エンジニアの本当にあった怖い話「ヒヤリハット」から学ぶミス・トラブルの防ぎ方&対処法
エンジニアリングの世界では、わずかなミスが重大なトラブルに発展することは珍しくない。こうした事故を未然に防ぐには「ヒヤリハット」の段階で対処することが有効だ。
では、エンジニアたちが実際に直面した身の毛もよだつような恐怖体験には、一体どのようなものがあるのだろうか。
そう思い立ったエンジニアtype編集スタッフは、2024年6月24日に開催されたイベント【本当にあったエンジニア恐怖体験2024】に参加!夏の訪れを感じる少し前に、思わずゾッとする体験から学べる教訓を探してみた。
目次
現役エンジニア3名の「本当にあった怖い話」【1】戦慄! 客先レビューでのホワイトアウトの怪異……【2】アプリ審査の無限地獄……【3】リセットしたDB、もしかして……「怖い」と思える気持ちが命綱になる
現役エンジニア3名の「本当にあった怖い話」
【本当にあったエンジニア恐怖体験2024】はオンラインで実施され、イベント当日は70名強の参加者が集まった。
主催のROSCA株式会社・Saho(
@ROSCA_PR)さんは、今回のイベントの実施背景についてこう語る。
Sahoさん:このイベントは『もうすぐ夏!』ということで、エンジニアの方なら思わずゾッとしてしまうIT怪談を集めてみたい!というアイデアからスタートしました。想像よりも多くの方にご参加いただき、恐怖を感じられる会にできたと思っております(笑)
ただ、怖い!というだけではなく、登壇者の皆様が『どんな恐怖体験もいつかは笑い話にできる』とポジティブにおっしゃっていたのが印象的でした
それではイベントで語られた、現役エンジニア3名の「ヒヤリハット」事例を見ていこう。
【1】戦慄! 客先レビューでのホワイトアウトの怪異……
まず一人目のスピーカーは、株式会社ゆめみのテックリード・そば屋さん(@sobaya15)だ。そば屋さんは、アプリ納品直前の恐怖体験を語った。
そば屋さん:数年前、VBでのデスクトップアプリ作成をしていた時の話です。その案件はデザインも要件もシンプルで、スムーズに実装を終えて納品を迎えました。そして実装したアプリを納品先のPCに入れて、20人くらいの前でお披露目会を行ったんです。
しかし、いざアプリを起動しても1mmも動かないという事態が発生。作った画面に遷移しようといくら操作しても動かず、挙げ句の果てには画面がホワイトアウトして何も表示されなくなる始末……。納品物のコードを見ても、バージョンを確認しても問題ない。原因が分からない中で「自分一人でこの場をしのぐしかない」と思い、冷や汗が滝のように出たことを覚えています。
半泣きになりながら操作をしていたのですが、ふと『そもそもPC全体の動作が遅くないか?』という疑問が。メモリを確認してみると、32MBしか積んでいなかったんです。そのため、画面遷移のアニメーションを描画することができていなかったんですよ。要は、ただのメモリ不足だったというワケです。
株式会社ゆめみ
テックリード
そば屋さん (
)
2日酔い系Androidテックリード&DevRel。毎日二日酔いになっていたらテックリードになり、会社の経費でビールの食品サンプルを買ってもらった不思議な経歴の持ち主。最近はKMPにハマりiOS担当との戦いに燃えている
【2】アプリ審査の無限地獄……
続いては、ウェルスナビのEM・mkitahara(@mikity01985)さん。モバイルアプリ開発で経験してきた恐怖体験を、いくつかのパターンに分けて紹介した。その中から、アプリ開発ならではの恐怖エピソードを紹介しよう。
mkitaharaさん:アプリの承認作業は、恐怖の種の山です。
例えば、配信プラットフォームの審査に出したアプリがなぜかリジェクトされてしまうケース。リジェクトの理由が不明瞭で、どう対応すればいいか分からない。そうこうしているうちにリリース日が迫ってくる……。そうした焦りや絶望は、何度も経験しました(笑)
こうしたトラブルが起きてしまう背景にはいくつかの理由がありますが、その一つに『決めること・終わらせることへの恐怖』があると思っています。ミスを過度に恐れて、仕様や要件を決めることに極端に時間を掛けすぎてしまうことは、できる限り避けたいですよね。
ウェルスナビ株式会社
エンジニアリングマネジャー
mkitaharaさん (
)
大学院で物理化学を専攻し高等学校教師を目指していたが、ソフトウェアへの興味から新卒でIT業界に就職。Edtech企業でAndroidアプリ開発に従事した後、教育以外の分野での活動に必要な能力を探求するため、2023年7月にウェルスナビへ転職。エンジニアリングマネジャーとして、同社のアプリ開発をリードしている
【3】リセットしたDB、もしかして……
三人目のスピーカーは、ゲシピ株式会社でテックリードとして活躍している吉永伊吹さんだ。良かれと思ってとった対応であわや……というエピソードを披露した。
吉永さん:私の会社では『eスポーツ英会話』という、ゲームをしながら英会話を学べるサービスを開発しています。その日は新規のテーブルやカラムを追加する作業が必要だったので、ステージング環境・本番環境のそれぞれから流れるエラーログを調査したり、GUIのクライアントツールを使って複数環境のDBを行ったり来たりしていました。
いろいろと作業をしているうちにテーブルが複雑になってきたので、『一旦リセットするか』と軽い気持ちでテーブルの消去作業をしたんです。ただいつもよりやけに動作が遅く、イヤな予感が……。ハッとしたのはテーブルを全て消しきった後。なんと、DBの切り替え確認を忘れていたんです。
『本番環境のデータを消してしまったかもしれない』と、とにかく焦りまくったあの時の感覚は今でも忘れられません。結果的には消してしまったのはステージング環境のDBだったのですが、全ての対処を終えた後に、とても軽率な行動だったと深く反省しました。
ゲシピ株式会社
フルスタックエンジニア
吉永伊吹さん(Yoshinaga-iwnl)
高校在学中にゲシピ株式会社でライターとしてインターンを開始、数社での就業経験を経て、2022年よりCTOに次ぐ最初のエンジニアとしてゲシピ株式会社に入社。技術選定から運用まで、独走して作り上げる気力と幅広い守備範囲が強み
「怖い」と思える気持ちが命綱になる
3名が語ってくれた恐怖体験はいずれもエンジニアであれば身に詰まされるものだった。こうした恐怖を味わわないようにするには一体どうすれば良いのだろうか。
スピーカーの一人であるmkitaharaさんは、イベント中に次のように語った。
mkitaharaさん:恐怖を抱くこと自体はとても良いことだと思うんです。
ヒヤリハットが起きるのは、往々にして自分の能力を過信してしまっているときや、作業に慣れてきて慢心しているとき。『この作業、怖いな』と感じるのは、業務内容を真に理解できている証でもあります。
慣れている作業こそ、手順やルールを明確化することが大切だと思います。
「これまで何度もやっているから大丈夫」「またこの作業か。面倒だな」と思っているケースでは、恐怖すら覚えないというのは確かに想像がつく。至極当然のことではあるが、油断大敵を肝に銘じたい。
ただ、エンジニアも人間だ。どれほど気を付けていようとも、ミスやトラブルを完全に防ぐことはできない。背筋が凍るような体験をしてしまったときに、意識したい心掛けを、吉永さんとそば屋さんはこう話す。
吉永さん:まずは、本当にミスをしてしまったのかどうか、焦らずに確認することが大事だと思います。焦りからくる思い込みで、本来はより簡単に対処できるケースを悪化させてしまうことは避けたいですね。
そば屋さん:誰しもミスはしてしまうので、落ち着いて周囲のメンバーに状況を共有して、地道に対処していくしかありません。そして改善策をしっかり講じた後は、切り替えて次の仕事に向き合うこと。
大丈夫です、大体のことは時間が解決してくれますよ。それこそ、今回の私のようにいつかは笑い話にできますから。
「人の振り見て我が振り直せ」という言葉がある通り、エンジニアたちのリアルなヒヤリハットを知ると自ずと身が引き締まる。「慎重さ」が重要な仕事だからこそ、今一度自分の業務を見つめ直し、職場での「身の毛もよだつミス」回避に役立ててみてはいかがだろうか。
文/今中康達(編集部)