琉球ゴールデンキングス開幕戦直前!プレ全休のヴィック・ローを含めた、まだ見ぬ「完全体」を想像してみる
設立から9シーズン目となるプロバスケットボールBリーグ1部(B1)の2024-25シーズンが10月3日、開幕した。 西地区の琉球ゴールデンキングスは10月5、6の両日、ホームの沖縄アリーナに中地区の三遠ネオフェニックスを迎え、開幕カードを行う。昨シーズンまで3季連続でチャンピオンシップ(CS)ファイナル進出を果たし、この間に優勝1回、準優勝2回という際立った成績を残しているキングス。再び王座に返り咲くための長いシーズンが、もう少しで幕を開ける。
西地区優勝、CSホーム開催、2シーズンぶりの優勝…。もちろん、“西の強豪”としての地位を盤石にしているキングスには今シーズンも様々な期待が懸かる。ただ、近年の栄華を支えた今村佳太やアレン・ダーラムらが退団し、主力の顔ぶれが変わって転換期を迎えていることも事実。一つの節目を経て、リスタートの位置付けとなるシーズンとも言えるだろう。 9月に行ったプレシーズンゲーム7試合の成績は4勝3敗。イタリアや韓国のチームとも対戦しているため、チームの力がBリーグでどれほどの位置付けかを測るには難しい側面はあったが、新生キングスの魅力は随所に見て取れた。 新加入の伊藤達哉とケヴェ・アルマが早速持ち味を発揮し、昨シーズン影を潜めた前線からの激しいディフェンスや、素早いトランジションからの速攻をけん引。全体で11人という少ないロスターの中、昨季はプレータイムが限られていた荒川颯と植松義也も長くコートに立ち、主力定着に向けてハッスルを見せた。 ただ、フルメンバーでのゲームはまだ1試合も行っていない。というのも、エースとしての活躍が期待されるヴィック・ローが、練習中に負った右ヒラメ筋肉離れの影響でプレシーズンゲームを全試合欠場したからである。 今シーズンは新主将の一人ともなったローがチームに戻った時、どんなバスケットボールを展開するのか…。各選手が健康体を維持していれば、開幕戦で初めてお披露目されるであろう、まだ見ぬ新生キングスの「完全体」の姿を想像してみる。
セカンドユニットの「得点力向上」
プレシーズンゲームを見た上で、各選手のメインのポジションを振り分けると、以下のようになる。バスケットボールではポジションを番号で呼ぶのが一般的。 1番(ポイントガード=PG)→岸本隆一、伊藤達哉 2番(シューティングガード=SG)→松脇圭志、小野寺祥太、荒川颯 3番(スモールフォワード=SF)→脇真大、植松義也 4番(パワーフォワード=PF)→ヴィック・ロー、ケヴェ・アルマ 5番(センター=C)→ジャック・クーリー、アレックス・カーク(帰化登録選手) これまでで最も多い先発の5人は、岸本、松脇、脇、アルマ、クーリーの組み合わせだ。オフェンスにおいて岸本とアルマが万能、松脇は3P、脇はドライブ、クーリーはゴール下というように、それぞれの持ち味が分かりやすく、バランスもいい。 一方、セカンドユニットは伊藤、小野寺、荒川とディフェンス力の高い選手が多いものの、オフェンスでは得点面で伸び悩む時間帯も多かった。攻め所がはっきりせず、ターンオーバーから失点する場面も散見された。 ただ、昨季チームで2番目に多い平均14.3点を記録したローが戻ってきた場合、どちらが先発を務めるかは分からないが、基本的にはローとアルマがローテーションでコートに立つことが予想される。そうすれば、スターティング5とセカンドユニットの得点力の差はかなり是正されるだろう。 前述の高い位置からのプレッシャーと素早いトランジションについても、身体能力の高いローはいずれも得意とするところ。 9月27日にあった東アジアスーパーリーグ(EASL)開幕前の公開練習で、ローは自身やチームの状態について「自分自身のコンディションは非常にいい状態です。チームとしても素晴らしい仕上がりで、これからBリーグ、EASLに向けて期待ができるシーズンになると思います」と語っており、新生キングスの武器をさらにグレードアップさせる役割を担うことが期待される。
「3BIG」ロー、アルマ、カークの強烈さ
ローが復帰することで、最も想像を掻き立てられる要素の一つが、アルマ、カークと共にコートに立つ「3BIG」のラインナップだ。もちろんアルマかローに代わってクーリーが出る形もあり得るが、同じセンターのカークもいることを考えると、オフェンスのスペーシング(選手同士の距離感)や機動力を加味して前者の3人で出る機会の方が多いだろう。 カークを入れた「3BIG」のカード自体は、昨季もカークがシーズン途中に帰化してから手札にあったが、今シーズンはより強烈な存在感を発揮しそうだ。その理由は、アレン・ダーラムと入れ替わる形で加入したアルマの存在にある。 まずはオフェンス面。198cmでビッグマンとしては小柄ながら、強靭なフィジカルでリバウンドやセカンドチャンスポイントを量産したダーラムに対し、アルマは206cmというサイズと高い身体能力を生かしてドライブやリバウンドでインサイドを脅かす。タイプが異なる二人だが、アルマが上回る大きな要素としてスリーポイントシュート(3P)の成功率が挙げられる。 昨シーズン、ダーラムは29.2%だったが、アルマは新潟アルビレックスBBでプレーした2022-23シーズンに35.7%を記録。昨シーズンのビッグマンはクーリー、カーク、ダーラムとインサイドに強みを持つ重量級の布陣だったが、外のシュートもあるアルマの加入でスペーシングが改善することが期待される。そうなれば、3BIGの時に3番ポジションに入るであろうローのプレーの幅がより広がるだろう。 そして、何よりも注目されるのがディフェンス面である。 想像してみてほしい。ロー、アルマ、カークに加え、例えば伊藤、小野寺を合わせた5人がコートに立ったとする。カーク以外の4人は機動力とスピードに優れ、いずれも高い位置から激しいプレッシャーを掛けられるため、間違いなく相手にとって脅威になる。アルマは、ダーラムが少なかったブロックショットにも飛べるため、ローとのコンビでゴール前に高い壁を形成することもできるだろう。 これは3BIGに限った話ではないが、昨シーズンはビッグマンの動きの鈍さを狙われることが課題の一つだったキングスにとって、アルマの加入はディフェンス力の向上に大きく寄与するはずだ。
現状の力を測る上で最適な強豪・三遠戦
あれこれと妄想するだけでも、楽しみな要素が多いキングスの「完全体」の姿。その力を測る上で、開幕戦で当たる三遠は打って付けの相手と言える。なにせ、強い。 昨シーズン、名将・大野篤史HCの下で速い展開からの爆発力のあるオフェンスを磨き、46勝14敗という圧巻の強さで中地区を制覇。さらに今シーズンは、佐々木隆成や大浦颯太、ヤンテ・メイテンら主力を維持したまま、米NBAで過ごした6シーズンで通算237試合に出場した経験を持つデイビッド・ヌワバ、日本代表でフィーバーした吉井裕鷹、攻守に泥臭い活躍をする帰化選手のウィリアムス・ニカらを補強し、レベルアップに成功している。 開幕1カ月前の9月7、8の両日、愛知県に拠点を置くB1の4チームが参加した「AICHI CENTRAL CUP 2024」では、メイテンを欠く中で初戦のファイティングイーグルス名古屋戦を94ー60、決勝のシーホース三河戦を93ー69といずれも大勝した。大会MVPは平均23.0点、10.0リバウンドを記録したヌワバが獲得。交流色の強い大会だったとはいえ、三遠が今シーズンも優勝候補の一角に入るほどの力を持っていることをリーグ全体に印象付けた。 9月23日に沖縄アリーナで行われた最後のプレシーズンゲームである韓国KBLの昌原LGセイカーズ戦後、脇は三遠の印象について以下のように語っていた。 「ペースが速いバスケットをしてくると思うので、そこで主力選手に3Pとかを決められてしまうと、点差が開いて追い付けない状況になる可能性もあります。最初から自分たちのバスケをやって、相手の強みを消してペースを上げさせないようにしたいです」 新生キングスの力が強豪・三遠を上回るか、それとも現時点ではまだ及ばないのか。そして今シーズン、桶谷大HCがよく口にする、チャレンジャー精神を表現する「アンダードッグ(格下や弱者などの意味)な戦い方」を開幕戦から体現できるか。チーム一丸で戦い、沖縄アリーナを沸騰させ、勝利をつかみ取りたい。
応援を呼び掛けるキングスダンサーズ。今シーズンも、沖縄アリーナの盛り上がりには欠かせない存在だ