言われたことしかしないエンジニアは、AIよりコスパが悪い? 久松剛が語る「指示待ち人間」の末路
最近HOTな「あの話」の実態
かつては「スキルさえあれば食える」と言われた時代もありました。
しかし今は、AIがコードを書き、ツールが業務を最適化する。スキルだけでは差がつかない時代に入っています。
にもかかわらず、私が日々、複数の企業でエンジニア採用や組織づくりに関わる中で感じるのは、「言われたことだけをやるエンジニア」がむしろ増えているという現実です。
彼らは一見、ミスもなく効率的に仕事をこなしているように見えますが、変化の速い現場では最もリスクの高い存在になりつつあります。
なぜ、指示を待つ働き方が危険なのか?
どうすれば抜け出せるのか?
この記事では、AI時代を生き抜くための三つの力と、現場で本当に評価されるエンジニアの共通点についてお話しします。
目次
なぜ指示待ち人間が増えているのか「低収入でもいい」というマインドは最も危険今求められているのは「社会人基礎力」1. 前に踏み出す力(アクション) 2. 考え抜く力(シンキング)3. チームで働く力(チームワーク) 社会人基礎力をどう磨くか? 利他性とAI活用、そして越境1) 利他性を磨く 2) AI活用スキルを磨く 3) 越境力を磨くキャリアを長く続けるために 利他性、AI活用、そして越境。『type』で掲載中!注目のエンジニア系求人
なぜ指示待ち人間が増えているのか
先日、ある人事から「うちのエンジニアは向上心がないし、働かないんですよ」と嘆いていました。どういうことか詳しく聞いてみると、彼は苦笑いしながら、こんなエピソードを話してくれました。
「雑談ベースで話してくれた内容が、『今月もう1時間も残業しちゃいましたよ』なんですよ。どうしたもんかと思いました」
働き方改革が進んだ世の中とはいえ、たった1時間の残業で嘆かれてしまうとマネジャーからすれば冗談にもできません。
さらに話を聞くと、そのエンジニアは「これ以上頑張るのはタイパが悪い」と言い、今の居心地の良いポジションにとどまり続けているというのです。
マネジャーとしては「このままだと困る」のだけれど、本人に問題意識がない。結果として、誰も手を打てない――そんな状況が静かに出来上がっていたのです。
とはいえ、こうした指示待ち人間が生まれる背景には、時代そのものの変化があります。1992年の新学力観に基づいた学習指導要領が施行されて以降、個性尊重教育が広がりました。
高校教師に話を聞くと「学生を叱っても何も響かない」と嘆きます。そのまま社会人となり、教師が上司に変わってもやはり響きません。強い指導をするとパワハラ扱いされてしまうので最小限の指示に止まるケースも多く見られます。
加えてタイパ思考も問題です。契約時間外での業務遂行である残業時間は彼らに取ってはタイパの悪い働き方です。時間内にお互いに合意したタスクが完了すれば問題有りませんが、残業せずに帰ってしまうという相談も多く頂きます。
本来、何もない時間は、人が「次に何をするか」を考えるための余白です。でもその余白を失うと、行動の起点を外部に委ねる人間が増えていく。「誰かが言ってくれるまで動かない人」が、時代に量産されているのです。
私たちの世代と比べると、今の若い世代は「無料で暇を潰せる環境」が圧倒的に整っているのです。
漫画アプリは広告を見れば無料で続きを読めるし、動画も次々とおすすめが再生される。自分で考える時間や機会が、意識しない限りどんどん奪われています。そうした「自分中心の世界」が成立してしまうのが、現代の特徴なのです。
また、健康な方であっても動画すらも見ていない、究極的に何もしていない方も複数お会いすることがあります。もしかして悟っているのではないか?とも思うのですが個人的に理解するのにまだ時間が掛かりそうです。
「低収入でもいい」というマインドは最も危険
もう一つ見逃せないのが、「低収入でもこのままでいい」と受け入れてしまうマインドセットが出来上がっていることです。この状態こそ、最も危ういポイントだと感じます。
なぜなら、定型業務はAIが代替しやすい領域だからです。もし自分の仕事がAIに置き換えられたとき、「では次に何をするのか?」という問いに答えられない人材になってしまう、そんなリスクを抱えているのです。
以前AI分野の専門家が登壇されていたセミナーで次のようなことを仰っていました。
「AIが全部を代替するわけではない。AIやロボティクスは研究開発費用が発生する。AIに代替させてはコスパが悪いと判断される仕事は、人が残る」
一見すると「人間の出番が残ってよかった」ように聞こえますが、裏を返せば「AIにやらせるとコスパが悪い仕事」をやらされる側になる危険性もあります。
そして、その状態を放置すれば、「AIよりコスパが悪い人間」として切り捨てられてしまう。つまり、考えない人間は、AIよりも安い人件費として扱われるということ。それこそが、AI時代の最大のリスクです。
皮肉なようですが、これは人の優秀さの裏返しでもあります。AI時代に自分にしかできない価値を発揮するためには、「どう働くか」を問い直せるかにかかっています。
今求められているのは「社会人基礎力」
では、今求められているエンジニア像とは何でしょうか。 それは、プログラミングができるとか、アルゴリズムに強いとか、そうしたスペック的な強さではありません。
現場で本当に求められているのは、人としての基礎体力を持っているエンジニアです。
例えば
「分からないことをそのままにしない」
「小さな改善を自分から提案できる」
「チームの成果を自分ごととして考えられる」
こうした姿勢が、結果的に評価と成長につながっていきます。
経済産業省では「社会人基礎力」として定義され、「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の三つで構成されています。
出典:https://www.meti.go.jp/policy/kisoryoku/index.html
エンジニアの現場に置き換えると、次のような意味を持ちます。
1. 前に踏み出す力(アクション)
これは、指示を待たずに動くという意味だけでなく、自分のキャリアを積み上げる覚悟を持つことでもあります。
エンジニアの世界を見ていると、未経験・微経験の方を中心に「今の仕事が肉体労働なのでデスクワークがしたい」とか、「プログラミングスクールで学んだから、すぐに年収イッセンマンに到達できる」といったリセット志向の人をよく見かけます。
私はそういう人たちを冗談交じりに「異世界転生型キャリア」と呼んでいます。
でも、キャリアって本来「生まれ変わるもの」ではなく、「積み上げていくもの」なんですよね。
「Connecting the dots(点と点をつなぐ)」というスティーブ・ジョブズの言葉があります。これは、過去の経験や学びが後から意味を持ってつながるという話ですが、キャリアも同じです。
例えば、ある建築DX企業では、建築業界の現場監督だった方がエンジニアとして採用され、活躍しています。建築現場の痛みを自分の言葉で語れるからこそ、ドメイン知識と現場感が武器になるわけです。
同じように、薬剤師出身で医療DXに関わる人、バックオフィスの業務を理解した上で生成AIを用いて業務コンサルティングをする人など、過去のキャリアを統合して新しい仕事に挑戦している人たちが増えています。
つまり、学びや経験を組み合わせて、自分のストーリーを描ける人が強いということです。
逆に言えば、過去をリセットしてゼロから始めようとする人は、どうしても不利になります。
企業は、「今まで何をしてきたのか」「どういう強みを積み重ねてきたのか」を見ています。新卒や若手であればポテンシャル採用もありますが、社会人経験を持つ人が同じ土俵で戦うのは難しい。だからこそ、過去をリセットするのではなく、活かしてつなげることが勝負になるのです。
2. 考え抜く力(シンキング)
行動だけでなく、「なぜそれをやるのか」を自分の言葉で説明できる人は強いです。
言われた通りにコードを書くのではなく、「この仕様の意図は何だろう」「ユーザーはどんな使い方をするだろう」と考え抜くことが、最終的な品質を決めます。
ChatGPTのようなAIがどれだけ発達しても、正しい問いを立てる力は代替できません。課題の本質を見極め、「How」よりも「Why」を追求する姿勢が、AI時代のエンジニアの命運を分けます。
3. チームで働く力(チームワーク)
最後は「チームで働く力」です。経産省の定義では「多様な人々とともに目標に向かって協力する力」とされていますが、エンジニアの場合は「非ITの人たちとも円滑に仕事を進められる力」のことだと私は思っています。
私が現場でよく強調するのは、傾聴と想像力です。
まずは相手の話を最後までちゃんと聞くこと。長年、いろんな現場でエンジニアや研究職の人たちと仕事をしてきましたが、「これできますか?」と聞かれているのに途中で話を遮って「できます!」と即答し、全然違うものを出してくる人を何度も見てきました。悪気はなくても、これでは信頼を失ってしまいます。
特にDXのような現場では、「こっちの方が効率的ですよ!」と安易に提案して逆効果になるケースがよくあります。なぜなら、その業務フローの背後には法規制や過去の事故対応、社内の合意形成の歴史といった“見えない理由”が隠れていることが多いからです。
だからこそ、「なんでそうなっているのか」を想像し、相手の立場や痛みに寄り添う姿勢が大事です。
そしてもう一つ大切なのが、通訳が要らないことです。
どれだけスキルが高くても、マネジャーが常に間に入って翻訳しなければならない人がいます。それではチーム全体のスピードが落ち、結果的に「コスパが悪い人材」になってしまうのです。
これは大学院時代のアメリカ人の恩師から教わった話なのですが、昔、大学にとある分野の専門家がいたそうです。無愛想な方でしたがそのスキルが高かったため、当時は引っ張りだこでした。しかしその技術が廃れてしまった瞬間に、誰からも声がかからなくなり、孤立し、任期とともに去っていきました。その方の専門分野は穿孔テープでした。「スキルだけで孤立する怖さ」を物語る、象徴的な話だと思います。
ITの世界は技術のサイクルがとにかく速いです。だからこそ、周囲ときちんとコミュニケーションを取り、頼り合える関係を築いておくことが、結果的に自分のキャリアを守ることにもつながります。いくら技術があっても、周りに人がいなければ続けていけません。「話せるエンジニア」であることが、実は一番のサバイバル戦略なんです。
この三つの力は、特別な才能ではありません。どれも日々の仕事の中で磨けるものであり、指示待ち人間から抜け出す第一歩にもなります。
社会人基礎力をどう磨くか?
利他性とAI活用、そして越境
ここまで三つの力についてお話ししてきました。
では、明日から現場で何をすればいいのか。私が強調したいのは利他性とAIの使いこなし、それから越境です。どれも特別な才能ではなく、習慣で身に付きます。
1) 利他性を磨く
今は事業への貢献がシビアに見られる時代です。
30代以降は特に、「あなたは会社に何で貢献できますか?」が問われます。「会社選びの基準」を質問された際に自身の成長性や、働き方を第一に挙げる方はその時点で合否が出ていると言っても過言ではありません。
2) AI活用スキルを磨く
AIは「入れて配れば使われる」ものではありません。
社内ライセンスを配布しても使うのは16%前後(イノベーター+アーリーアダプター層)にとどまることが多いです。ジュニアは指示を出せない、シニアは「自分で書いたほうが速い」で止まる。この壁は、使う人が旗を振るしかありません。
今や新卒採用でも「生成AIを使って開発しているか」が要件化し始めています。使える人ではなく、使って変えた人が評価される時代です。
3) 越境力を磨く
ジュニア→ミドル→シニアへのステップは、確実に厳しくなっています。こういう時代に生き残るには、越境で付加価値を作りながら時間を稼ぐのが現実解です。
私はこの文脈で、「プロダクトエンジニア」が一つの解法なのではないかと感じています。
これは単にコードを書く人ではなく、プロダクトの成長に貢献するエンジニアです。実装(フロントエンド/バックエンド)を軸にしながらも、必要に応じてデータの簡易分析をしたり、ユーザーインタビューに同席したり、業務設計や改善提案に踏み込んだりする。事業に効くなら一歩踏み出す。そうした越境型の働き方です。
一方で、役割を細かく分けたジョブ型の働き方だと、自分の領域が固定化され、パーツのように扱われてしまうリスクがあります。AIや外注に置き換えられるのは、まさにその「交換可能なパーツ」です。だからこそ、枠を超えて動ける人が、代えのきかない存在になっていくのです。
キャリアを長く続けるために
利他性、AI活用、そして越境。
これらはバラバラのスキルではなく、「変化に前向きでいられる人間力」を育てる三本柱です。
利他性は「他者の痛みを想像する力」、AI活用は「道具を自分の言葉で使いこなす力」、越境は「自分の枠を超えて価値を出す力」。
結局、社会人基礎力とは学び続ける姿勢に尽きます。技術もツールも変わっていく中で、考え、動き、人と協働する人が、キャリアを長く続けられる。そしてその力は、AIにも決して奪えない“人間の基礎体力”なのです。
博士(慶應SFC、IT)
合同会社エンジニアリングマネージメント社長
久松 剛さん(
)
2000年より慶應義塾大学村井純教授に師事。動画転送、P2Pなどの基礎研究や受託開発に取り組みつつ大学教員を目指す。12年に予算都合で高学歴ワーキングプアとなり、ネットマーケティングに入社し、Omiai SRE・リクルーター・情シス部長などを担当。18年レバレジーズ入社。開発部長、レバテック技術顧問としてキャリアアドバイザー・エージェント教育を担当する。20年、受託開発企業に参画。22年2月より独立。レンタルEMとして日系大手企業、自社サービス、SIer、スタートアップ、人材系事業会社といった複数企業の採用・組織づくり・制度づくりなどに関わる
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編集/玉城智子(編集部)