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子どもが夢中の「サバイバル」「デスゲーム」 大人は「過激な中身」が心配! 想定外の効能と人気の理由を〔出版ジャーナリスト〕が深掘り 

コクリコ

なぜ、子どもは生死をかけたサバイバルやデスゲームの物語に惹かれるのか? 親が『過激では?』と心配する作品にこそ隠された、子どもたちの好奇心と成長のヒントがあると出版ジャーナリスト・飯田一史さんが徹底解説。「サバイバル」「デスゲーム」のおススメ3選を紹介(連載5回目)。

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なぜ子どもたちは生死をかけた「サバイバル」や「デスゲーム」の物語にこれほど惹かれるのでしょうか?「内容が過激すぎるのでは?」と心配になる保護者の方も多くいるでしょう。しかし、出版ジャーナリストの飯田一史さんは「それは大きな誤解」といいます。

そこで今回は、子どもたちが「サバイバル」「デスゲーム」に熱中する本当の理由を解説。保護者が安心して子どもに薦められる「サバイバル」「デスゲーム」のおススメ小説3選を紹介します。

子どもたちの「好き」の裏にある意外な真実を、一緒に探ってみませんか?

「サバイバル」物語に子どもが惹かれる理由

キャラクターたちの生き残りをかけたサバイバルものは、とても人気があります。
ここ十数年は学習マンガの『サバイバル』シリーズが未就学児~小学生(とくに男子)の定番に。

古くは『十五少年漂流記』(著:ジュール・ヴェルヌ)があります。子どもたちだけで暮らし、冒険をするという意味では『ピーター・パン』(著:ジェームス・マシュー・バリー)も入れてもいいかもしれません。

写真:アフロ

大人と違って子どもたちは普通に生きているだけで未知のことにたくさん遭遇します。

家の近所であっても行ったことがない場所にちょっと足を踏み入れるだけでドキドキしますし、迷子になりかけたらパニックです! そんなとき、必ず大人に頼ることができるわけではありません。自分(たち)だけでどうにかしないといけない。

あるいは逆に、大人の目から離れて、自分たちだけの空間をつくり、自分たちのルールで運営してみたいという独立心もあるでしょう。昔でいえば「秘密基地」作りですね。

サバイバルものは、こうした「大人に頼れない状態の怖さ」と、「大人がいない世界の自由さ」の両面を疑似体験できることが魅力になっています。

「デスゲーム」も大人が過度に遠ざける必要はない

サバイバルものから派生するようにして1990年代末に刊行された『バトル・ロワイアル』(著:高見広春/太田出版)をきっかけに、いわゆるデスゲームものが登場しました。2000年代には『王様ゲーム』(著:金沢伸明/双葉社)や、『リアル鬼ごっこ』『×ゲーム』(著:山田悠介/共に幻冬舎文庫)などが流行しています。

デスゲームものは生死をかけたゲームの緊迫感、場合によっては子ども同士で脱落者を選ぶ、殺し合いをする、という設定の過激さが物議をかもしました。

大人が積極的に読ませたい本ではなかったものの、中高生からは熱い支持を得て、今でも一定の人気があるジャンルとして残っています。

誤解している大人が多いのですが、読者はデスゲームで人が脱落していく様子を、猟奇的に楽しんでいるわけではありません。殺人事件が起こるミステリーで、人が死ぬこと自体を楽しむ人がいないのと同じです。

・主人公たちが死や脱落を回避するために必死で知恵をしぼり、決死の行動をする様子・日常生活ではきれいごとや表面的な部分にとどまっていた人間関係が、死を前にしてふだん見せていないお互いの本性や本音が垣間見えるところ

・家族や仲間、想い人に託して散っていく献身的な姿

このようなところに惹かれています。ですから大人が過度に心配したり、遠ざけたりする必要はないと思います。

2010年代にはデスゲーム、サバイバルものの表現をソフトにして、小学生でも安心して読めるシリーズが児童文庫で次々に始まり、人気を集めます。

選書①『人狼サバイバル』

『人狼サバイバル』(著:甘雪こおり/講談社)もそういう流れから出てきた人気作品ですが、ひと味もふた味も違います。

『人狼サバイバル 一触即発! 虹の橋の人狼ゲーム』
作:甘雪こおり/絵:himesuz(講談社)

人狼は「村人陣営」と「人狼陣営」に分かれて、会話や推理を使いながら自分の陣営の勝利を目指すコミュニケーションゲームで、『人狼サバイバル』はこの人狼探しのゲームをベースにしたサバイバルもの。

デスゲームものでは、最後まで生き残るか、主催者に勝った参加者の願いがかなうといった設定がよく見られます。『人狼サバイバル』もそうなのですが、参加する中学生たちの動機・背景や、叶えたい願いが時折、非常に考えさせられるものになっています。

詳しくはネタバレになるので避けますが、ネグレクト(保護者からの虐待)や人類に争いをやめさせるために人間のある部分を根本的に変えてしまう、といったものがあります。

しばしば「海外のティーン向けの小説と比べると、日本では社会問題について扱った人気作品が少ない」といった否定的な声があがりますが、『人狼サバイバル』はサバイバルもののドキドキ感や推理のおもしろさを提供しつつ、同時に読者にとって身近な問題から国際紛争・戦争まで、登場キャラクターに感情移入させながら問いを投げかける作品になっています。

選書②『ブルーロック』

『小説 ブルーロック1』
文:吉岡みつる/原作:金城宗幸/絵:ノ村優介(講談社)

『ブルーロック』は、世界一のストライカーを育てるために日本中の高校生フォワード300人が集められ、サバイバルに挑むサッカー漫画。ノベライズ版も男女問わず、とても人気があります。

物語は、日本代表をワールドカップで勝つチームにするために個性的なストライカーだけを集めた“青い監獄(ブルーロック)”プロジェクトが始まり、主人公・潔世一(いさぎ・よいち)たちは、他の選手を蹴落として日本代表入りをめざす極限の試練に挑みます。参加者たちは脱落するとサッカー人生も終わってしまうという緊張感あふれる競争が魅力です。

協力よりも自分の「エゴ」を磨いて突き抜けた個性を競い合う、といったことが、作中冒頭では言われます。しかし実際のところよく読むと、それぞれの選手は、チームメイトや対戦相手との戦いのなかで自分らしい武器が何なのかに気づき、尖らせていくことで、むしろチームに貢献できる存在になっていきます。

個々人が自分の長所を使い合うことで集団としてうねりが生まれる、という『ブルーロック』の描写は、お互いに気をつかって遠慮しがちな若い読者に「もっと自分を出してもいいんだ」と背中を押すものになっています。

スポーツをやっている子たちにとっては、レギュラーに入れるかどうか、試合で勝てるかどうかはサバイバルそのものですから、その心理を漫画らしい誇張で表現しているとも言えます。部活で忙しいとか、身体を動かすのは好きだけどあまり本に興味を示さないという子でも、『ブルーロック』なら読んでくれるかもしれません。

選書③『6days 遭難者たち』

『6days 遭難者たち』
著:安田夏菜(講談社)

リアリティラインがもっとぐっと現実よりのサバイバルもので中高生向けの小説としては『6days 遭難者たち』(著:安田夏菜/講談社)があります。

高校生3人が日帰り登山をしたところ、夏に低い山という油断、それぞれの「誰かがなんとかしてくれる」という甘えから準備不足が重なり、生死をさまよう遭難事故に陥ります。

大人でも調子に乗っていたり、逆に気持ちに余裕がなかったりすると、とんでもないミスをやらかすものです。私は中学生のころに、同級生が海難事故やバイク事故で亡くなっています。10代は経験が少ないことや感情で突っ走りがち、仲間に対して見栄を張りがちな年代であることもあって、よけいにリスクを見誤りやすいと思います。

『6days』では、若者が集まったときに「なにかやらかしてしまう」「大きな事故を起こしてしまう」ときの心理的なメカニズムを丁寧に描いています。思春期の人間は、大人から「気をつけなさい」などと言われても「わかってる」と答えつつ、内心「うるさいな」と思っていて聞くわけもないのです。それが普通です。

そういう年ごろの子どもたちに、「危険は意外と身近にある」と実感してもらうためには、同年代の主人公たちの視点を通じて体験できる物語が有用だと思うのです。

現実には、サバイバルもので描かれているような切羽詰まった状態に追い込まれないに越したことはありません。ただフィクションを通して恐怖への備えを身につけたり、自分と似た環境にいるキャラクターから勇気づけられたり、登場人物たちの生き方から自分の人生や人間関係を考えたりする良い機会になります。

大人から見て「刺激が強そうだけど大丈夫かな」と感じることもあるかもしれません。しかし近年、小中高生に人気のサバイバル、デスゲームもので残虐・残酷な描写が直接的に描かれている小説は非常に少ないのです。

刊行する児童書やティーン向け小説の編集部も、表現には十分気をつけていますので、保護者の方はあまり心配せずに、子どもの読書を見守ってあげてほしいと思います。

文/飯田一史

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