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フランスを代表する画家・ロートレックの素描を満喫 『ロートレック展 時をつかむ線』レポート

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 『フィロス・コレクション ロートレック展 時をつかむ線』

2024年6月22日(土)から9月23日(月・祝)まで、東京・新宿のSOMPO美術館にて、『フィロス・コレクション ロートレック展 時をつかむ線』が開催されている。

19世紀末のフランスを代表する画家、アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック(1864年―1901年)。伯爵家に生まれ、幼少時から絵を描くことに関心を抱いた。13歳で左脚を、14歳で右脚を骨折し、以降は下半身の成長が止まる。その後、画業のためにパリへ移住し、1884年頃からモンマルトルにアトリエを構え、歌手や芸人、娼婦たちの姿をいきいきとしたとした筆致で描いた。

本展は、ロートレックによる紙作品(グラフィック)の個人コレクションとしては世界最大規模であるフィロス・コレクションの作品を主に紹介するもの。素描作品に始まり、有名なポスターなどの版画作品、雑誌や書籍の挿絵、ロートレックが親しい人とやりとりをした手紙、私的な写真など、約240点もの充実した作品と資料で構成されている。

日本初上陸の貴重な作品を多数紹介

本展は、選び抜かれたロートレック作品を、「第1章 素描」「第2章 ロートレックの世界ーカフェ・コンセール、ダンスホール、キャバレ……」「第3章 出版ー書籍のための挿絵、雑誌、歌曲集」「第4章 ポスター」「第5章 私的生活と晩年」という5章構成で紹介する。ほぼ全作品がパーフェクトなコンディションとされるフィロス・コレクションが大規模に紹介されるのは日本では本展が初めてとのことで、大変貴重な機会となる。

会場風景

本展の特徴のひとつに、素描が非常に充実していることが挙げられる。ロートレックの素描は約5000点弱に及び、最初に素描を手掛けた7歳頃から最晩年の36歳まで単純計算で1日に1点は描いたことになる。素描は油彩のような派手さはないが、この世に1点しかない貴重なものだ。

左:《ポスター『快楽の女王』のための習作》1892年 青鉛筆、赤鉛筆/紙、 右:《男性頭部(ガレ氏の横顔)》1892年 ペン、インク/紙

素描にはロートレックが見た世界がそのまま反映されているので、時代背景や興味の対象などがダイレクトに伝わってくる。馬の動きやハヤブサのポーズ、人物像といった多種多様なスケッチを鑑賞していると、絵を通じて世界と対話していたであろうロートレックの人生を、共に生きているようだ。

右:《裸の自画像》1894年 鉛筆/紙


ロートレックがビジュアル化したかった絵をたっぷり鑑賞

ロートレックと言えば、劇場やキャバレで活躍する女優や歌手、ダンサーやコメディアンなど、賑やかな都市文化と華やかな人々の絵が思い浮かぶ。本展では、当時のパリの賑わいを洒脱な筆致で捉えたリトグラフや水彩なども多数紹介。画題の人々は、華やかなドレスや粋な帽子、洗練されたスーツなど、最先端のファッションに身を包んでいる。当時の風俗を知りたい人や、服飾に興味がある人も大いに堪能できるだろう。

左:《ムーラン・ルージュのお祭り》1893年 リトグラフ、 右:《ムーラン・ルージュにて、露仏同盟》1894年 リトグラフ

左:《アルバム『イヴェット・ギルベール』のための広告》1894年 リトグラフ、 右:《イヴェット・ギルベール》1893年 水彩/紙

ロートレックの絵画は、原画に文字が加えられた上で版画や楽譜・書籍の表紙などに仕上げられているものも多い。こうした過程によって元の絵とは印象が変わり、また、糊などを使うことで作品の質としては下がることもあるという。

本展では、文字が追加される前にロートレック自身が監督し、自分用の刷りとしてつくった数少ない版画も紹介。ロートレック作品の中でも特に有名な、キャバレ「ミルリトン」の宣伝用の作品《キャバレのアリスティド・ブリュアン》や、カフェ・コンセール(ショーを見せる飲食店)である「ジャルダン・ドゥ・パリ」の舞台用につくられた作品《ジャヌ・アヴリル》などは、文字のせ前のリトグラフ(石板画)が出品されている。いずれもコンディションが良く色鮮やかなので、作家自身がビジュアル化したかったイメージを堪能してほしい。

《キャバレのアリスティド・ブリュアン(文字のせ前)》1893年 リトグラフ

《ジャヌ・アヴリル(文字のせ前)》1893年 リトグラフ

リトグラフは石に絵を描き画材をつけて印刷する版画のことで、本展ではそのプロセスで使う石板も鑑賞できる。印刷後の石板は表層を削り取って再利用するので、版が残った状態で現存するのは珍しいと言える。当時の職人が使っていたものを目の当たりにしていると思うと感慨深い。

展示風景

ロートレックのポスターは、主題の魅力を最大限に引き出し、構図の面白さや大胆な色彩が特徴的で新鮮だ。彼が描いたポスターは人気を博し、街中に貼られるとすぐに剥がされたという。本展ではきれいなコンディションで残っているポスターを多数鑑賞できる。

《ディヴァン・ジャポネ》1893年 リトグラフ


ロートレックの交友関係が分かる貴重な手紙や写真も紹介

本展は絵画のほか、ロートレックが書いた手紙や招待状、本人の写真といった資料も充実している。厳格な貴族の家に生まれ、健康に恵まれなかったロートレックだが、友人や知人たちの絵や招待状などを見ると、楽しい仲間たちに囲まれ、賑やかな生活を送っていたことが分かる。

「第5章: 私的生活と晩年」より ロートレックの写真

《ブイヤベース、セスコーのメニュー・カード》1895年 リトグラフ

ロートレックが母に宛てた手紙などを見ると、本人のウィットやユーモアなどのほか、母に対する深い信頼や愛情が感じられる。ちょっとした絵や書体などもお洒落で、生活そのものが洗練されていたことが伝わってきた。

「第5章: 私的生活と晩年」より

本展は、素描でロートレックの作家としての視点を、版画やポスターでロートレックがビジュアル化したかった画題を、その他多彩な資料でロートレックのプライベートな姿を知ることができる、多角的な内容になっている。『フィロス・コレクション ロートレック展 時をつかむ線』の貴重で充実した作品を鑑賞し、ロートレックの新たな魅力に触れてほしい。

文・写真=中野昭子

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