【ネタバレなし】海外で高評価の自主制作映画『最後の乗客』は、キャッチコピーを忘れて素直に観てほしい作品
低予算での制作ながら、面白さが口コミで広まることだってある自主制作映画。その代表格といえば『カメラを止めるな!』ではないだろうか。「カメ止め」の略称で大ヒットしたのは2018年のこと。
そのカメ止めの再来と評されているのが『侍タイムスリッパ―』だ。2024年9月より全国上映が始まり、テレビなどでも取り上げられるようになった。
そして、最近また別の自主制作作品の全国上映が始まった。『最後の乗客』は仙台の1館から始まり、海外の映画祭で高い評価を受け、10月11日から全国各地の劇場で上映が始まっている。
渋谷ユーロスペースでの上映を観てきたので、その感想をネタバレなしでお伝えしたい。
・先入観なしで観てほしい
まずはじめに、私(佐藤)はこの作品について妙な先入観を抱いていたことを正直に打ち明けよう。というのも、ポスターにこんな文言が記されていた。
「目的地で、この物語は<形>を変える。」
これを目にした瞬間に私は、カメ止めの「この映画は2度始まる」を思い出してしまったのだ。どちらも大きく展開がひっくり返ることを予感させる文言だが、今作についてはやや大げさな表現な気もするので、この文言を忘れて頂きたい。
私が妙な先入観を抱いた理由はもうひとつある。それは、侍タイムスリッパ―で風見恭一郎役を務めた冨家ノリマサさんが出演していたことだ。あの役がめちゃくちゃ良かったので、それに引っ張られて「似たスタイルなのかな?」と想像してしまったけど、実際は全然違った。
タイトルやポスター、売り文句などから思い描くイメージを全部忘れて、作品を観てほしい。
・わずか55分
物語は、小さな街の駅のロータリーから始まる。終電後の客待ちをしているタクシードライバーは仲間からある噂を聞く。夜遅くに車を流していると、大学生くらいの子がポツンと立ってタクシーを待っているという。
ミステリアスな噂話から始まり、ドライバーは思わぬ事態に巻き込まれていく……。
本編はわずか55分の短い作品で、またたく間に物語は進んでいく。限られた予算で、撮影スケジュールもかなりタイトだったのだろう。そのためムダと感じられるシーンはほとんどなく、サクサクと話は進む。
・思った通りの展開だけど……
正直申し上げると、途中で何が起きるか容易に想像がついてしまう。「こうかな~」と思った通りに事が進んでいく。
しかし、つまらないとは思わなかった。
というのは、登場人物たちの心象をとても丁寧に描いているからだ。家族や絆などテーマはありふれたものではあるけど、ささやかな一言が胸に迫るものがある。
詳しくはネタバレになる可能性があるのでお伝えできないのだが、自分も何気なく使っていた言葉が時に人を傷つけることもあるんだと、気づかされる場面があった。
何より演じられた俳優の皆さんの演技が素晴らしい。とくに、ドライバー遠藤役の冨家さんの演技に涙を堪えられなかった。あのシーンは思い出しても泣ける。そういえば、侍タイムスリッパ―でも終盤の演技は脳裏にしっかりと刻まれている。冨家さんはスゴイ!
今作を通じて、何気ない日常の大切さや、いたずらに絆を傷つけることの無意味さ、そんなことを考えさせられた。
最初に述べたように、作品のタイトルやポスターからいろんなことを想像してしまうけど、それらを一旦忘れて、紡がれる物語を素直に受け取ってほしい。きっと、観た人がそれぞれに感じ取るものがあるはずだ。
参考リンク:『最後の乗客』
執筆:佐藤英典
Photo:Rocketnews24