暴走アウトロー映画の最高峰「狂い咲きサンダーロード」自由を求めるなら暴走し続けろ!
連載【ディスカバー日本映画・昭和の隠れた名作を再発見】vol.11 -「狂い咲きサンダーロード」
暴走アウトロー映画の最高峰「狂い咲きサンダーロード」
2025年8月22日、『狂い咲きサンダーロード』がオリジナルネガからのリマスター版でリバイバル上映される。これは嬉しい!石井聰亙(現:石井岳龍)監督、22歳時の傑作にして暴走アウトロー映画の最高峰… というと大げさに聞こえるかもしれないが、あながちハズレでもないのは、この映画のファンではあればよくわかるだろう。
『狂い咲きサンダーロード』は1980年、石井監督が日本大学芸術学部在籍時に生み出した自主制作映画。これが東映セントラルフィルムに買い取られ、全国的に劇場公開されたことで、当時中学2年だった筆者も地元の映画館で観ることができた。正直、14歳のアタマで理解するには少々難しかったが、これまでに見てきたどの映画とも違う、とんでもないエネルギーを感じたことを記憶している。
特攻隊長、仁を演じた山田辰夫の存在感
物語をざっくりおさらい。舞台は近未来の架空の町サンダーロード。暴走族同士の抗争は警察の締め付けもあって融和へと向かい、悪名を馳せてきたグループ “魔墓呂死”(まぼろし)のリーダー、健(南条弘二)も連合組織への参加を決める。ところが、魔墓呂死の特攻隊長、仁(山田辰夫)はこれに猛反発。特攻隊メンバーを引き連れて目に余るほどの暴走を繰り返す。
連合に目を付けられ、一度は魔墓呂死の初代リーダーが所属する右翼団体に身を寄せるが政治教育になじめず、すぐにそこを飛び出し、族を復活させる。しかし、そうなると連合も黙ってはいない。リンチされ、片手と片足を失い、仲間をも失った仁は落ちぶれてなお、こう宣言するーー “町のやつら皆ぶっ殺してやる” 。
いやもう仁の、この反骨精神がただただ凄い。暴走したい。ぶん殴りたい。ヤクをキメたい。自分のしたいことをするために一切妥協せず、“皆で仲良く” なんて知ったこっちゃない。自由を脅かされそうになれば、たとえ目上の者であっても徹底的に反抗する(が、意外に手下には優しい)。当然、縦社会の規律の厳しい右翼団体など肌に合うはずもない。ケンカ相手が100人束になってかかってきても、ひとりで立ち向かう覚悟はできている。社会という集団生活の場では、かなり迷惑な存在。しかし、ここまでブレないキャラだから、むしろ清々しさを覚えてしまう。
そして仁を演じた山田辰夫の存在感といったら!何がすごいって、“声” だ。とにかくよく通る。他の役者の発声がアコースティックギターなら、彼の声はエレクトリックギター。
「今日からお前らみんな敵だ!」
「今日はマジだ!マジに戦ってマジに殺す!」
「あんなイモ連中にビビッとんじゃねえぞ!」
こんなセリフを電撃パップなあの声で言われたら、ビリビリ響くじゃないか!
大々的にフィーチャーされている泉谷しげる、PANTAのナンバー
そんなドラマを盛り立てるのが、泉谷しげる、PANTA&HAL、THE MODSのロックンロール。とりわけ泉谷とPANTAのナンバーは大々的にフィーチャーされている。本作の美術を兼任した泉谷のナンバーでは、暴走中の仁が敵対組織に応戦する場面で流れる「火の鳥」がアツい。また、エンドクレジットでフィーチャーされる「翼なき野郎ども」の切ない響きも忘れ難い。使用楽曲は、じつに13曲!
一方のPANTA&HALは6曲だが、どれもインパクトは強烈。仁と仲間たちがヤクをキメるシーンでは「ルイーズ」のビートが跳ねるように響く。仁がリンチを食らう場面でフィーチャーされた「臨時ニュース」の切迫感はどうだ。そして、すべてを失って町をさすらう仁の姿に延々と重なる「つれなのふりや」の気だるくも物悲しいレゲエのリズム。仁が求めた自由の発露というべきナンバーの速射砲。これが反抗期の中坊の心に響かないわけがない。
それと、音楽が流れない音楽ネタでは、魔墓呂死の面々のたまり場となっているバーに注目。カウンターの奥にブルース・スプリングスティーンのアルバム『明日なき暴走』のジャケットが飾られている。その1曲目のタイトルは? 答を記すのは無粋というもんだ。
ギラついた熱情を永遠にした貢献者、山田辰夫とPANTA
クライマックスではダイナマイトにバズーカ砲、マシンガンを投入した一大バトルが展開する。そこにスカッとしたものを覚えるのは確かだが、いやいや、まだ十分じゃない。どれだけイモ野郎どもをぶっ殺しても、モヤモヤは残る。自由と思えていたことが、実はそうでもなかったというのは『イージー・ライダー』にも通じるテーマ。自由を求めるならば安穏の中に身を置くな。暴走し続けろ。
自由よりも責任の方を重んじるくらいに歳を取った筆者だが、改めてこの映画を観返ストグッとくるものがある。石井監督は本作の直後、エネルギーの暴走というより暴発と呼びたい『爆裂都市 BURST CITY』を撮って直情的なバイオレンスにとどめを刺したが、現在も尖った作品を送り出して転がり続けている。山田辰夫は2009年、PANTAは2023年にそれぞれ世を去ったが、本作のギラついた熱情を永遠にした貢献者であることに疑問の余地はない。映画館の大スクリーンで、爆音で、改めて観る日が待ち遠しい。