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ピアノ・ヴァイオリン・クラリネット、その場で生まれる化学変化を楽しむ~務川慧悟インタビュー

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務川慧悟(C)Yuji Ueno

今をときめく若手アーティストが「リサイタル」と「室内楽」、ふたつの公演で魅せるコンサート『エトワール・シリーズ プラス』。2025年に登場するのは、洗練されたピアニズムで人気を誇る務川慧悟。6月に開催されるPart.1では、ヴァイオリンとクラリネットとの三重奏を披露。そのコンセプトや意気込みを聞いた。

共演者次第で音楽が変化していくのが醍醐味

――『エトワール・シリーズ プラス』は、ソロ・リサイタルのみならず室内楽も楽しめるシリーズです。オファーを受けたときは、率直にどのようなお気持ちでしたか?

ちょうど室内楽に力を入れたいと考えていた時期でもあったので、とてもいいタイミングでした。これまで国内外のコンクールで優勝・入賞後、ソロ・リサイタルの機会を多くいただいてきました。しかし、パリ音楽院での学生生活やヨーロッパの音楽シーンでは、室内楽の比重がもう少し高いと感じていたので、日本でも室内楽の魅力をもっと広めていきたいなと考えていたのです。

――ピアノの演奏において、ソロと室内楽ではどのような違いがありますか?

パリで室内楽を学んで得たものは、多様性と柔軟性です。ソロの場合、ある程度方向性を定めて、それに向かって演奏を仕上げ、本番でもそのスタイルで臨むことはできますが、室内楽ではそうはいきません。自分で決めたとおりにはならないのが、室内楽の面白いところ。共演者次第で音楽が変化していくのが醍醐味なのです。ひとりで練習しているときにも、こうも弾けるし、ああも弾ける……と、多様な引き出しをたくさん用意しておきます。そして実際にリハーサルで合わせるときには柔軟に、その場で生まれる化学変化を楽しんでいく。音楽に対する考え方を広げてくれるのが、室内楽の魅力のひとつですね。

――オーケストラと共演する協奏曲と、室内楽との違いについてはいかがでしょうか。

協奏曲にも室内楽的要素はあるので、似ている部分もあります。しかし基本的には協奏曲ではソリストが音楽を引っ張り、オーケストラをリードしていく役割が強いと思います。わりと主従関係が明確というか。一方、室内楽はほかの共演者と対等な立場で音楽をつくり上げていきます。その違いが面白いですね。

カジュアルな気分で室内楽の世界に触れる

――6月21日の公演では、黒川侑さん(ヴァイオリン)、アレッサンドロ・ベヴェラリさん(クラリネット)と共演されます。今回のプログラムのコンセプトについて教えてください。

ヴァイオリン、クラリネット、ピアノの三重奏は、珍しい組み合わせに感じられるかもしれませんが、20世紀の初頭にはこの編成のためにいくつかの作品が書かれています。

今回取り上げるバルトークの《コントラスツ》は、アメリカのジャズ・クラリネット奏者であるベニー・グッドマンからの委嘱により生まれた作品です。また、ストラヴィンスキーの《兵士の物語》(七重奏の原曲と、作曲者自身による三重奏版が存在は、アメリカのラグタイムを含む舞曲の要素をもちます。そしてシェーンフィールドの《ヴァイオリン、クラリネットとピアノのための三重奏》は、アメリカの作曲家による作品です。

こうしたアメリカとの関連性をもつ3曲を中心に、クラリネットとの二重奏でルトスワフスキの《ダンス・プレリュード》、そしてヴァイオリンとの二重奏でラヴェルの《ヴァイオリン・ソナタ》をプログラミングしました。

クラリネットもヴァイオリンも、主旋律を担うことのできる敏捷性をもった高音域の楽器です。このふたつの楽器と合わせる場合、ピアノは支えの役割を担う場面が多くなります。僕は支えの役割も大好きなので、おふたりがいきいきと演奏できるように努めたいです。

――黒川さんとベヴェラリさんとは、以前から共演されているのですね。

黒川くんとは、僕がパリに、彼がブリュッセルに留学していた頃から、ヨーロッパで共演してきました。フランス・バスク地方で開催されているラヴェル・アカデミーでは、2週間にわたりデュオを組んだこともあります。音楽的に目指す方向が近く、ぜひまた共演したいと思い、今回声をかけました。

ベヴェラリさんは、以前ドビュッシーのデュオで共演した際に、室内楽に対する情熱がとても近いと感じました。彼は「ひとつの方法がうまくいっても、別の方向も試そう」というオープンな考え方をもっていて、シェーンフィールドの作品も彼が紹介してくれた曲です。黒川くんもぜひ演奏したいと言ってくれました。

――最後にお客様へのメッセージをお願いします。

今回の演目は、僕にとって初挑戦となる作品ですが、どれも肩の力を抜いて演奏することが大切な曲ばかりです。気負わず、ちょっと砕けて、洒脱な雰囲気で楽しみたいと思っていますので、皆様もどうぞカジュアルな気分で室内楽の世界をお楽しみください。

取材・文=飯田有抄(クラシック音楽ファシリテーター)

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