故郷・姫路で語られる“色彩の記憶” ― 「髙田賢三展 パリに燃ゆ、永遠の革命児」(読者レポート)
日本人のファッションデザイナーとしていち早くパリに進出し、世界を魅了した髙田賢三。彼の生まれ故郷である姫路市で没後初の大規模回顧展が始まりました。
会場風景
会場風景
KENZOブランド70年代から90年代、そしてメンズコレクション、また「キャスティバル’94」(※)を含め約100件もの作品が一望できる、まさに「KENZO」の進化を追うことのできる展覧会です。
照明をぐっと落とし薄暗い会場。これは、ファッションショーが始まる前の暗転、その瞬間を表しています。薄暗さの中でもKENZOの色はつよい明るさをもっているのがよくわかります。大胆な色彩と柄。見ているだけでも気持ちがあがっていきます。
ジャケット 1979-1980AW KENZO PARIS
上の写真は、1979-1980AWで毛皮のコレクションで発表した作品のひとつ。シャルル・ペロー(フランスの詩人)の童話「ロバの皮」の世界をイメージしてつくられたものです。近寄ってみましょう、マネキンがとてもユニークです。
約30年ぶりに再現されたワイヤーマネキン
これは、1989年に開かれた髙田賢三の展覧会で使用したワイヤーマネキンを再現しています。当時、賢三と株式会社七彩が制作しました。マネキンのインスピレーション源は三宅一生のワイヤーマネキンだとか。巨匠たちの交わりや時代も感じられ、衣装だけではない見どころに心躍ります。
遺愛品
Takada Kenzo’s House、フランス パリ、2018、レジデンス 模型(1/50)
本展は昨年東京オペラシティギャラリーからの巡回となりますが、姫路会場のみの見どころも多くあります。遺品となるサングラスや家族との写真、旅先で集めた布地などが展示されている空間の構成は、バスティーユに晩年旧髙田賢三邸の一部を実寸サイズで再現したもの。
また、邸宅全体を1/50サイズで模型も展示されているので、賢三邸の大きさや雰囲気をつかむこともできます。「服は、空間全体をふまえてデザインする」ことを意識していたという髙田賢三。居住空間を体感できることで、衣装作品のより深い理解に役立ちます。
(左)「荘苑賞」受賞作品 1960年 (右)独立前に制作したドレス 1960年代 個人蔵
宝塚大劇場こけら落しのためにつくられた衣装やデザイン画、また装飾パーツなど
また、彼の人生を辿る作品や資料などが展示されているエリアは、いつもは同館のコレクションが紹介される無料エリアであることも特筆すべき点でしょう。パリに渡りルイ・フィローの店に持ち込んだデザイン画や宝塚大劇場のこけら落しの際に制作した衣装、フランス政府から送られた勲章など。デザイナーとしての功績はもちろんですが、幼少期の写真や、パリにわたって家族にあてた手紙など、彼の人柄なども感じることができます。
内覧会に参加されていた実の弟、山下紀年さんは「賢三さんは2020年10月コロナに罹り、だれにも挨拶せずに逝ってしまった。この展覧会で彼が『こんにちは!』と言っているように思う」と語られたように、髙田賢三という人物に姫路市で想いを馳せてみてはいかがでしょうか。
ドレス 1982-1983AW KENZO PARISショーのフィナーレを飾ったドレス。床にリボンを並べて何度も組み合わせなどを換えて縫い直したとエピソード
髙田賢三の人生を追うことができるパネル
※キャスティバル‘94 国宝・姫路城が日本初の世界遺産に指定されたことを記念し、1年間にわたって姫路市が開催したイベントの総称。そのイベントの一つとして髙田賢三の「KENZOショー」が開催されたました。
[ 取材・撮影・文:カワタユカリ / 2025年4月11日 ]