「江戸名所図屏風」と都市の華やぎ
古くは地方の一都市に過ぎなかった江戸。家康が天下を取ると町は急速に発展し、世界有数の大都市になりました。 《江戸名所図屏風》は、草創期の江戸の様子を描いた作品です。じっくり見ていただくため、屏風を開ききった状態で、ケースのガラス面に寄せて展示。できるだけ近くで鑑賞できるようにという、嬉しい配慮です。 屏風は八曲一双という珍しいスタイル(二曲や六曲が一般的)。背が低い事もあって、全体のフォルムは極端な横長で、まるで絵巻のように感じられます。 《江戸名所図屏風》に描かれているのは、右隻の上野・浅草から、左隻の品川まで。方位は「右が北、左が南」になるので、現在の地図(上が北)と異なりますが、江戸を描いた地図は「右が北、左が南」も数多く見られます。 制作年は確定できませんが、寛永20年(1643)年に完成した浅草の三十三間堂が描かれている事から、それ以降に描かれた事は確実。発注者も分かっていませんが、左隻第1扇の向井将監邸や近くの舟遊びに具体的な紋が描かれている事から、向井家の関与が推測されます。 描かれた人々の姿は、とても賑やか。所作も生き生きとしており、どの場面を切り取っても話し声が聞こえてきそうなほど、臨場感に溢れています。
重要文化財《江戸名所図屏風》 《江戸名所図屏風》は新興都市の江戸を描いた作品ですが、その先例といえるのが、京を描いた「洛中洛外図」。「洛中洛外図」は現存するだけで100件以上ある事から、極めて人気の高い画題だった事がわかります。 町全体を描いた「都市図」の系譜は、時代が下ると徐々に局地化し、特定の場所が描かれるようになります。中でも数多く描かれたのが、遊里と芝居町などの歓楽地。確かに《江戸名所図屏風》でも、木挽町の芝居小屋は目立ちます。 浮世絵にも都市生活の場面が登場します。風景画に美人画を加えた例、逆に、美人画の背景に名所を描いた例と、先例を踏まえつつ、絵師たちはそれぞれの世界を作っていきました。
会場 とにかく見どころが多い《江戸名所図屏風》。細部まで楽しみたい方は、単眼鏡があればベターです(ミュージアムショップでも売っています)。 そして、図録もおすすめ。《江戸名所図屏風》は、左右それぞれ3段×16列、計96分割の拡大図が掲載されています。これだけ拡大されていれば、かなり細かいところまで堪能できます。 [ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2018年7月31日 ]
企画展だけじゃもったいない 日本の美術館めぐり
浦島茂世(著)
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