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岸本隆一に聞く! EASL制覇・天皇杯と“2冠奪取”のポイントは… 琉球ゴールデンキングスの鍵は「じゃんけん」にあり!?

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柔らかい表情でインタビューに答えた岸本
2冠奪取に向けて意気込む琉球ゴールデンキングスの岸本隆一=2月24日、沖縄サントリーアリーナ

プロバスケットボールBリーグ西地区首位の琉球ゴールデンキングスが3月、約1週間という短い期間で、Bリーグと並行して参戦する二つの大会で2冠奪取に挑む。 日本、韓国、フィリピン、チャイニーズ・タイペイ、香港、マカオの強豪10クラブが王座を争う「東アジアスーパーリーグ(EASL)」は3月7〜9日、マカオでプレーオフの「ファイナル4」を行い、グループBを1位通過したキングスは初優勝を狙う。 7日にグループA2位の桃園パウイアンパイロッツ(チャイニーズ・タイペイ)と準決勝を実施。勝てば9日に決勝、負ければ同じく9日にある3位決定戦に進む。相手は準決勝のもう一つのカードである広島ドラゴンフライズ(Bリーグ)対ニュータイペイキングス(チャイニーズ・タイペイ)のいずれかとなる。 賞金は優勝が100万USドル(約1億5000万円)、準優勝が50万USドル(約7500万円)、3位が25万USドル(約3700万円)と高額だ。 3月15日には第100回天皇杯全日本選手権決勝が東京の国立代々木競技場第一体育館で行われ、Bリーグ中地区2位のアルバルク東京と激突する。キングスは3年連続の決勝進出となるが、まだ優勝経験はない。三度目の正直となるか。注目だ。 Bリーグの試合も含めた厳しいスケジュールの中、2冠を獲得するハードルは極めて高い。各大会の性質や相手の個性も異なる中、偉業を達成するためのポイントは何かーー。 Bリーグのバイウイーク(中断期間)中だった2月下旬、生え抜き13シーズン目で、豊富な経験を持つ“ミスターキングス”こと#14岸本隆一に話を聞いた。

A東京戦後のロッカールームで…「GAME1」の戦いに変化

一発勝負の天皇杯準決勝で勝利したキングス=2月5日、沖縄サントリーアリーナ(長嶺真輝撮影)

まず質問したのは、これまでの戦いぶりの評価について。バイウイーク時点の成績は26勝11敗。西地区2位の島根スサノオマジックと2ゲーム差で地区首位を走っていた。 客観的に見れば好成績ではあるが、岸本自身は「勝敗の数字に対してはあまり思うところはないですね。『勝てたよな』というシチュエーションもあったし、『勝てちゃった』という感覚の試合もありました」と淡々と振り返る。 地区トップでチャンピオンシップ(CS)進出圏内につけているということも影響しているだろうが、勝敗以上に、内容に対するこだわりが強いということだろう。 それもあってか、ある課題感が常に付きまとっていたという。週末2連戦の1試合目と水曜ゲームを「GAME1」とするならば、それまでの11敗のうち、実に9敗がGAME1だった。その要因について、岸本はこう分析する。 「インテンシティ(強度)の部分はもちろんありますが、昨シーズンからメンバーが変わった中で、特に前半戦はゲームごとでどういう試合展開になるかを掴めない部分もありました。『自分たちのバスケットはこれだ』というものを最初から出すより、自分たちが様子をうかがって相手にアジャストしようとしていた印象です。その中で相手も戦い方を変えてきて、対応しようとしている間に試合が終わって負けてしまうという感じでした」 しかし、バイウイークに入る直前に行われた天皇杯準決勝の三遠ネオフェニックス戦、サンロッカーズ渋谷との連戦の1試合目はいずれも勝利。この二つのカードの前にあった2月1、2の両日のアルバルク東京戦で改善のきっかけがあったようだ。 「A東京戦は1戦目を落とし、2戦目は自分たちが盛り返して勝ったのですが、前半戦からずっとそういう展開が続いていました。それを受け、2戦目が終わった後のロッカールームで(小野寺)祥太とヴィック(ロー)が『ゲームに対し、自分たちがいかに危機感や集中力を持って戦えるかが大事だ』という話をしてくれました」 EASLのファイナル4と天皇杯決勝はいずれも一発勝負のトーナメント。BリーグのCSも2戦先勝方式で「初戦の大事さ」は常に指摘されるポイントだ。 だからこそ、岸本は「二人がGAME1を戦う上での意識付けをしてくれたおかげで、マインドセットが変わりつつあると感じています。バイウイーク前の最後の数試合はチームとして前進できた時期でした。自分たちが落としてきた試合の対価をちゃんと得られたと思っています」と手応えを語る。

海外アウェーで初勝利した今季「アジャストできている」

EASLと天皇杯に向けた記者会見でコメントする岸本=2月27日

記事の本題に移る。まずはEASLである。   EASLは2022-23シーズンに始まった。Bリーグからは、前のシーズンにBリーグで優勝、準優勝を果たしたチームのみが翌シーズンのEASLに参戦する資格を得る。Bリーグにおいて3年連続でファイナルに進出しているキングスは、第1回大会から3年続けてEASLに出場している常連だ。 コロナ禍だった1年目は日本での集中開催だったが、2年目からはホーム&アウェーで実施。キングスはいずれも予選のグループリーグで敗退した。 しかし、10チームが二つのグループに分かれて予選リーグを行った今シーズンは、キングスはグループBを5勝1敗のトップで終え、初のファイナル4進出を決めた。参戦すること自体のハードルが極めて高い大会なだけに、岸本もタイトル奪取に対する思いは強い。 「近年はBリーグと天皇杯を含めて毎年のようにタイトル獲得へのチャンスをもらっていますが、もちろん当たり前じゃないし、来年もう一回チャレンジできるなんていう保証は何もありません。ベストを尽くし、チャンスをものにしたいです」 今シーズンの特筆すべき点は、昨シーズンは一勝もできなかった海外アウェー戦で初めて白星を掴んだことである。予選リーグにおけるアウェー3試合の結果は2勝1敗だった。 海外アウェー戦を勝ち切る難しさを考察する前提として、BリーグとEASLは違いが多い。審判がファウルを吹く基準が明らかに異なる他、公式球はBリーグがモルテン社製なのに対し、EASLはスポルディング社製だ。感触の違いに言及する選手は多い。外国籍選手のベンチ登録人数はBリーグより一人少ない2人までのため、試合ごとでどの選手を登録するかも見どころだ。 それらを踏まえ、さらに海外での試合となると、その国・地域の独特な雰囲気がある。初対戦の相手と、初めてプレーするアリーナで試合をすることも多い。そういった環境において、各リーグの強豪を相手に勝利することの難しさは想像に難しくない。 岸本は過去2シーズンからの学びを経て、チームの戦い方が改善していることを実感している。 「もちろんコーチ陣のスカウティングを念頭に戦ってはいますが、EASLは『出たとこ勝負』という要素が特に強いリーグです。実際にやってみないと、相手の特徴について分からない部分が多い。昨シーズンまでの経験を生かし、そういった部分を受け入れて試合中にアジャストできているのが今シーズンの強みですね」

プレー中により頭を使うことが「楽しい」

マカオ・ブラックベアーズ戦で身長230cmの巨漢プレーヤーに挑んだジャック・クーリー(中央)とアレックス・カーク(右)=2024年10月30日、マカオ(長嶺真輝撮影)

Bリーグでは見ることが少ないシチュエーションとして象徴的だったのが、昨年10月にファイナル4と同会場となるマカオのスタジオシティ・イベントセンターであったマカオ・ブラックベアーズとの一戦だ。 相手に身長230cmの巨漢プレーヤーがおり、#45ジャック・クーリーと#53アレックス・カークという重量級のツインタワーが同時にコートイン。ダブルチームを仕掛ける場面もあった。 オフェンスではセンターが二人いることでスペーシング(オフェンス時の選手同士の距離感)が難しくなるが、岸本はポイントガード(PG)としてゲームをコントロールし、19得点12アシストを記録。96ー93で接戦を制することに大きく貢献した。 「(ツインタワーは)一般的にスペーシングが悪くなると思われますが、見方を変えるとビッグラインナップも強みになります。あえてカオスを作ってリバウンド合戦に持ち込むとか、自分たちがやりたくなかったことでも、それが意外と相手にとっては嫌なことだったりします。試合の中でそれに気付けるかどうかは大きなポイントですね」 対戦相手や試合会場に新鮮味があるEASLは、難しさがあると同時に、34歳のベテランとなった岸本にとっては「楽しい」と感じることも多いという。「オフェンスでどういった要素を組み込むとより流動的になるかとか、EASLではより頭を使っている感覚です。それを考えながらプレーするのは結構楽しいんですよね」と笑みを浮かべる。 7日の準決勝でぶつかる桃園も初対戦の相手だ。勝負のポイントを聞くと、独特な言い回しで展望してくれた。 「EASLは試合中に潔くアプローチを変えることもすごく重要なので、じゃんけんと一緒だと思っています。グーばかり練習していて、向こうがパーを出したら面食らって終わってしまう感覚があります。自分たちの強みがグーだったとしても、チョキとパーも準備して、出し惜しみせずに使っていくことが必要だと思っています」 試合中にアジャストを繰り返し、勝負所で司令塔を担う岸本が最終盤で「グー・チョキ・パー」のどれを選択するのか。見どころの一つだ。

天皇杯決勝へ、厳しいスケジュールでも「勢い」を

天皇杯準決勝でハイタッチするケヴェ・アルマ(左)と岸本隆一=2月5日、沖縄サントリーアリーナ(長嶺真輝撮影)

直近に控えるもう一つのタイトル戦、天皇杯。各カテゴリにおけるプロ・アマの垣根を越え、トーナメント戦で“真の日本一”を決める伝統深い大会である。 1921年の第1回大会から1世紀以上に渡って開催され、今回で第100回の節目を迎えた。以前は「正月の風物詩」として年明けから短期間でトーナメント戦を行っていたが、現在は約半年間をかけ、期間を空けて各ラウンドを行うスケジュールとなっている。 bjリーグは一部例外を除いて参加枠がなかったため、キングスの参戦はBリーグが発足してから。初出場となった2017〜18年の第93回大会はベスト8まで駒を進めた。第97回大会では初のベスト4入りを果たし、第98回大会から直近の2回はいずれも準優勝と着実に階段を上っている。 自らを「天皇杯とは縁遠かった選手」と自認する岸本だが、年々このタイトルに対する思いは変化してきているという。 「実業団が主流だった時代から、天皇杯は沖縄のバスケチームが唯一、トップチームが参戦する大会で上を目指せる舞台だったと思います。志を高く持ってプレーしていた沖縄の選手たちが頑張ってきたから今があります。それも踏まえ、天皇杯を取りたいという思いは年々強くなっています。Bリーグの初優勝の時もそうでしたが、優勝の瞬間はその度に自分の価値観が広がっていく感覚があります。自分が、チームが、そして見ている人たちが、優勝することでどんな感情になるかを知りたい気持ちが強いですね」 3月7〜9日にEASLのファイナル4を行い、12日にある島根スサノオマジックとのホーム戦を挟み、15日には東京で天皇杯決勝に挑む。飛行機移動も長く、体力的に厳しいスケジュールだ。 ただ、決勝で千葉ジェッツ(千葉J)に69ー117と大敗を喫した昨年の苦い経験から、大一番に向けていかに「勢い」を生んでいくかの大事さは痛感している。昨年、千葉JはEASLでの優勝から中5日で天皇杯決勝に臨んだのに対し、EASLで予選敗退したキングスはBリーグの試合から中9日で決勝を迎えた。 「昨年、千葉Jからは勢いを感じましたか?」と問うと、岸本は大きくうなずいた。 「めちゃくちゃ感じました。千葉Jはプレーの激しさプラス、感覚が研ぎ澄まされていた印象です。それを紐解けば、やっぱりEASLからあの勢いは始まっていたのだと思います。できることなら、今年は自分たちもそういう感覚で天皇杯決勝に臨めたら一番いいですね」 合間に島根戦を挟むため、昨年の千葉Jに比べてさらに厳しい日程をこなすことになるが、強い気持ちと高い集中力を維持して二つのタイトルをかっさらいたいところだ。

A東京相手に「リバウンド」を制することができるか

柔らかい表情でインタビューに答えた岸本

記念すべき第100回大会で頂点を争う相手は、Bリーグ中地区2位の強豪、アルバルク東京である。2月1、2の両日にアウェーで行った連戦では、初戦を67ー87で完敗したものの、第2戦は83ー58と快勝して星を分けた。 両チームとも高強度のディフェンスと高いリバウンド力を武器としている。一方、オフェンスについては、A東京はハーフコートでの攻めを主体としているが、今シーズンのキングスは速攻が増えるなど攻撃のバリエーションが広がっている。それを念頭に、岸本も「手札の多さという意味では自分たちにアドバンテージがあると思っています」と見る。 勝負のポイントに挙げるのはリバウンドだ。「肉弾戦になる可能性もありますが、それでも我慢して戦い、負けなかった試合も自分たちは経験しています。マインドセットの部分をしっかり整えて臨めば、おのずと結果は着いてくると思っています」と自信をうかがわせる。 ちなみに、2月の連戦におけるリバウンドは初戦が両チームとも36本で同数、2戦目は44本対33本でキングスが大きく上回った。空中戦を制し、自分たちの攻撃回数を増やして主導権を握りたい。 現在のチームについては、特にオフェンス面で「まだまだできるよね」と感じているという。中でもルーキーの#18脇真大と今シーズン新加入の#12ケヴェ・アルマは、今後チームが成長する上でのキーマンに挙げる。 「すごく簡単な言い方ですが、この2人の調子が良ければ絶対に負けない自信があります。僕の中では彼らをもっと機能させないといけなかったな、と思う試合が多くあるので、さらに息を合わせられるように練習中から取り組んでいます」 インタビューの最後、ファンに向けたコメントを求めると、柔らかい笑みを浮かべながらこう言った。 「負けられない試合が続くので、少なからずプレッシャーを感じることはありますが、皆さんの応援の力を借りていい試合をしたいです。勝てればなおさらいいですが、僕は観ている人にバスケットボールを超えた感情を感じてもらえるチームでいたいと考えています。僕たちと一緒になって応援していただく部分と、純粋にバスケットボールを楽しむという気持ちを大切にしていただきたいです」 キングスにとって初優勝の懸かった二つのタイトル戦が立て続けにやってくる熱い、熱い一週間が、もうすぐ幕を開ける。

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