堤真一×瀬戸康史、大東駿介×浅野和之がキャリル・チャーチルの傑作戯曲を二作連続上演『A Number―数』『What If If Only―もしも もしせめて』レポート
Bunkamuraが日本と海外のクリエイターの共同作業のもと、優れた海外戯曲を今日的な視点で上演するDISCOVER WORLD THEATREシリーズ。第14弾は、現代イギリス演劇を代表する劇作家の一人であるキャリル・チャーチルの名作『A Number—数』と 2021年に発表した『What If If Only—もしも もしせめて』(日本初演)の2作を連続上演する。
演出は、これまで同シリーズで3作品を手がけ、高い評価を得ているジョナサン・マンビィ。『A Number—数』のキャストは、今回初共演の堤真一と瀬戸康史。『What If If Only—もしも もしせめて』は、舞台での共演が初となる大東駿介と浅野和之、 ポピエルマレック健太朗・涌澤昊生(Wキャスト)。初日を前に、キャスト陣による会見とゲネプロが行われた。
ーー今の心境や意気込みをお聞かせください。
堤:長い稽古期間を経て、いよいよ開幕します。まだまだ稽古したい気持ちですが、いい作品に仕上がっていると思うので楽しみにしていてください。
瀬戸:本当にあっという間で、堤さんと同じくもう半月ほど稽古したかった気持ちが正直あります。話せることが少ないので、ぜひ観ていただき、理解していただけたらと思います。
大東:2本立てで稽古期間も一緒ですが、作品の尺で言うと僕らは半分以下。お二人と違って、僕らはたっぷり稽古できたので本番が楽しみです(笑)
浅野:作品は短いですし、何十年も役者をやって来ましたが、初日は常に緊張します。ぜひ楽しみにしていてください。
ーーご自身の役柄の見どころを、ネタバレにならない範囲でお願いします。
堤:僕が演じるソルターは愚かな父です。人生をやり直すために子供のクローンを作って育てるけれど、バレてしまって愛する息子からも捨てられてしまう。台本を読みながら愚かだなと思いました。でも、彼がなぜそうなったのか、罪の意識を抱いて生きてきたという部分も作中で見えると思うのでしっかり演じていきたいです。
瀬戸:僕は3役を演じます。今の衣装や髪型は3役のうちどれなのかを劇場でチェックしていただきたいです。言えることが少ないんですが、体の使い方などを工夫して作ってきました。苦しい作品ではあるものの、もしかしたら最後には希望の光が見えるかもしれません。「自分ってなんだろう」といったことを感じていただける作品だと思います。
大東:僕が演じるのは某氏。短いお話の中で、某氏にとって大切な人を失った悲しみ、短い永遠のような時間というお話です。台本をいただいた時点で、こんな作品に出られるなんて本当にありがたいと思いました。出演していなくても観に来たと思うけど、出られる方が嬉しいですよね(笑)。
浅野:私は某氏の中に存在する未来と現在という役柄です。彼の中の葛藤や喜び、苦悩、希望などの体現として出て来ますが、見所としては、出てくる時が一番楽しいかなと(笑)。少しわかりにくい部分もあるかもしれませんが、難しく考えず、何かを感じていただけたらそれでいいと思っています。
ーー稽古中のエピソードはありますか?
堤:クローンを扱った作品ということで、遺伝子について研究している大学教授の講義を受けたのが楽しかったです。作品に直接関わりがあるわけではありませんが、知識としてすごくいい講義を受けられました。
瀬戸:僕らが「これから立ち稽古を頑張るか!」というタイミングで、大東さんが「もう俺たち通し!」と言ってきて、そこからの焦りが半端なかった(笑)。シンクロしないようで、どこか繋がっているような不思議な2作です。
大東:僕らは「大切な人を失った悲しみという」テーマの作品なので、心理学の先生から悲しみの段階や感情についての講義を受けました。僕は遺伝子工学の先生の講義も受け、自分たちの作品に繋がる部分も感じた。チャーチルの作品の中でこの2つが一緒に上演されるのは初めてですが、2作が寄り添うようにあると感じられたのが面白かったですね。
浅野:稽古が始まる前にみんなでやるバレーボールが楽しかったです。チームワークを作ること、心と体をほぐすのは芝居において大事なことですからね。非常に楽しかったしためになっていたと思います。
大東:一生懸命になりすぎて、稽古前に喉を潰しそうになりました(笑)。
堤:僕も次の日筋肉痛になった(笑)。
ーー演出のジョナサンさんのお話の中で印象的だったことはありますか?
堤:この2作の同時上演は世界初らしいです。ジョナサンは作家のチャーチルさんに合わせた作品をやりたいとずっと伝えていて、今回初めて許可が降りたそうです。もしかしたらイギリスから観に来てくれるかもしれないと話していました。それだけ期待されているみたいです。
瀬戸:台本に書かれていないところでどういう会話をしていたか、このシーンが終わった後に彼らはどうなるかを紐解いていく時間がありました。おかげで本を理解することができました。作中で一瞬だけ出てくる妻にも名前をつけてくれ、具体的に彼女が浮かび上がったこともあり、たくさんの学びがありました。
大東:僕らの演じるキャラクター、作品には登場しない奥さんにも名前をつけてくれました。ワークショップでは奥さん役の女優さんにも参加してもらい、すごく丁寧に失われた時間を作ってくださいました。あと、人との接し方をマンビィさんからすごく学びました。
浅野:某氏と奥さんにニックとアリスという名前をつけて。台本を分析する力が非常に強い方です。僕が今まで演劇をやってきた中でも非常に細やかに作った時間でした。台本は難解でしたが、具体的に示してくれた。地面を固めるように一つひとつのシーンを丁寧に作っていく作業がありがたかったです。
ーー最後に、楽しみにしている皆さんへのメッセージをお願いします。
堤:クローンという言葉が前面に出ている気がしますが、それよりも「自分とはなんだ」とか「過去に犯した罪を抱えて生きていくこと」など、人間としての課題が浮き上がってくる作品です。見る人の年齢や立場によっても見え方が変わると思います。難しいテーマだと感じるかもしれませんが、肩肘張らずに観に来ていただけたら嬉しいです。
瀬戸:親子の物語を通して、いろいろな愛の形があるんだと感じました。演じていて、「自分ってなんなんだろう」「もしかしたら自分を好きになれる・優しくなれる作品かもしれない」と思います。浅野さんもおっしゃっていましたが、「感じる」ことが今回はすごく大事。難しい作品だと思わずに観に来ていただけたら嬉しいです。
大東:『A Number—数』は自分と向き合うような作品になっていて、『What If If Only—もしも もしせめて』では人を思う心が描かれていて、2作を通して「自分として今を生きる」ということが見えてくると思います。短い作品ですが、こういったテーマを劇場で体感していただけるのがすごく重要。ぜひ劇場で演劇体験をしていただけたらと思います。
浅野:……というお話です。我々は20分しかありません。密度が濃いお芝居ですから、寝たらおしまいです。しっかり目を開けて、とにかく体感してください。お楽しみに!
『What If If Only—もしも もしせめて』は20分程度のごく短い物語。だが、愛する人を失った苦しみを繊細に描き出す大東と、彼に向かって様々な問いかけをぶつける“未来”と“現在”を演じる浅野の超然とした佇まいが非常に印象的だ。細やかに作り込まれた室内、たくさんの「もしも」が浮かんでいるようにも見えるセットが面白く、想像を膨らませられる。
『A Number—数』は1時間程度の2人芝居。一見仲が良さそうな父と息子の会話から次々に真実が明らかになっていく。堤は複雑な感情の揺れを丁寧に見せ、瀬戸は個性的な青年たちをそれぞれ魅力的に演じる。会話の中で父と息子の本心が見えてきたり、自分という存在や家族について考えさせられたり。重苦しいだけではなくクスッと笑えるシーンもちりばめられており、客席からは時折笑い声も上がっていた。
本作は2024年9月10日(火)~29 日(日)まで世田谷パブリックシアターにて上演。10月4日(金)~7日(月)に大阪・森ノ宮ピロティホール、10月12日(土)~14日(月・祝)に福岡・キャナルシティ劇場でも公演が行われる。
取材・文・撮影(会見のみ)=吉田沙奈