張させる作用があり、体表面から熱が奪われやすくなります。飲酒後は体温が下がりやすいので注意が必要です。

糖尿病や甲状腺機能低下症、パーキンソン病などの基礎疾患がある場合も、低体温症を発症しやすくなります。これらの疾患では体温調節機能が損なわれているため、体が冷えやすい状態にあるのです。

高齢者の低体温症の発生場所についての調査では、全体の75%以上が屋内で発生していることが明らかになっています。自宅やデイサービス、病院、介護施設など、高齢者が日常的に過ごす場所で発生しているのです。

こうしたデータからも、高齢者の低体温症予防には、住環境の改善と適切な体温管理が重要だといえるでしょう。高齢者の生活スタイルや健康状態に合わせた、きめ細やかな対策が求められます。

低体温症の症状と重症度による分類

低体温症の症状は、重症度によって異なります。早期に兆候に気づき、適切に対処することが重要です。

軽度(体温35~32℃)の場合、震えや四肢の冷感、チアノーゼ(皮膚が青紫色になる)などが見られます。手足の感覚が鈍くなったり、動作がぎこちなくなったりすることもあります。この段階では、比較的軽微な症状ですが、放置すると重症化する恐れがあります。

中等度(体温32~28℃)になると、震えがなくなり、錯乱、嗜眠(しこん)、言語障害、歩行障害などが現れます。体温が下がるにつれ、意識障害が悪化していきます。脈拍や呼吸数が減少し、血圧が低下します。低体温によって心臓や脳の機能が低下し始めているサインです。

重度(体温28℃未満)では、意識障害、心電図異常、呼吸抑制、心停止など、生命に危険が及ぶ症状が出現します。体温が極端に低くなると、心臓が正常に動かなくなり、死に至ることもあります。

特に重度の低体温症は死亡率が非常に高く、深部体温が32℃を下回ると死亡リスクは一気に高まるとされています。

低体温症は、症状が現れてからでは手遅れになることが少なくありません。初期症状が見過ごされやすく、症状が進行してから発見されるケースが多いのが実情です。

高齢者の場合、低体温症の症状がわかりにくいことも問題です。震えや冷感を訴えることが少なく、意識障害だけが目立つこともあります。家族や介護者は、高齢者の小さな変化にも気を配り、低体温症も疑うことが大切です。

そして、可能な限り早期に発見し、適切に対処することが何より重要になります。軽度の段階で体を温められれば、重症化を防ぐことができます。

逆に、発見が遅れると取り返しのつかない事態を招きかねません。低体温症の危険性を正しく理解し、予防と早期発見に努めましょう。

低体温症を防ぐ!高齢者の予防対策と日常生活での工夫

高齢者の体温管理の重要性と注意点

高齢者は若い頃と比べて寒さを感じにくいため、無意識のうちに体温が下がってしまうことがあります。また、体温調節機能の低下により、寒さに対する防御反応が鈍くなっています。

寒さを感じにくいからといって、決して我慢する必要はありません。寒いと感じたら、躊躇せずに暖房を使用しましょう。我慢は低体温症のリスクを高めるだけです。

なお、高齢者の体温管理には細心の注意が必要です。室温は18℃以上に保ち、湿度は40~60%が適切とされています。暖房器具を使用する際は、温風が直接体に当たらないよう気をつけましょう。

また、部屋の温度計は、高齢者の目線の高さに設置することが大切です。高齢者は温度変化に鈍感なため、自分では寒いと感じていなくても、体は冷えている可能性があります。客観的に室温を把握できるよう工夫しましょう。

衣服の選び方にも注意してください。体温を逃がさないよう、暖かい服装を心がけましょう。重ね着をして、空気の層を作ることで保温効果を高めることができます。

特に注意が必要なのが、入浴時。ヒートショックを防ぐため、脱衣所と浴室の温度差をなるべく小さくし、湯温は38~40℃程度に設定します。入浴前後は、温かい飲み物を飲むなどして、ゆっくりと体を温めましょう。

こうした体温管理の工夫は、高齢者本人だけでなく、家族や介護者の理解と協力が不可欠です。高齢者の健康状態や生活習慣を把握し、きめ細やかなサポートを心がけましょう。体調の変化にいち早く気づけるよう、日頃からコミュニケーションを大切にすることも重要です。

低体温症を予防する住環境の整備と工夫

高齢者の住環境を整えることは、低体温症予防に欠かせません。住宅の断熱性を高め、隙間風を防ぐことで、効率的に室温を保つことができます。

窓は二重サッシにするなど、断熱性の高いものが望ましいです。床や壁、天井にも断熱材を使用することで、熱の損失を防ぐことができます。ドアや窓の隙間は、気密テープやパッキンで埋めて、冷気の侵入を防ぎましょう。

暖房器具は、高齢者の生活スタイルに合わせて適切に選んでください。エアコンの風は体に直接当たらないようにしましょう。床暖房は、足元から体を温められるので、高齢者に適しています。

就寝時は、電気毛布やホットカーペットで保温するのも効果的です。ただし、温度設定は低めにし、長時間使用しないよう注意しましょう。就寝中に体が冷えないよう、暖かい寝具を用意することも大切です。

また、居室だけでなく、トイレや脱衣所など、高齢者が頻繁に利用する場所の温度管理にも気を配りましょう。ヒートショックを防ぐためにも、部屋間の温度差をなくすことが大切です。

こうした住環境の整備は、高齢者の健康維持に大きく役立ちます。家族や介護者は、高齢者の安全で快適な生活環境を整えられるよう、工夫を重ねましょう。専門家に相談して、適切な対策を講じることも有効です。

低体温症予防に役立つ栄養管理と食事のポイント

体温の維持には、エネルギーが必要不可欠です。低栄養状態では低体温症のリスクが高まるため、バランスの取れた食事を心がけましょう。

高齢者は食欲が低下しがちですが、必要なエネルギーや栄養素を十分に取ることが大切です。1日3食、規則正しい食生活を送りましょう。間食や夜食にも栄養価の高いものを選ぶと良いでしょう。

特に重要なのが、タンパク質の摂取です。筋肉を維持し、体温の産生を助ける働きがあります。また、免疫力を高める効果もあるため、感染症予防にもつながります。目安として、1日あたりの摂取量は体重1kgあたり1.0~1.2gとされています。

また、ビタミンB群(豚肉、レバー、魚、卵など)やビタミンC(柑橘類、ブロッコリー、ジャガイモなど)、鉄分(レバー、豚肉、大豆製品など)を意識的に摂取することも大切です。これらの栄養素は、体温調節機能の維持に欠かせません。

ビタミンB群は、エネルギー代謝を助け、体温産生に関わっています。ビタミンCは、血管を強くする働きがあり、体の末端まで血流を促進します。鉄分は、酸素を運ぶ働きがあり、体温維持に役立ちます。

そして、脱水も低体温症のリスクを高めるため、こまめな水分補給を心がけましょう。高齢者は喉の渇きを感じにくいため、意識的に水分を取る必要があります。個人差はありますが目安として、1日1.5リットルは摂取するように意識するべきでしょう。

 

低体温症が疑われたら?適切な対処法と医療機関との連携

低体温症を疑ったときの初期対応と注意点

高齢者の様子がいつもと違う、寒がっているなど、低体温症が疑われるサインがあったら、ただちに体温を測定します。

体温が35℃以下であれば、低体温症の可能性が高いです。体温計は、できれば直腸体温計を使用します。口腔や腋窩(わきの下)での測定では、正確な体温が測れないことがあるためです。

低体温症と判断されたら、すみやかに医療機関へ連絡を取ります。低体温症は、重症化するリスクが高い疾患です。早期の治療開始が予後を大きく左右します。

まずは衣服を乾いた暖かいものに着替えさせ、毛布などで保温します。濡れた衣服は、熱を奪う原因になるため、速やかに脱がせることが大切です。

ただし、急激な加温は危険です。末端の血管が拡張し、血圧が下がってショック状態になるおそれがあります。40~45℃程度のぬるま湯を用意し、胴体を中心にゆっくりと加温します。

基本的には、初期対応を適切に行いつつ、医療機関の指示に従って行動するようにしてください。落ち着いて、迅速に対応できるよう、日頃から心がけましょう。

低体温症の高齢者を発見した場合の医療機関との連携

先述の通り、低体温症の症状が見られたら、現場での応急処置と並行して、ただちに医療機関への搬送体制を整えます。

救急車の要請は躊躇せずに行いましょう。低体温症は、早期の治療開始が予後を大きく左右する疾患です。現場で対応できる範囲には限りがあるため、できるだけ早く医療機関へつなぐことが重要です。

救急隊への引き継ぎの際は、発見時の状況を正確に伝えます。高齢者がどこで、どのような状態で発見されたのか、具体的に説明しましょう。

また、どのような応急処置を行ったのか、詳しく伝える必要があります。保温を行ったか、加温はどの程度行ったか、飲み物を与えたかなど、一つひとつ確認します。これらの情報は、適切な治療方針を決定するうえで欠かせません。

さらに、高齢者の普段の健康状態について情報提供します。既往歴や内服薬、低体温のエピソードの有無など、できる限り詳しく伝えましょう。

救急隊に引き継いだら、家族や介護施設のスタッフは、医療機関への搬送に同行します。搬送中も、高齢者の容態を観察し、変化があれば医療スタッフに伝えましょう。

病院到着後に医療スタッフからの質問があれば、細かく伝える必要があります。高齢者の普段の様子を知る家族や介護者の協力は、的確な診断と治療方針の決定に欠かせません。

発見から治療開始までの時間が低体温症の予後を左右するので、現場での適切な判断と、医療機関との円滑な連携が何より重要だといえるでしょう。

介護施設における低体温症予防の取り組みと体制づくり

冬季の介護施設では、入所者の低体温症予防が重要な課題となります。そのためには、施設全体で組織的な取り組みを行う必要があります。

まずは、施設内の温度管理を徹底します。居室や共用スペースの温度を適切に保ち、床暖房や暖房器具の使用を工夫します。

施設内の温度設定は、18℃以上を目安とします。ただし、高齢者の体感温度は個人差が大きいため、画一的な温度設定ではなく、一人ひとりの状態に合わせた管理が求められます。

居室の温度だけでなく、廊下やトイレ、脱衣所など、高齢者が移動する場所の温度管理にも気を配ります。

また、高齢者の衣服は、保温性に優れ、調節しやすいものを選びます。就寝時の寝具も、体温を逃がさないよう工夫しましょう。

施設内の温度や湿度、高齢者の服装はこまめにチェックし、記録に残すことが大切です。客観的なデータを蓄積することで、適切な温度管理につなげることができます。

次に、スタッフ教育の徹底が欠かせません。低体温症の基礎知識はもちろん、予防のポイントや観察の視点を身につける必要があります。

スタッフ一人ひとりが、低体温症の兆候を見逃さない目を養うことが何より大切です。顔色が悪い、呂律が回らない、ふらつきがあるなど、小さな変化にも気づける観察力を磨きましょう。

疑わしい症状があれば、ただちに体温を測定し、記録に残します。加温や保温の方法、緊急時の対応手順を確認し、迅速に行動できる体制を整えましょう。

スタッフ間の情報共有も重要です。申し送りの際は、高齢者の体調変化につながる情報を漏らさず伝達します。スタッフ同士が連携し、高齢者の状態を多角的に評価できる体制を築きましょう。

さらに、施設独自のマニュアル整備も急務です。低体温症の予防や対処の方法、バイタルサインのチェック体制、異変時の連絡体制などを明文化し、スタッフ全員で共有します。

マニュアルは机上の空論ではなく、実践的で使いやすいものでなくてはなりません。現場の声を反映しながら、定期的に見直しを行うことが大切です。

介護施設における低体温症予防は、スタッフの意識と行動、それを支える組織体制があって実現するものです。人的な対策と環境的な対策を車の両輪として進めていくことが、高齢者の健康と安全を守ることにつながるのです。

高齢者の尊厳を守り、その人らしい生活を支えるのが介護の役割です。低体温症は、高齢者の生命を脅かす重大な症状ですが、適切な予防と対処を行えば、防ぐことができます。

施設全体で課題意識を共有し、一丸となって取り組むことが何より大切です。

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