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参拝前に知っておきたい“神さま列伝” ~国生みの神様「イザナキとイザナミ」【NHK趣味どきっ!MOOK 日本神話 神さま列伝】

NHK出版デジタルマガジン

参拝前に知っておきたい“神さま列伝” ~国生みの神様「イザナキとイザナミ」【NHK趣味どきっ!MOOK 日本神話 神さま列伝】

 日本には、8万を超える神社があるといわれ、すべての神社に神様が祀られています。しかし、普段お参りしているその神社の神様がどんな性格(神格)をもち、どんな物語(神話)に登場するのかを知っている人は少ないのではないでしょうか。

『NHK趣味どきっ!MOOK 日本神話 神さま列伝』(平藤喜久子著)から、日本人の祖先神で国生みの神様「イザナキとイザナミ」の神話をご紹介します。※記事の一部をデジタルマガジン用に修正しています。

日本列島と35柱の神様を生みだした【国生みの神様】

イザナキとイザナミ

イザナキとイザナミは夫婦の神様です。神の国から命を受けて地上に降り立ち、日本の国土と多くの神様を生んだ、日本人の祖先神でもあります。

 神様の住む高天原(たかまのはら)に、神々が出現しました。最初に現れたのは、アメノミナカヌシという神様です。次に現れたのは、タカミムスヒという神様、その次はカムムスヒという神様でした。この3柱(はしら)(神様は人(にん)ではなく、柱と数える)の神様は性(男女)をなさず、単独で現れた神様で、神々の世界に身を隠していました。

 その後、地上の世界がまだ形がなく、水面に浮いた脂と同じく、クラゲのように漂っているだけの状態のときに、アシが芽を吹くように出現したのが、ウマシアシカビヒコヂ、続いて、アメノトコタチでした。この2柱も単独で現れ、身を隠しました。以上の5柱は、天地の世界のすべてのはじまりとなる特別の神様で、「別天(ことあま)つ神」といいます。

 このあとも、クニノトコタチ、トヨクモノ、ウヒジニとイモスヒチニ、ツノグイとイモイクグイ、オオトノジとオオトノベ、オモダルとアヤカシコネ、イザナキとイザナミ、と多くの神様が現れました。クニノトコタチからイザナミまでの神々を、総称して「神代七代(かみよななよ)」といいます(男女対の神は1柱と数える)。

 これらの神々の中で、イザナキ(イザナギとも表記)とイザナミの夫婦神は地上に降りることになりました。先に現れた天つ神より、「ふわふわと漂っている国土を、あるべき姿に整えて、固めなさい」との命が下され、玉飾りのついた美しい天(あめ)の沼矛(ぬほこ)を授かったからです。

 イザナキとイザナミは、高天原と下界をつなぐ天の浮橋の上に立って、沼矛を下界に指し下ろし、カラカラとかきまわしました。そして、引き上げたときに、矛の先から塩のしずくが滴り落ちて重なり、島ができました。これをオノゴロ島(オノコロ島とも表記)といいます。2柱は何もないオノゴロ島に降り立って、まず「天(あめ)の御柱(みはしら)」を、続いて「八尋殿(やひろどの)」を建てました。住まいもできたことから、ほっとしたイザナキは、妻のイザナミに尋ねました。

「お前の体はどのようにできているか?」
「私の体はほとんど整っているのですが、1か所だけまだ合わないところがあります」
「私の体は余っているものが1か所ある。だから私の体の余分なところで、お前の体の足りないところを塞いで、国を生むのはどうだろうか」
「はい、それでいいです」とイザナミは答えました。
「お前と私で、この天の御柱のまわりを巡って出会い、寝所で交わりをしよう。お前は右から、私は左から巡ってお前と出会おう」とイザナキ。御柱を巡って出会ったとき、まずイザナミが「なんという愛おしい殿御(とのご)でしょう」といい、その後でイザナキも「なんという愛おしい乙女(おとめ)だろう」といいました。

 これに対し、「女の方から先にいったのはよくなかったのでは」とイザナキはつぶやきましたが、交わりをし、やがて生まれたのは、ふにゃふにゃとした「ヒルコ」でした。この子はアシの船に乗せて流してしまいました。次に、「アワシマ」が生まれましたが、やはり人の形にはなりません。そこで、天つ神のところに行って、相談することに。
「女が先に言葉を発したのがよくないのだ。もう一度やり直しなさい」と助言され、オノゴロ島に戻り、いわれた通りにやり直しました。イザナキ、イザナミの順で言葉を発すると、どうでしょう。

 まず、淡路之穂之狭別島(あわじのほのさわけのしま)(淡路島)が生まれました。次に、体が1つで顔が4つある伊予之二名島(いよのふたなのしま)(四国)、続いて、隠岐之三子島(おきのみつごのしま)(隠岐島)、筑紫島(つくしのしま)(九州)、壱岐島(いきのしま)(壱岐島)、津島(つしま)(対馬)、佐度島(さどのしま)(佐渡島)、そして、大倭豊秋津島(おおやまととよあきづしま)(本州)を生みました。以上の8つの国をまず生んだことから、日本を「大八島国(おおやしまくに)」ともいいます。

 このあとも、2柱の国生みは続き、吉備児島(きびのこじま)(岡山県の児島半島)、小豆島(あづきしま)(香川県の小豆島(しょうどしま))、大島(おおしま)(山口県の屋代島(やしろじま)か)、女島(おみなしま)(大分県の姫島(ひめしま)か)、知訶島(ちかのしま)(長崎県五島列島(ごとうれっとう))、両児島(ふたごのしま)(五島列島の南にある男女群島(だんじょぐんとう)の男島(おしま)、女島(めしま)か)など、瀬戸内海や九州にある小さな島々が生まれました。

 ようやく、国土を生み終えたと思ったら、今度は、大八島国に住む神様を生みはじめます。土の神、石の神、海の神、川の神など、ありとあらゆる神様を次々に生み出しましたが、火の神様であるカグツチを生んだとき、イザナミは大やけどを負ってしまいました。病に伏したイザナミが嘔吐したものや便、尿からも神様が生まれました。

 ちなみに、このときの尿から生まれたのが、伊勢神宮の外宮に祀られている穀物の神様、トヨウケヒメです。やがてイザナミは亡くなってしまうのですが、イザナキと力を合わせて生んだ神様は、およそ35柱にものぼるとされます。

著者:平藤喜久子

ひらふじ・きくこ。山形県出身。学習院大学大学院人文科学研究科博士後期課程単位取得退学、博士(日本語日本文学)。専門は神話学、宗教学。現在、國學院大學神道文化学部教授。NHK Eテレ「趣味どきっ!」の「ニッポン神社めぐり」シリーズで講師を務める。著書に『神話学と日本の神々』(弘文堂)、『日本の神様 解剖図鑑』『世界の神様 解剖図鑑』(ともにエクスナレッジ)、『人間にとって神話とは何か』(NHK出版)など多数。

■『NHK趣味どきっ!MOOK 日本神話 神さま列伝』
■文 平藤喜久子
■イラスト 上大岡トメ/浅生ハルミン

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