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「自ら成長できる」選手を。就任1年で琉球ゴールデンキングスU15を初の全国準Vに導いた末広朋也HC…主導する改革と“世界基準”の指導論

OKITIVE

世界に通用する選手の育成を掲げる末広氏
ベンチから指示を送るキングスU15の末広朋也ヘッドコーチ=沖縄アリーナ、10月(長嶺真輝撮影)

プロバスケットボールBリーグに所属する琉球ゴールデンキングスのユースチームが存在感を増している。 現在、キングスが育成に取り組むのは中学生年代の「U15」、高校生年代の「U18」の二つ。2018年に発足したキングスU15は、今月の4〜8日に東京で行われた部活動、ユースチーム、街クラブが垣根を越えて日本一を争う「京王Jr.ウインターカップ2024-25 2024年度第5回全国U15バスケットボール選手権大会」で初の準優勝を果たし、2021年に走り出したキングスU18もBリーグユースの大会で毎回上位に食い込む。 結果を残せる背景には、キングスが育成環境の整備に力を入れていることがある。将来的にはユース出身の選手がトップチームで活躍し、常勝カルチャーを下支えする存在になる青写真を描いており、Bリーグの中でもいち早く強化に乗り出したクラブの一つだ。 中でも、キングスU15は改革の真っ只中にある。 主導するのは、2024年から指揮を執り始めた宮古島市出身の末広朋也ヘッドコーチ(HC)だ。日本代表の各カテゴリーでテクニカルスタッフ(戦術分析)を務め、名古屋ダイヤモンドドルフィンズ(名古屋D)U15のHC時代には「Bリーグ U15チャンピオンシップ」で3連覇を達成。就任からわずか1年でキングスU15を準優勝に導いた今月のJr.ウインターカップでは、キャプテンの#29宮里俊佑と副キャプテンの#54越圭司が大会ベスト5に選出され、優れた育成手腕を示した。 地元へ戻り、沖縄からBリーグ、そして世界へと羽ばたく選手の育成に注力する末広HCの歩み、指導論に迫る。

宮古島から東海大に…「奇跡」重なり日本代表スタッフへ

インタビューに答える末広ヘッドコーチ

保健体育の先生になって、部活動でバスケットを教えたいー。 「成功体験を積ませてくれるいい大人との出会いがありました」と、ミニバスケットボールチームに入っていた宮古島市立西城小学校時代に将来の夢が決まった末広氏。西城中学校、宮古高校を経て、教員免許を取るために東海大学に進んだ。 在学中は勉学の傍ら、女子日本代表のアシスタントコーチなどを歴任してきた鈴木良和氏が主宰するバスケの個別指導教室「エルトラック」でコーチングを学んだ。将来の目標は「宮古島の子たちを日本一にする」こと。大学4年時からは強豪で知られる東海大の学生コーチとなり、身長が小さい島の選手たちで全国に挑むことを想定して緻密な戦術分析に力を入れた。 すると、名将で知られる東海大の陸川章HCから人生の転機となる誘いが舞い込む。 「台湾で開催されたウィリアム・ジョーンズカップに日本代表のビデオ撮影スタッフとして帯同できないか、というものでした。あの頃はまだ戦術分析のスタッフが定着していなくて、陸川先生が日本協会の方に『こんな奴がいるぞ』と僕の名前を出してくれたんです。喜んで参加しました」 当時、女子日本代表の前HCである恩塚亨氏がテクニカルスタッフを担い始めた時期で、分析の高度化が進む世界の潮流に乗るためにも、男子代表にも同じ役職を導入しようという流れがあったという。台湾での働きぶりや学生コーチとしての日々の活動が評価され、正式に日本協会の職員として代表スタッフ入りすることを打診された。 多くの学びが得られるであろうチャンス。「いろんな奇跡がピタッと重なり、普通ならあり得ないような話を頂きました」。宮古島で教員になるという夢はひとまず後ろ倒しにし、自身の知見を広げるため、大学卒業と同時に新たな世界へ飛び込んだ。 男子代表のテクニカルスタッフを担ったのは2011年から2018年までの7年間。U16からトップチームまで全てのカテゴリーで代表チームに帯同し、各世代のワールドカップも経験した。巧みな戦術や、緻密なスカウティングを無にしてしまう程の強烈な個など広い世界を目の当たりにし、「バスケットボールのゲームを見る方法」を学んだという。 「よく『リバウンドを制するものは…』などと言われたりしますが、そういう勝つために必要な部分への着眼点が自分の頭の中でパッパッと浮かぶようになりました」と話す。黒子として積み重ねた貴重な経験の連続が、その後のコーチキャリアに生かされることは言うまでもない。

3〜4カ月で方針転換…練習メニューに工夫を

ベンチで選手たちに語り掛ける末広ヘッドコーチ

2018年に日本協会を退職後、指導に専念できる環境が整っていた名古屋D U15のHCに就任。満を辞してコーチの道へ足を踏み出した。 しかし、初めから順風満帆とはいかなかった。「日本の各カテゴリーで結果を残しているコーチたちの下でテクニカルスタッフを務め、世界中のバスケを見てきました。知識が豊富になり、いわゆる『頭でっかち』な状態でのスタートでした」と振り返る。 選手の動きや振る舞いをじっくりと観察する現在の姿とは真逆だが、当初は練習中に「よく喋っていた」という。いろいろな局面における相手ディフェンスの突破の仕方、その反対の守り方、1対1で重視する部分。あらゆる知識を言葉で伝えた。しかし3〜4カ月が経過した頃、ある事にふと気が付いた。 「選手が上手くなっていない…」 どう戦えば勝利に近付けるか、どんな選手になれば世界でも戦えるか。これまでの経験から、自身の中での答えはある。ただ、それらが選手に伝わり、個々の成長につながらなければ意味がない。 現状を打破するため、すぐに行動に移した。学校の夏休み期間を利用し、全国で実績を挙げている中学、高校年代のコーチたちを訪ね歩いた。すると、日々の練習において「ある程度、精度は大雑把でもいいから、運動量のあるメニューをこなす」という共通部分が見えてきた。 「ミニバスや中学生年代の選手たちはまだ経験が浅いので、コーチが多くを喋って伝えるよりも、体を動かしながら頭の使い方を身に付けていった方が超一流の選手が育つ可能性が高い。そういう結論に至りました」 それ以降は、伝えたいメッセージのほとんどは練習メニュー自体に込めるように工夫した。開始前に話す注意点は二つ、三つのみ。取り組んでいる間はほぼ喋らず、その練習で何が求められているかを自分で考えさせる。次に同じメニューをする時は、前回足りなかった部分を伝え、改善するためにまた考えさせる。 自ら考える“余白”を作ったことで、試行錯誤しながら課題を乗り越えていける選手が少しずつ増えていった。考える習慣が身に付けば、コート上で選手同士が会話することも増え、試合中のアジャスト能力も当然向上していく。結果、名古屋D U15はトーナメント形式でBリーグU15ユースチームの頂点を決めるチャンピオンシップで3連覇という好成績を残した。 当時、名古屋D U15で主力の一人だった今西優斗(高校3年)は現在、名古屋D U18でキャプテンを務め、ユース育成特別枠でトップチームにも帯同する。昨年11〜12月に行われたU18チャンピオンシップでもチームを初優勝に導き、自身は大会MVPに輝いた。 昨年12月に沖縄アリーナでキングスU18と試合を行った際、U15時代の振り返りを聞くと、今西は「末広さんから『自分のカテゴリーを超えて活躍することに意味がある』と言われ、常に『上へ』ということを意識しています。特にキャプテンをさせてもらった中学3年の時は、コート内外で責任感を持つことも含め、自分が変わるきっかけになりました。得たものが多い3年間でした」と感謝を口にした。

「競争環境」の導入と人間性の向上に注力

キングスU15でキャプテン務め、多彩なスキルを持つ宮里俊佑

末広氏は名古屋D U15に5年間在籍した後、2023年にキングストップチームのサポートコーチに就任。2024年の年明けからは本格的にキングスU15の指揮を執り始めた。活躍の場を移した最大の理由は、旧知の仲であるトップチームの桶谷大HCの存在だったという。 「桶さんはbjリーグ時代にキングスを強くし、いろんなチームを巡った後、またキングスに戻って結果を残しています。シンプルに、どういった部分がすごいのかを身近で見てみたいという好奇心がありました。そこから学べることがあるだろうし、桶さんが率いるトップチームで活躍する選手を育てたいというモチベーションも湧いてきました」 まず取り組んだことは競争環境の整備だった。 所属選手をそれまでの約2倍となる44人に増やし、練習はAチームとBチームに分けた。主に公式戦に出場するAチームに入れるのは全体の3分の1ほど。プレーの質や日々の練習に取り組む姿勢などを評価基準に、頻繁に選手を入れ替える。 競争を促すことは、この年代ならではの理由がある。 「以前のキングスU15は、トライアウトに合格した限られた人数を育成していました。U18やU22であれば、その手法でも良いとは思いますが、ミニバスを卒業する段階のトライアウトでは、まだ将来性が見えない子も多くいます。だからこそ、競争も含めて選手たちが『もっと頑張りたい』と思える環境を作る必要があると考え、人数を増やしました」   人間性の向上も重視するポイントの一つだ。「タイトルを目指すことと、それに見合った人間性を育てることをセットで取り組まないと、大人になった時に社会で必要とされるような人材を育成することはできません」と強調する。 週に1回、コートでの練習がない日に実施する「オンラインプラクティス」では、選手たちの内面にさまざまなことを訴え掛ける。日々の習慣や著名なスポーツ選手の生き方などをテーマに、一人ひとりが意見を出し合う。 ある日の回では、以下のような事を伝えた。 「みんなキングスU15を卒業する日が来るけど、その時に後輩からどういうメッセージを読まれたいかを想像してみてほしい。『身長が高かった』『バッシュが格好良かった』などの表面的な評価がいいのか、『辞めそうになった時に先輩のおかげで頑張れる力をもらった』『先輩の挨拶がすごく気持ち良かった』とか、真似をしたいと思ってもらえる人でいたいのか。そのイメージは、今をどう生きるかにつながってくるからね」 自らを客観的に見て、どういう人間でありたいか。そして、将来的にどういう人間になっていきたいのか。第三者的な思考や計画性は、選手がキャリアを積み重ねていく上でも重要だと考える。 「例えば、今後選手たちが代表チームのメンバーを決めるトライアウトに参加するとします。呼ばれた時点で、それぞれにシュートやパス、リバウンドなどの強みがある事はコーチも分かっています。であれば、コーチ達は仲間の好プレーを称えたり、一番早くコートに来て準備をしたりする人間性をプラスアルファで評価しますよね。その期間、どうすれば選考されるかを考えて過ごせるかどうかは、とても大事なことです。そこで人生が変わるかもしれないので」

173cmのNBA選手「河村勇輝」に見る世界基準の選手像

末広氏から指導を受けるために愛知県から沖縄に引っ越し、キングスU15に加入した副キャプテンの越圭司

中には、U15の年代でここまで高い水準のメンタリティを求めることに「厳しい」と感じる人もいるかもしれない。しかし、Bリーグは「世界に通用する選手やチームの輩出」をスローガンの一つに掲げており、各チームのユースもこの目的を共有している。国内トップクラスの選手たちと長らく接してきた末広氏は、この年代で既に将来性の違いが出ることを実感してきたという。 代表例に挙げるのが、身長173cmという小柄ながら、日本人史上4人目のNBAプレーヤーとなった河村勇輝である。 河村がU16日本代表の選考を兼ねた強化合宿に招集された時のことだ。 「彼のディフェンスのやり方が怠けて見えて、僕が『こういう風にやらないと、今後生き残っていけないよ』と改善を促したことがあります。人間は誰しも弱さがあるから、すぐに習慣化することは簡単ではありません。しかし、河村は僕が言った翌日から、求めた基準を一度も下回ることがありませんでした。彼は今でも、相手の技を盗んですぐに自分のものにすることを強みにしていますが、あの吸収力、謙虚さは素晴らしいの一言に尽きます」 末広氏は「僕はコーチではなく、戦術分析のスタッフだったので、まともに聞く耳を持たないという反応でもおかしくはないですよね」とも言った。確かに、それもうなづける。学生の段階で世代別日本代表に選ばれる程の力があれば、ややもすると、井の中の蛙になってしまっても不思議はない。しかし、河村にはそういった傲慢さは皆無だったという。 常に基準を「世界」に置き、自らに妥協を許さない河村はその後、BリーグでルーキーイヤーにレギュラーシーズンMVPを獲得し、日本代表エースの地位を固めてW杯やパリ五輪で世界を驚かせた。そして、23歳にして世界最高峰リーグNBAの重たい扉をこじ開けた。 決して体格的に恵まれた訳ではない河村が辿った道筋は、学生の頃から備えていた優れた人間性が、自らのキャリアを切り開く上でいかに重要な要素だったかを体現していた。だからこそ、末広氏は「ああいうプレーヤーとの触れ合いがあったからこそ、育成したい選手像は明確に見えています。選手たちには河村のような人間性を求め、それを基準に接しています」と語る。

世界に通用する選手の育成を掲げる末広氏

Bリーグが開幕して9年目。日本バスケ全体が盛り上がりを見せる中、育成の場も従来の部活動に加え、Bリーグユースや街クラブなど多様化が進んできた。それぞれに特性がある中、末広氏はキングスU15を「プロを目指す集団として突き抜けていきたいと思っています」と展望する。 現在、キングスU15でキャプテンを務める宮里俊佑や副キャプテンの越圭司は明確にプロを目指すと公言し、同世代の中では全国でも指折りのガードに挙げられる。練習中、試合中ともにチームメイトにポジティブな声掛けをすることも多く、リーダーシップも日々向上している。 ただ、本人たちの口から出るのは「まだまだ」「課題が多い」という言葉が多い。それは、自らが描く将来像に向けて成長していくために、何が課題であり、何を伸ばしていくべきかという点に常に目を向けているからなのだろう。その姿は、正に末広氏が求める「自ら考え、自分で成長していく」という理想の選手像に近付いているように見える。 徐々に“末広イズム”が浸透してきたキングスU15。これから、どんな「突き抜けた」選手たちが生まれてくるのか。将来、彼らがキングストップチームを背負って立つようなプレーヤーになることも期待しながら、注目したい。

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