SAKANAMON、ファンと完成させた友情ソング「voices」インタビュー&リスニングパーティーレポートを一挙公開
今年、結成17年目を迎える3ピースロックバンド、SAKANAMONが新曲「voices」をリリースした。彼らのコラボレーションシリーズ「PLUS ONE(プラスワン)」の流れを汲む同曲は、昨年開催した対バンツアー『SAKANAMON TOUR 2024ト・モ・ダ・チ?トモダチッテウマイノカ???』の各会場で録音した観客の声を加え、完成した“友情ソング”。前掲の対バンツアーで「友達が少ないことを逆に自負している」と作詞・作曲を手掛けた藤森元生(Vo.Gt)は語っていたが、なぜこのタイミングで“トモダチ”をテーマに対バンツアーを行い、曲まで作ったのか。「voices」のリリース日の前日にあたる1月21日(火)に東京・渋谷のmurffin studioで、彼らが開催した同曲のリスニングパーティー『New Hear’s Party』の本番前、メンバー3人に話を訊いたところ、曲の背景はもちろん、制作の裏話など、あれこれと語ってくれたので、リスニングパーティーのレポートと併せて、ぜひご一読いただきたい。
「もっとやりたかった」6年ぶりの対バンツアーを振り返って
ーー新曲の「voices」は昨年、6年ぶりに開催した対バンツアー『SAKANAMON TOUR 2024ト・モ・ダ・チ?トモダチッテウマイノカ???』から繋がっていると言うか、対バンツアーから「voices」のリリースまでが1つのプロジェクトだったんですよね?
藤森:そうですね。そもそもの「PLUS ONE(プラスワン)」の曲を作ろうって話をしていて。
木村浩大(Dr.Cho):そうだね。
ーー「PLUS ONE(プラスワン)」というのは、これまで「光の中へ feat.田辺由明(マカロニえんぴつ)」「4696 feat. Meiyo」「猫の尻尾 feat. 蒼山幸子」とリリースしてきたコラボレーションのシリーズですね。
森野光晴(Ba.Cho):去年の3月に「liverally.ep」というライブをテーマにしたEPを出したんですけど、それの評判が良かったので、それと地続きで何か作れたらいいなっていうところと、前々から言っていた、そのコラボシリーズを一緒にできないかというところから始まりました。
藤森:そしたら、ちょうど対バンツアーの話も上がってきて、じゃあ、お客さんの声を使った楽曲を作ったらって話になりました。
ーーなるほど。SAKANAMON主催の対バンツアーは6年ぶりだったそうですが、対バンツアーのMCで「友達がいないことを逆に自負していた」とおっしゃっていた藤森さんがこのタイミングで対バンツアーのタイトルに“トモダチ”という言葉を使って、対バンツアーをやろうと考えたキッカケとか理由とかって、どんなことだったんですか?
藤森:単純に、ずっとやってなかったからってことに尽きるんですけど、対バンツアーに呼ばれて、対バンっていいよね。楽しいねとなって、自分達でもやりたいよねと。それがようやくできた感じです。
森野:ツアータイトルの“トモダチ”は後付けだったよね。普段は僕が考えることが多いんですけど、今回は藤森君がツアータイトルを持ってきたんですよ。なんで、このタイトルにしたの? 友達がいないことを自負しているから?(笑)
藤森:いや、僕だったらこう思うみたいな。
ーー『ト・モ・ダ・チ?トモダチッテウマイノカ???』ってタイトルにクエスチョンマークが3つも付いているじゃないですか。もちろん、タイトルのおもしろさを狙っているところもあると思うんですけど、もしかしたら、友達付き合いというものが果たして、本当にいいものなのかどうなのかという根本的な疑問があったからなのかなと想像もしたんですけど。
藤森:確かに。そうですね。友達がいないのはもちろん僕の性格上の問題なんですけど、確かに友達がいりゃいいってもんでもないし、ぐいぐい来られるとイヤだし。やっぱり気が合う仲間がいいし。交流すればいいってもんじゃないなっていう気持ちはもちろん昔からずっとあるんですよ。
森野:近づきすぎると傷つけてしまうし?
藤森:そうそう。自意識過剰っていうのが大きいんですよ。要は嫌われたくないんです。嫌われたくないから、仲良くならない。逆に傷つけたくないから仲良くなりたくない。そういうのもありますね。
ーーでも、このタイミングで、そこのところをもうちょっと踏み込んでみようと思ったところもあるんじゃないのかなって
藤森:あー。
ーー対バンツアーの時、MCを聞きながらちょっと思いました。
藤森:それは確かに。ちょっとだけ積極的にと言うか、SAKANAMONというバンドとしての友達ってほんとに少なくて、交流を作らなきゃって気持ちは片隅にはあるから、それをちゃんとこちらから誘ってできたらいいなとは思ってました。
ーー対バンツアーを振り返って、どんな成果が得られたと?
藤森:やったことがないバンドといっぱいできたのはよかったけど、交流する時間がなかったんですよ。スケジュールの関係で、中打ちも全然やれなかったんで。対バンして、お互いに「いい音楽だね」みたいな感じで終わっちゃったと言うか、その後の仲良くなる時間がなかったと言うか。
木村:僕はけっこう話しましたよ。
ーー森野さんはいかがでしたか?
森野:打ち上げとか飲みの席とかの交流は確かになかったですけど、対バンが主に後輩だったから、ライブのやり方を含め、自分より下の世代の子達がどういう戦い方してるのかみたいなのは、けっこう勉強になりましたね。15年以上やってると、やっぱり型にはまっちゃってると言うか、1時間のセットだったらこういう感じだろうって決まっちゃってるようなところもあるんですけど、他のバンドの同じ持ち時間の使い方を見ると、気づかされることがけっこうありますね。そういう意味ではすごくよかったと思います。
ーーじゃあ、対バンツアー、6年ぶりにやってみてよかった、と?
藤森:めちゃくちゃ楽しかったです。
森野:だから、あっという間に終わっちゃって、もっと本数やりたかったですね。各バンドと2本ずつぐらいとか。
ライブ収録したファンの声を収めた新曲「voices」が完成するまで
ーーそんな対バンツアーの中で、今回の「voices」を完成させていったわけですが、楽曲としては、お客さんの声を加えることを前提に、それだったらどういう曲がいいんだろうかというところから作っていったのでしょうか?
藤森:そうです。お客さんの声の使い方をどうするかってところから作っていきました。お客さんの声を加えた楽曲って、他にもあると思うんですけど、ありきたりな使い方ではない使い方をしたくて。具体的に言うと、サンプリング的にお客さんの声を録って、それを編集して、楽器として扱うにあたって、新しい見せ方をしたかったんです。だから、なるべくバンドの演奏はシンプルにして、コーラスを目立たせると言うか、その押し引きを聴かせるような楽曲に自然と導かれましたね。
ーーサビのコーラスはゴスペルを連想させますね。
藤森:コーラスを当てはめてみたら、そういうふうになったんですよ。
森野:5会場で録ったお客さんの声を入れるから、和音の数もおのずと決まっていって、その結果、コーラスも自然とそういう複雑なものになっていったところはあります。単純に二声とかのコーラスではないんで。
ーーファイナルの恵比寿LIQUIDROOMでは機材のトラブルもありましたが、お客さんの声をレコーディングするにあたっては、けっこう苦労もあったんじゃないですか?
森野:そうですね。リハーサルをするわけにいかないんで。
ーーあー、そうか。
藤森:もう一発本番で。
森野:機材だけを持っていって、録音に関しては僕一人でやってたんで、もうバタバタでした。しかも初日の大阪は直前でマイクのスタンドが壊れて、慌てて裏に行って、代わりのスタンドをライブハウスのスタッフに持ってきてもらったりとか、ファイナルは機材がトラブったりとか。今だから言えますけど、本当は全会場でバックアップ用に別のレコーダーを回そうと思ってたのに、全会場で忘れてたんで、データが消えたらもう終わりでした(苦笑)。
ーーえーっ。
森野:実は名古屋で1つ録れてないのがあって。
藤森:そうだね。録りこぼしがあって、それを東京でちょっとだけね。
森野:そういうミスはちょいちょいあって大変でしたね。
木村:誰かに頼もうね、これからは。
森野:怒られましたよ。cinema staffの三島君に。
藤森:「1人でやりすぎだよ」。
森野:「誰かに頼めよ」って。
藤森:笑顔で怒ってました(笑)。
ーーそんな苦労の甲斐あって、とてもいい曲になったと思います。コーラスを目立たせるということから、バンドのアンサンブルはかなりタイトなものになっていますが、それぞれのパートをアレンジしたり、演奏したりする上では、それぞれにどんなアプローチをしましたか?
森野:藤森君がデモで作ってきたものをそのまま弾きながら、プラスαで間奏に自分らしいフレーズを加えたぐらいで、ほんとにすごくシンプルにしました。良い感じにはなったと思います。
ーーベースが曲のグルーブを担っていると思いました。木村さんのドラムは?
木村:音符の長さと余白ですね。意識したのは。8ビートで行っても、ちょっとだけ続かないような8ビートにするとか、サビはちゃんと音符の分、伸ばすとか。歌に合わせてって言うんですかね。そこは一番大事に……いつも大事にしているんですけど、この曲は特に余白が多いんで、それを重点的にやりました。あとは……。でも、それくらいかな。なんか、2テイクぐらいで終わっちゃったんですよ。
藤森:あー、簡単だった? いや、でも、ある種難しいと思うんだけど。
木村:たぶん、こういう曲が得意なんですよ、僕は。いっぱい速い曲を作るんですけど、藤森君は。でも、こういう曲が得意なんだって改めて思いました。
ーー大サビでドタタ・ドッタタと手数が増えるところがいいですね。
木村:そこも丁寧に叩かせてもらいました。
ーー藤森さんはアコースティックギターのリフをメインにしつつ、エレキでリードギターも弾いている。
藤森:アコギに関しては、できるだけタイトに、しっかりと跳ねて、ノリを出せるように意識しました。リードギターは、こういうゆったりした楽曲とは言え、少しだけロックテイストを入れたくて、少しエッジをきかせた音にしました。とは言え、やっぱりコーラスがメインなので、歌の次においしいところのメロディーをコーラスに乗っけて、その中で残されてる音をリードギターで補うという作り方をしたんです。言ったら、隙間を埋めるためのリードギターなんですよ。歌とぶつかりそうになるところもあって、ちょっと大変でしたけど、ぶつからないように弾き分けられたと思います。
ーー大サビのコーラスは、藤森さんのお友達だけで歌っているそうですね。
藤森:そうです。森野さん、キムさん(木村)、テスラは泣かない。ってバンドのギターボーカルの(村上)学君、あとカメラマンをやっている友人と専門学校時代の同級生の5人に歌ってもらいました。
ーーみなさんにスタジオに集まってもらって?
藤森:あ、いえ、森野さんとキムさんはスタジオで録って、カメラマンの友人と専門学校の同級生には、うちに来てもらいました。学君はたぶん学君のうちで録ってくれたんだと思います。
ーーそうかそうか。ミュージシャンだから、うちに録音環境がそろっているわけか。
藤森:なんかすごくうれしいです。かつてない曲ができたと思います。僕の友達全員の声が聴こえる楽曲という意味では。
ーー確かに。今後、「voices」をライブで披露するとき、コーラスはどうするんですか?
藤森:いやぁ、2人は歌うかもしれないけど、他はやっぱり同期じゃないですか。さすがに。
森野:もちろん、お客さんに歌ってもらっても大丈夫です(笑)。
藤森:それはもちろん。
森野:歌えるならですけど(笑)。ラストのシンガロングは、歌ってほしいですけどね。
藤森:ぜひね。
SAKANAMON「voices」MV
ーーところで、「voices」の歌詞は、やっぱり藤森さん自身の実感なんですよね?
藤森:そうですね。はい。僕なりの友達に向けた友情ソングと言うか、そんなつもりではいますね。
ーー<人見知りの癖に意固地 駄目野郎 そんな僕に愛されて可哀想>という歌詞は、藤森さんがご自身のことをそういうふうに思っているということだと思うんですけど。
木村:その通りだと思いますよ。
藤森:自己分析は完璧です。
木村:甘えん坊も入れてほしかったけど(笑)。
藤森:でも、自分では言いづらい。恥ずかしい。
木村:話したがり、話を聞いてほしがり、一緒にいたがり。末っ子っぽくなるよね。仲いい人と酒を飲むとね。
藤森:確かに、みんななんかお兄ちゃんなんですよ。中でもcinema staffはみんなタメなんですけど、すごくお兄ちゃんで、やさしく話を聞いてくれるんです。甘えちゃいますね。確かに。
ーー甘えられる人が好きなんですか?
藤森:やさしい人が、僕にやさしい人が好きです(笑)。
森野:でも、みんな好きだと思いますよ。藤森君のことは。
藤森:ほんとかよぉ(照)。
木村:好きだけど、あれでしょ。嫌われたくないから。
森野:突き放してる感じはあるけどね。
藤森:あ、僕が? あー、確かに好きな人がぎゅっと好きだから、そこに入り込めないっていうのはあるかもしれない。
森野:そうそうそう。もっと仲良くなりたいと思ってる人いっぱいいると思う。
藤森:本当?
森野:うん。でも、いいけどね。誰にでもいい顔するのは疲れちゃうから。
藤森:まあね。
ーーそれはさておき、対バンツアーで演奏していた16年発表の「追伸」も、11年発表の「ハロ」も「voices」同様に友達に向けた曲だと思うんですけど、その2曲を書いた時と今回、「voices」を書いた時の気持ちって変わらないですか? それとも同じ友情ソングでも、何かしら気持ちの変化ってありましたか?
藤森:どうだろうな。
木村:全部うれしいんじゃない?
藤森:そうだね。「ハロ」は初々しいと言うか、友達に対して歌ったのはほんと初めてだったから、すごく純粋な気持ちで作ってると思うし、「追伸」は、そうですね。改めて、そういうことを思ったタイミングだったのかな。そう考えると、定期的にそういう時期が来るみたいですね。「voices」は友達というテーマがあったから、そこに導かれて書いたところはありますけど。
ーー今回は友達として、お客さんの存在も意識していたんじゃないですか?
藤森:そうですね。もちろん、お客さんにも参加してもらう楽曲になることはわかっていたから、お客さんにもちゃんと共感してもらえる歌詞じゃないとダメだなという意識はありましたね。だから、言われてる側、言う側どちらにも立てるようなものを書いたつもりです。
ーーそんな「voices」を、このタイミングでリリースする意味合いって、たとえばどんなことでしょうか?
藤森:何だろうな。でも、対バンツアー込みの、ある意味、ドキュメンタリー性の高い楽曲なので、それがこういうふうに完成しましたっていうお客さんに対する答え合わせと言うか、感謝みたいなことなのではないかと思います。
「いま改めて、ロックバンドが楽しいモードに」
お笑い芸人・ニューヨークとの対バン、2025年の豊富
ーーさて、3月6日(木)に東京キネマ俱楽部で開催する自主企画ライブ『UOOO!!~THE BIRTHDAY~』は、「普通とは違う特別な対バンライブになる」という予告通り、お笑い芸人のニューヨークとの対バンです。
森野:お笑いとお笑い芸人さん、やっぱり好きなんで、そういうイベントをやりたいなとはずっと思っていたんです。ニューヨークの2人も音楽が好きだから、当日は何か一緒にできたらいいなと考えてるところです。
ーーニューヨークに声を掛けたのはどうして?
藤森:最初、16年に「クダラナインサイド」という曲を出した時に関わったんですよ。パンサーの菅さんがチョコレートプラネットの松尾さん、ニューヨークの嶋佐さん、やさしいズのたいゆうきさん、サンシャインの坂田さんとやっていた「くだらないの中に」というトークイベントに招いてくれて、そこでイベントのテーマソングを作ってくださいって話になって、作ったのが「クダラナインサイド」で。
ーーそう言えば、「クダラナインサイド」のMVには菅さん、嶋佐さん他、芸人の方々が出演していましたね。
藤森:それからちょいちょいお世話になりながら、今ではもうキムさんが嶋佐さんとすごく仲良くなっていて。
木村:週1ぐらいで飲みに行ってます。
藤森:じゃあ、ワンちゃん行けるんじゃねえかってずっと言っていて、今回、ようやく実現することになりました。
森野:ネタをやってもらうのはもちろんなんですけど、歌ってもらえたらなって考えていて。嶋佐さんってGRAPEVINEが大好きなんですよ。バインは僕も大好きで、一度、行けなくなった野音のチケットを嶋佐さんに譲ったっていう恩があるんで、どうなるかわからないですけど、バインを歌って欲しいなーって(笑)。
木村:僕と2人で行って、あの人、死ぬほど喜んでたからね。
藤森:嶋佐さんが喜んでるってかわいいよ。へぇー。がんばって練習しなきゃ。
森野:バインの曲、演奏が難しいんですよ。
SAKANAMON「クダラナインサイド」MV
ーー確かに特別なライブになりそうですね。ところで、今年、2025年、SAKANAMONは結成17年目を迎えるわけですが、どんな1年にしたいと考えていますか?
藤森:とりあえずは健康を第一に考えたいと思ってます。
ーー健康ですか? いや、もちろん健康であることは大事だと思うんですけど。
藤森:たぶん、これから毎年、健康であることが大事になってくると思うんですよ。で、この段階ですでにライブがめちゃくちゃ決まっているんで、今年はいっぱいライブできたらいいなと思ってるんですけど、それには健康第一だとなおさら思うわけです。
木村:ライブはね、いっぱいやりたいですね。
ーー制作はいかがですか?
藤森:去年は新曲を5曲しか出せなかったんで、今年はもうちょっと書かないとなと思ってます。
木村:もうちょっとと言うと?
藤森:6曲以上。
木村:だったら、7、8、9、10曲ぐらいかな。
藤森:去年よりは書こうと思ってます。がんばろう。僕に唯一できる正義なので、書きます。
木村:お願いします。
ーー森野さんと木村さん、付け加えることがありましたらお願いします。
木村:17年目なんですけど、ここぐらいから20年目に向けて加速してはいきたいですね。ライブもいっぱい入って来るってすごくいいことだと僕は思ってるので、それこそ健康第一にっていうのは、僕が一番言うべきなんですけど(苦笑)、20周年をちゃんといい形で迎えるためにクレッシェンドしていくような1年にしたいです。そして、骨は折りません。どうぞ。
森野:ただ、惰性でやらないようにっていうのがありますね。さっきも言いましたけど、17年やってると、割と型ができちゃうんで、1個1個、なんでこれ、こういうやり方してるんだっけと見直しつつ、飽きないように1回できあがったものを、自分達で1回壊してみたりとか、新しいことを取り入れてみたりとか、そういうことができたらいいなと思いますね。ライブのやり方もそうだし、曲の作り方もそうだし。
ーーところで、最後に余談なのですが、昨年12月の『TALTOナイト2024』の時のSAKANAMONのセットリストが「ただそれだけ」を含め、割とファンキーな要素の曲が多かったという印象があって。それはそういうモードだったということなんでしょうか?
藤森:どうだったっけ?
森野:変な言い方ですけど、お客さんに媚びるのはやめていいかなっていうのはありましたね。あの夜はマカロニえんぴつのお客さんが圧倒的に多いっていうのは明確だったから、そこに寄せてくってこともできたのかもしれないですけど、そうじゃないほうがかっこいいなっていうところじゃないですか。
ーーあー、なるほど。
藤森:最近と言うか、去年の年末ぐらいから攻めてるよね? けっこうアクティブなセットリストが多いんですよ。
木村:改めてロックバンドが好きだっていう感じだよね、ギターロック。
森野:そう。だから、去年から同期を使わないセットもやるようになったんですよ。30分ぐらいだったら、同期なしで3人の音だけでセットリストを組むということもできるようになったから、そういう意味では、自分達の得意技をちゃんと見せられるようになったのかなって。
ーーそのモードは今後もまだまだ続きそうですか?
藤森:そうですね。サイクル的に、いままたロックバンドが楽しいモードなんですよ。たぶん、世の中的にもロックバンドと言うか、「ギターロックじゃねえよ今の時代は」みたいな時期があったと思うんですけど、改めて、「やっぱりギターロックっていいよね」って流れになってきた気がするから、そのまま一緒に乗っていこうと思ってます。
そして、インタビューが終わると、SAKANAMONの3人は『New Hear’s Party』と題したリスニングパーティーにオンステージ。会場である東京・渋谷murffin studioに集まったファンに早速、「voices」を音源、ライブ・パフォーマンス、MVの3通りで初披露して、インタビューでも語っていたとおり、制作過程では苦労もあった「voices」を完成させ、ついにリリースする喜びをファンと分かち合ったのだった……。
>>次のページでは、SAKANAMON『New Hear’s Party』レポートを掲載!
SAKANAMONから読者プレゼントもあり。詳細を要チェック!
取材・文=山口智男 写真=酒井ダイスケ
SAKANAMON『New Hear’s Party』2025.1.21(TUE)東京・渋谷murffin studio
インタビューが終わると、SAKANAMONの3人は『New Hear’s Party』と題したリスニングパーティーにオンステージ。会場である東京・渋谷murffin studioに集まったファンに早速、「voices」を音源、ライブ・パフォーマンス、MVの3通りで初披露して、インタビューでも語っていたとおり、制作過程では苦労もあった「voices」を完成させ、ついにリリースする喜びをファンと分かち合ったのだった。新年の挨拶も兼ねていたリスニングパーティーは、2025年の抱負を毛筆でしたためたというメンバーによる書初めの発表からスタート。
沢山聴くーー森野光晴
三倍ーー木村浩大
家内安全ーー藤森元生
しかし、何のことやら意味がわからないと、お互いに「その心は?」と説明を求めあい、それぞれに語ったのが以下である。
「音楽をたくさんインプットして、たくさんアウトプットする」(森野)
「三倍忙しくしようぜ」(木村)
「家とはバンド。つまりバンド内安全です」(藤森)
三者三様にバンド活動に取り組む意欲を表明した後は、待ってました。「voices」の初披露だ。
「それではお聞きください。「voices」です!」と藤森が曲を紹介すると、昨年の対バンツアーで録音した観客の声を重ねた荘厳なコーラスが流れ始め、そこから3分25秒、観客とステージの3人は会場にゆったりと流れる「voices」にじっと耳を傾ける。曲が終わると、森野が開口一番、「いい曲!」と感嘆の声を上げ、「ようやく発表することができました。どうですか?」という藤森の問いかけに観客が拍手で応えた。
その「voices」、曲のスタイルとしては、いわゆるアコースティックバラードながら、5つの会場で録音した5つのパートを重ねたハーモニー、ゴスペル風のハンドクラップ、ラララというシンガロングを加えたことによって、アンセミックな魅力も持つ曲になっているのだが、一番の聴きどころはやはり観客の声を重ねたハーモニーだろう。
「お客さんの声を、ありきたりではないやり方で使いたかった」と藤森がインタビューでも語っていたとおり、緻密に作り上げたハーモニーにはやはり自負があるのか、昨年の対バンツアー中、大阪、福岡、名古屋、仙台、東京の5会場で録音した観客の声を、藤森が楽譜を見せながら1会場ずつ聞かせた上で、「これが合わさると、ハーモニーになるわけです!」(藤森)と5会場の声を重ね、改めてハーモニーとして聞かせ、藤森曰く「知られざる「voices」のコーラス事情」を明らかにするというファンにはうれしい、今回のリスニングパーティーならではの貴重なヒトコマも。
そこに森野、木村を含め、藤森の5人の友人が大サビのコーラスを歌ってくれたというエピソードを付け加えながら、藤森は「夢のような友達ソングができました。僕としては感無量でした」と「voices」の手応えを言葉にしたのだった。
そして、この日のお待ちかねはもう1つ。SAKANAMONによるスペシャルライブだ。この日、3人は藤森がアコースティックギターを弾きながら計5曲を披露した。1曲目のアップテンポのロックナンバー「コウシン」から藤森の弾き語りで繋げた「空想イマイマシー」は、森野と木村がサビから演奏に加わる、音源とは一味違うバラードアレンジで披露。アコギのコードストロークでリズムを刻みながら藤森の歌声が熱を帯びる。
曲間のMCでは、「ライブで「コウシン」を演奏するのめっちゃ久しぶり。今年はあまりライブでやってない曲をやりたいね」という森野の一言から、「メドレーやる?」「リクエストライブとか?」「ツアーでセットリストに被りなしとかね」とメンバーの口から次々にライブのアイデアが飛び出し、実現するかしないかはさておき、観客に期待を抱かせる。
「飽きさせないようにがんばるんでライブに来てください!」と森野がMCコーナーを締めくくり、バンドが立て続けに演奏したのが「PACE」と「ロックバンド」というロックナンバーだった。
<行った事もないあっちまで一寸 付き合ってくれないか 楽しても 無理しても 僕等のペースで>と歌う前者。そして、<何処だって行こうか 何処まで行こうか>と歌うロックバンド賛歌の後者。この2曲をこの日、選曲したのは、2025年の抱負を語るリスニングパーティーにふさわしいと考えたからだろう。きっと筆者も含め、観客の多くが、その2曲は木村が言うように「20周年をちゃんといい形で迎えるためにクレッシェンドしていくような1年にしたい」と考えているSAKANAMONのステートメントと受け止めたに違いない。
最後を飾ったのは藤森の弾き語りによる「voices」だった。
藤森が感情を込め、シャウトするように歌う<その声を聴きたい 聴きたいんだその声を>という言葉が胸を打つ。<その声>とは、歌詞の上では、<なんて素晴らしいんだ>と称える友達との会話のことなのだが、ライブになると、それは観客のシンガロングということになるのだろう。5声からなるハーモニーはさすがに難しいかもしれないが、アウトロのラララというシンガロングは、これからSAKANAMONのライブの新たなハイライトになっていきそうだ。
藤森が弾き語る「voices」を聴きながらそんな想像が膨らんだのだった。
取材・文=山口智男 写真=酒井ダイスケ