「今日で解散ですけど、パフィストリーです」ーーPUFFY x CHEMISTRYによるパフィストリーが大阪で魅せた、伝説の解散ライブ
『SMA 50th Anniversary presents パフィストリー』 2024.07.06.SAT なんばHatch
7月6日(土)、大阪・なんばHatchにて、PUFFYとCHEMISTRYによるライブ『SMA 50th Anniversary presents パフィストリー』が行われた。本イベントは、PUFFYとCHEMISTRYが所属する総合芸能プロダクション「ソニー・ミュージックアーティスツ(通称SMA)」の創立50周年を記念して行われたもので、SMAでは2024年4月から2025年3月までを「ソニー・ミュージックアーティスツ50周年イヤー」として、所属アーティストらによる50本のライブやイベントの開催を宣言しており、本イベントもその一貫ではある。しかしながら、今回のためにアーティスト写真まで撮るほどの気合いの入れようということで、非常に注目度が高かった。PUFFYとCHEMISTRYは、20年以上同じ事務所の先輩後輩で、同じボーカル・デュオながら、意外にもコラボするのは今回が初めて。「SMAが50周年を迎えるまでのなかで、実はありそうでなかった。やってみよう!」という想いから実現した。6月22日のTOKYO DOME CITY HALLでのデビューライブを経て、なんばHatchでのライブが2度目、そして千秋楽にして解散ライブとなったパフィストリー。見る者全てを笑顔にした素晴らしき奇跡の化学反応の模様をレポートしよう。
PUFFYは今年デビュー28年、CHEMISTRYは今年デビュー23年。ともにSMAの歴史の中にあり、デビュー以来、日本の音楽シーンはもちろん、海外でも精力的に活動を続けてきた両者。特に平成初期をリアルタイムで過ごした世代にとって、彼らの活躍は今も記憶の片隅で輝き続けているのではないだろうか。1996年にユーロビートやコギャルブームの中、Tシャツ&ジーパン姿で、SMAの重鎮・奥田民生のプロデュースで鮮烈なデビューを飾ったPUFFY、テレビ東京のオーディション番組『ASAYAN』で最終選考に選ばれユニットを結成、2001年にデビューして瞬く間にミリオンセラーを達成し、同年の紅白歌合戦にも出演したCHEMISTRY。当時メディアで彼らの姿を見ない日はなかったと思う。つまりこの2組の組み合わせは、パフィストリーと同年代の人にとってはまさに「ど真ん中」。当時を懐かしく思うと同時に、今も第一線で活躍していることが勇気になっているだろうし、パフィストリーよりも下の世代の人にとっては、TikTokでのリバイバルヒットなどを通して、ポップアイコンとして、実力派ボーカル・デュオとして、新鮮に映っているだろう。この日会場に訪れていたオーディエンスには親子の姿もあり、2組が世代を超えて愛されていることが伝わってきた。
会場のなんばHatchには、ひとクセもふたクセもある(!?)家族写真風のパフィストリーのアー写フライヤーが貼られ、ロビーにはメディアからの祝い花が飾られていた。ステージ上には楽器がスタンバイし、オシャレなマーカーグラフィティロゴのバックドロップが吊るされる。フロアと2階席を埋め尽くしたオーディエンスは、皆パフィストリーやPUFFY、CHEMISTRYのグッズを身につけて、開演の時を待っていた。
定刻になり、「『SMA 50th Anniversary presents パフィストリー』にご来場いただき、誠にありがとうございます」とアナウンスが流れる。声の主はSMA所属の声優・戸谷菊之介。大の漫画好きであるPUFFYの大貫亜美によるご指名だそうで、美声で注意事項を伝えてくれた。
そしていよいよライブが開幕。会場BGMとして流れていた映画『ミッション:インポッシブル2』のテーマ曲、リンプ・ビズキットの「Take A Look Around」のボリュームが大きくなり、会場が暗転してステージが赤いライトに染まると、バンドメンバーの木下裕晴(Ba.)、オカモトコウキ(Gt./OKAMOTO’S)、後関好宏(Sax.)、重永亮介(Key.)、山口美代子(Dr.)、Yuumi(Dr.)が登場。さらに、PUFFYの大貫亜美と吉村由美、CHEMISTRYの川畑要と堂珍嘉邦が登場すると、大歓声が湧き上がった。
50周年記念とあって、ライブはのっけからスペシャルな展開。「SMA 50thパフィストリーメドレー」として、SMAに所属するアーティストの歴代ヒットナンバーを連続で披露した。重永の鍵盤が優しく鳴り響き、西野カナの「会いたくて会いたくて(2010年)」を川畑が美しく切ない声で歌い始めると、目の前のレアな光景にざわつく客席。やがてそこに重なる堂珍のハモりに大歓声と拍手が贈られた。続く真心ブラザーズの「ENDLESS SUMMER NUDE(1997年)」は大貫と吉村も入り、4人で歌唱。PUFFYによる木村カエラの「リルラ リルハ(2005年)」、CHEMISTRYによるLiSAの「紅蓮華(2019年)」を経て、パフィストリーによるユニコーンの「スターな男(1991年)」では、最高のロックン・ロールに会場全体が大盛り上がり。楽曲後半ではバンドメンバーのそれぞれのソロの見せ場もバッチリキマる。
バンドメンバー6人の作り出す空気感も素晴らしく、心底楽しそうな笑顔を浮かべて、時には立ち上がったり踊ったりしながら全力で楽器を奏でる様子からは、「良いライブにしよう」という気持ちとチームワークの良さが随所から伝わってきた。特に女性ドラマー2人のツインドラムが非常に良いスパイスとなっていて、目を合わせてプレイする2人のキュートさと力強さ、溢れ出すポジティブさが、ステージの空気をぐんと明るいものにしていたように思う。
メドレーを終えるとCHEMISTRYが一旦ステージを去り、PUFFYのパートへ。<ウ・ハ!>という掛け声から、ユニコーンの楽曲をカバーした「働く男」を、ラフにパワフルに歌い上げる。どんな時でもPUFFYが歌うとPUFFYになり、あっという間に周囲を巻き込んで、嬉し楽しくさせてしまうのは、完全に彼女たちの魅力ゆえ。オーディエンスも手を挙げて楽しそうに身体を揺らしていた。
MCでは「こんばんは。パフィストリーのPUFFYです(吉村)」「前回のデビューライブで担当を決めたんです。あなた可愛い担当。私パフィストリーの指むくみ担当、亜美でーす(大貫)」と挨拶。しかし「今日は浮腫んでないね。何でだろう?」ということで、「(東京の前の晩に)塩辛に大根おろしかけて一味かけて醤油ばーってかけたでしょ(吉村)」と原因を探ったり、「指ダイエット成功亜美でーす(大貫)」と改めたり、飾らないトークで笑わせる。
「ミュージック、カモン!」と本編に戻り、2ndシングル「これが私の生きる道」を披露。キャッチーで誰もが知るメロディー、張りのある歌声とハーモニカが懐かしく、フロアもゴキゲンでクラップを鳴らして身体を揺らす。続き、PUFFYの名付け親で、Andy Sturmerが作曲を手がけた疾走感たっぷりの「赤いブランコ」、生形真一(ELLEGARDEN、Nothing’s Carved In Stone)のサウンドプロデューサーで全編英語詞の「Pathfinder」、スピッツの草野正宗が作詞曲を、奥田民生がプロデュースを手がけた「愛のしるし」を連続でプレイ。実に名曲揃い&思わず踊りだしたくなるグルーヴが最高だ。
さらにここからは、ボーカル・デュオならではの貴重なコラボレーションが実現。大貫と吉村が「CHEMISTRYのあざとい担当を呼ぶか」と話しているところに、袖からひょこっと顔を出した「あざとクニ子」こと堂珍。「あざとい」への憧れを口にする2人の様子をちらり気にしつつも、堂珍はSMAが50周年であることを説明するなど、ライブを進行していく。
やがて大貫がはけ、ステージは吉村と堂珍の2人に。かつてSMAの顧問も務めていた奥田民生もカバーをしていたという系譜を引き継いで、1980年にリリースされたサザンオールスターズの「シャ・ラ・ラ」をカバー。ゆったりとメロウに溶けてゆく堂珍の透明感あるボーカルはもちろんながら、吉村の大人っぽいソロボーカルは新鮮で、2人のハーモニーにオーディエンスもうっとりと酔いしれていた。
続いては川畑と大貫の番。サングラス姿で登場した川畑は「一昔前は(耳に引っ掛けてました)」と、通称「ブラサン」を生で披露するサービスぶりに、オーディエンスは大興奮。「次の曲はかけながら歌おうか」とサングラスがよく似合う、鈴木聖美 with Rats&Starの「ロンリー・チャップリン(1987年)」をカバーした。もちろん「僕1人では歌いません! お呼びしましょう、亜美姉さん!」と呼び込まれた大貫はショルダーがゴツめの、ピンクのキラキラのラメジャケット(吉村の私物)を着てステージにカムバック。完全に楽曲世界に入り込んだ大貫と川畑は、表情もバッチリキメて、ムーディーに歌声を絡ませる。ラスサビの<二人をつなぐ あのメロディー>では2人手をあわせてハートを作り、川畑が大貫をエスコートする形で社交ダンスのようにくるんと一回転。オーディエンスからの大喝采を一身に浴びていた。
歌い終わると話題は大貫の肩へ。東京公演でも「中に何かが入っている」という話になったそうで「前回何が入ってるか言わなかったよね。知りたいよね(川畑)」というフリから「実は紙コップが4つ入ってま〜す(大貫)」と暴露。息ぴったりで盛り上がる2人のトークに客席は大爆笑の渦に包まれた。
ここからはCHEMISTRYのターン。「You Go Your Way」「It takes Two」と懐かしくも良質なグッドメロディーを、20年以上経ってもなお不変の歌声で、最高に心地良く響かせてゆく。PUFFYの時は思い切り賑やかな雰囲気を出していたバンドメンバーも、クールで落ち着いた表情と演奏スタイルに一変。叙情的ながら、どこか野生的でスリリングな大人の雰囲気もカッコ良い。「Point of No Return」ではしっとりセクシーな2人の歌声が際立つアレンジで、オーディエンスは存分に楽曲の世界に浸っていた。
「楽しんでもらえてますでしょうか?パフィストリー、すごい企画ですよね。事務所でもビッグイベントらしいですよ(川畑)」「気合いの入り方が違うよね(堂珍)」と軽くMCを挟んだあとは、ツインドラムのビートが華やかでファンキーな「Get Together Again」へ。さらにクラップで高まったところに「ユメノツヅキ」を投下して、最高のグルーヴを作り上げた。
そして「最後の曲です!」と披露されたのは、職人技の光るハイクオリティなマッシュアップ曲。CHEMISTRYの「Let’s Get Together Now」のイントロが軽快に聴こえ、川畑と堂珍が<ラーラーラー>と歌ったかと思えば、サウンドがPUFFYの「渚にまつわるエトセトラ」に変化! PUFFYの2人もステージに登場し、そのまま「渚にまつわるエトセトラ」が始まると思いきや、Aメロを歌うのはCHEMISTRYで、歌詞とメロディーは「Let’s Get Together Now」。BメロはPUFFYが「渚にまつわるエトセトラ」の歌詞とメロディーを歌う。つまりは2曲を合体して小節ごとに交互に歌うというアレンジになっていた(曲名は2曲を足して「Let’s 渚」)。サビも同様で、それぞれの楽曲のメロディーに釣られることなく見事に歌い分ける4人と、バンドメンバーの演奏力の高さに、思わず舌を巻いた。このアレンジを手がけたのは、長年PUFFYのバンマスを務めるベースの木下。あまりにも複雑な演奏と歌唱を笑顔でやってのけるメンバーに大興奮したオーディエンスは、クラップとジャンプで大盛り上がり。最後にふさわしい熱狂に包まれ、本編はこれにて終了した。
すぐさま発生したアンコールを求めるクラップに呼び戻された4人。改めて「今日で解散ですけど、パフィストリーです」と挨拶し、トークを展開する。本当にお喋りが止まらない様子の4人は、わちゃわちゃとパフィストリーグッズと再度バンドメンバーを紹介する。まったりした空気の中で「再結成あるのかなあ?(大貫)」「次はSMA100周年の時とかね(吉村)」「本当に楽しかったですね。まさか姉さんたちとやると思わなかったですもん。アー写まで撮って(川畑)」「付き合いは長いが、こんなことしたことなかったもんね。しんみりして泣いちゃう(吉村)」「次のサビで泣こっか(大貫)」「歌えないかもしれないけど聴いてくれる?(川畑)」「もうちょっとだけパフィストリーをお楽しみください(堂珍)」と終わりを惜しみつつ、アンコールではそれぞれのデビュー曲を披露した。
CHEMISTRYの「PIECES OF A DREAM」は、重ねたキャリアの中で進化したボーカル力を存分に発揮。PUFFYの2人もリズムに身体を揺らし、サビ前では泣き真似をするも、サビでは楽しそうに笑顔でハモって楽曲に彩りを添える。会場は4人のハーモニーとあたたかな光に包まれ、オーディエンスもグッドメロディーと最高の歌声に酔いしれていた。
ラストチューンはPUFFYの「アジアの純真」。一世を風靡した大ヒットソングにフロアは大熱狂。パワフルでラフでキュートで、デビュー当時から変わらぬ歌声とキャラクターで魅了し続ける大貫と吉村は、ステージを大きく使って客席との距離を近づけ、クライマックスに向けて会場の熱を高めていく。川畑と堂珍も曲の間ステップを踏んだりコーラスしたりと楽しそう。<溢れ出ても〜大阪〜!>と歌詞を変えて歌うとオーディエンスのテンションは急上昇。大喜びで手を挙げ、最高の一体感を作り出した。最後は吉村が指示を出して、川畑と堂珍のジャンプでフィニッシュ!
こうして非常に惜しまれつつ、伝説のボーカル・デュオユニット「パフィストリー」は解散した。それぞれの名前を呼ぶ歓声と大きな拍手が響き渡る中、「そっ……」とマイクを置く4人。そしてバンドメンバーと手をつなぎ、10人で大きく一礼。先にバンドメンバーを見送り、吉村、大貫、川畑、堂珍の4人も笑顔で手を振ってステージを去っていった。
わずか2回のライブながら、持ち前の歌唱力とトーク力、エンタメ力、さらに素晴らしきメンバーによるバンドサウンドで数々の名曲を披露したパフィストリー。SMAの50年の歴史を感じると同時に、PUFFYとCHEMISTRYの楽曲たちが、色褪せることなく、パワーアップして響き続けていることが感じられた解散ライブだった。豊かな個性と仲の良さ、遊び心も相まって、まさに人々の記憶に刻まれるライブを魅せてくれた4人。いつかまた再結成される日が来ることがあるのなら、その時を楽しみにしていよう。
取材・文=久保田瑛理 撮影=松村直