挨拶できない、人見知り…自閉症息子と友人の子の違いに溜息。落ち込む母がハッとした言葉
監修:新美妙美
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 特任助教
知人宅ホームパーティーにお呼ばれ。特性のある4歳自閉症息子、連れて行ける……?
たーちゃんが4歳の時、以前働いていた職場の方から、ホームパーティーにお呼ばれされました。ちょうどその日は花火大会があり、ご自宅から打ち上げ花火が見えるということで、「たーちゃんも連れておいで」と親子での参加を勧めてくれました。しかし、ASD(自閉スペクトラム症)のたーちゃんを連れていくかはギリギリまで悩んでいました。
赤ちゃんの頃から不安感が強く、場所見知りと人見知りがひどいたーちゃん。たーちゃんが喜びそうな場所に出かけても、大泣き、癇癪、「こわい!」と叫ばれUターンで帰ってくることも度々……。
4歳になって少しは緩和してきたものの、たーちゃんが楽しんでくれるか、癇癪が起きないか、周りの人の迷惑にならないかは、外出前も外出後も未だに気がかりでした。
ASD(自閉スペクトラム症)じゃなかったら、お出かけ前は「ハラハラ、ドキドキ」ではなく、「ワクワク」だけかもしれないのに……!と特性を恨むような気持ちもありました。
しかし、せっかく誘っていただいたのだから、お世話になった人たちに大きくなったたーちゃんを会わせたい、と思いました。たまには苦手なことにもチャレンジしてみて、私とたーちゃんの成功体験になったら良いな、とも思いました。さらに、たーちゃんと仲良しのPくんとPくんママが来ることも後押しになり、親子でのホームパーティーへの参加を決めました。
練習した挨拶ができなかった息子。社交的な友人の子どもが羨ましくて……
パーティー当日。たくさんの人が集まっている場で、やはりいつもより緊張している様子で私にべったりのたーちゃん。事前に練習していた「こんにちは」の挨拶も、一度もできませんでした。人の少ない部屋に籠りたがり、そこで跳ねたり走ったり……。
対して、初めて会う人にも自ら挨拶をして、大人の輪に入って行く社交的なPくん。癇癪を起こさないだけで花丸!と言いたいところでしたが、Pくんとの違いを目の当たりにして、溜息がでてしまいそうでした。正直、Pくんが羨ましいと感じました。
さらに、偏食のたーちゃんが食べられるものが用意してもらったBBQにはほとんどなく、持ってきたお菓子を食べたりしていました。反対に、初めての食べ物にもチャレンジするPくん。
Pくんのママや友人たち、久しぶり会う職場の方との会話は楽しい。けれど、Pくんとたーちゃんとの差を感じずにはいられませんでした。
友人夫婦との会話で気づいた、たーちゃんの別の一面
パーティー終盤、打ち上げ花火が始まった頃、たーちゃんは、友人夫婦とおしゃべりをしていました。何度かたーちゃんと会ったことがある二人でしたが、人見知りのたーちゃんが大人としゃべっているのは珍しい光景でした。
迷惑になってないかな、と話を聞きに行くと……。
「たーちゃんは興味があることへの集中力がすごいね!」
「知りたい!って気持ちも強くて、話していて面白いよ!」と、友人夫婦が笑顔で言ってくれました。
「花火について教えていたら、すごくよく聞いてくれたんだ」
「ちゃんと教えたことを理解しているみたいで、たくさん質問もしてくれたよ」
「研究職に向いているよ!」と、たーちゃんに感心しているようでした。
確かに、かなり集中して友人夫婦の話を聞いたり、質問をしています。
たーちゃんが花火を好きだなんて知らなかった私は驚いてその様子を見ていました。
そして、友人夫婦の言葉を聞いて、Pくんとたーちゃんを比べてばかりいた自分を恥ずかしく思いました。「たーちゃんには苦手なことがたくさんあるけれど、得意なこともちゃんとある。そのままのたーちゃんで十分素晴らしいんだ」と改めて考えさせられました。
いつもたーちゃんの傍にいる私は、視野が狭くなってしまっていたのかもしれません。たーちゃんのことを新しい側面から見てくれる方々に会って、私もたーちゃんも自信に繋がりました。パーティーに参加するのは親子共に勇気がいりましたが、チャレンジして良かったです。
後日、友人夫婦から一冊の本が届きました。花火のつくり方や歴史が載った絵本です。パーティーで打ち上げ花火を見て以降花火に興味を持ったのか、たーちゃんは私や夫の読み聞かせだけでなく、一人でもよくその本を読んでいます。
子どもの苦手なことについ目がいきがちですが、得意なこと、興味のあることこそ、もっと見つけてあげたいなと思います。
執筆/みかみかん
(監修:新美先生より)
素敵なエピソードを聞かせてくださりありがとうございます。場所見知り・人見知りが強いお子さんがいる場合、お子さんのためにも、その場の雰囲気のためにも、自分のためにも、皆が集う場所に参加するのをためらう気持ちになりますよね。そのため、以前の仲間と疎遠になったりするのもよくあることです。そんな中、思い切って参加してみたものの、やっぱりほかのお子さんと比べてわが子の言動が気になってしまって楽しめないということも実際あるかもしれません。
でも、ご友人夫妻さんの視点がとてもすてきですね!!人見知りのたーちゃんが、打ち解けて花火のことで盛り上がって話せていたのも、ご友人夫妻さんがフラットな視点で話しかけてくれたからなのかもしれないですね。そして、たーちゃんの興味ある話題を引き出して、それをしっかり聞いてくれて、後日、花火に関する絵本まで送ってくれるなんて!!!うれしいですね。
家族以外の人が集まる場に連れて行くのは、なかなか勇気も気力もいることですが、思い切って一緒に参加したことで、家族以外の人からの視点でお子さんのことを見てもらえ、たーちゃんの強みに気づけてよかったです。他人からそんなふうにポジティブに見てもらえると実感できて、親としても心強かったことと思います。いつか、友人夫妻さんの立場で他人のお子さんにもポジティブに関われる人になりたいなとも思いました。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。