来日公演間近!スティング73歳の現在地〜ポリス以来のトリオ編成「STING 3.0」に託す挑戦
来日公演を控えたスティング
スティングは現在73歳(2025年9月現在)。来日公演が決まったと聞いて、私はためらわずチケットを押さえた。若い頃と変わらぬスリムな体型を維持し、いかにも健康的な姿を見せる彼だが、年齢を考えれば、今後そう何度も日本でその歌声に触れられるわけではない。そんな思いが背中を押した。
今回の来日公演は “STING 3.0” と銘打たれている。3.0 ──つまりトリオ編成だ。ギターとドラムを従え、スティングはベースを弾きながら歌う。ポリスそのものではないにせよ、このスタイルを前にすると、どうしても “ポリス的な何か” を期待してしまうのがファンの性だ。
スティングはソロに転じてから、まずは大所帯のバンドを編成し、ジャズプレイヤーを起用して、ポリスとは正反対のアプローチを試みた。しかし、3作目のアルバム『ソウル・ケージ』(1991年)以降はシンプルなバンド形態に軸足を移し、長いキャリアを歩んでいる。さらに2019年には、セルフカバーアルバム『マイ・ソングス』を発表。ポリスからソロまで代表曲を総ざらいするツアーを展開。スティング自身がある種の回顧モードに入ったことを示す動きでもあった。
「STING3.0」という挑戦
そんな中で登場したのが “STING 3.0” である。2025年4月に発表されたライブ盤『3.0 ライヴ』は、ポリスとソロの名曲を網羅しながらも、ロックバンドの最少編成だからこその力強さを響かせている。ここで聴けるのは、初期ポリスのようなパンク / ニューウェーブ的なスピード感ではなく、的確な音を的確な場所に配置したスマートで知的な演奏だ。派手さはなくとも自在なフレーズを操るギタリスト、ドミニク・ミラーの存在感は圧倒的で、まさに3.0の音の骨格を支えている。
スティングのボーカルも健在だ。若い頃のように突き抜けるハイトーンボイスではないが、少し鼻にかかった独特の響きは健在で、一聴すればスティングだと分かる個性を放ち続けている。サビでは力強く声を張り上げ、73歳という年齢を忘れさせるほどの現役感を示すのだ。
そう、この来日公演の予習に最適なアイテムが、日本独自仕様の『3.0 ライヴ(ジャパン・ツアー・エディション)』だ。ボーナストラック「フラジャイル」に加え、2022年にフランス・ロワール渓谷の古城で行われたライブを収めたブルーレイを同梱。雄大な景観を背に演奏されるヒット曲の数々は、まさに目と耳でスティングのライブを存分に味わうことができる魅力的な作品といえる。
ポリスとは違うスティングの新しい魅力
充実したライブ活動を展開中のスティングだが、今回のトリオ編成であればポリスとの比較は避けられない。スティング自身もそれを理解しているはずだ。それでも彼はあえて挑んでいる。単なる原点回帰ではなく、比較されるリスクを織り込みながら “ポリスとは違う新しい魅力” を提示しようとしているのだろう。
実際、“STING 3.0” による新曲「アイ・ロート・ユア・ネーム(アポン・マイ・ハート)」は、堂々たるロックバンドの硬質な音を響かせている。今後、3.0仕様のスティングがスタジオアルバムを制作するのかは現時点では不明だが、期待を抱かせる出来栄えとなっている。
キャリアを総括した後も歩みを止めないスティング。回顧をふまえてなお挑戦を続ける姿は、音楽家として決して失われないプライドの高さを感じさせる。73歳の今だからこそ実現できる “STING 3.0” の音を、私たちは来日公演で目撃することになる。きっとそれは、単なる懐古でも模倣でもなく、スティング物語の新たな一章として心に刻まれるはずだ。