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異彩を放つ内館牧子ドラマ「あしたがあるから」主題歌は今井美樹「PIECE OF MY WISH」

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1991年10月18日 TBS系ドラマ「あしたがあるから」放送開始日

ジメッとしていて、ときにドロドロな内館牧子脚本のドラマ


バブル景気は崩壊していたが、ほとんどの人がそのことに気づいていなかった1991年秋。金曜夜10時、TBS系列では大手総合商社を舞台にしたドラマ『あしたがあるから』が放送されていた。脚本は内館牧子、主演は今井美樹。姉妹で1人の男性を取り合うドロドロ展開が話題となった『想い出にかわるまで』(1990年)と同じコンビだ。ヒロイン自ら主題歌「PIECE OF MY WISH」を歌い、今井美樹にとっては初のミリオンセラーとなった。

今井が演じたのは、総合商社・城東商事に勤務する普通のOL、令子。同じ職場の課長補佐・健太(石橋凌)と恋愛関係にあり、寿退社することで頭がいっぱいな、いわゆる腰かけOLだ。だが、女性社員限定で提出を命じられた新ビジネスの企画書が採用され、特別企画部の部長に抜擢されたことで結婚どころではなくなる。

トレンディドラマが花盛りの80年代後半から90年代前半、内館牧子脚本のドラマは異彩を放っていた。美男美女が登場し、恋に仕事に揺れ動くOLが主人公というのは、従来のトレンディドラマと変わらない。だが、内館ドラマはあんなにカラッとしていない。ジメッとしていて、ときにドロドロ。だからこそ、続きが気になって仕方なくなる。

『想い出にかわるまで』ほどではないものの、この『あしたがあるから』も湿り気たっぷり。普通のOLが仕事にやりがいを見出し、思わぬ力を発揮するというと爽やかそうだが、そうはさせないのが内館牧子である。

私怨で会社経営を弄ぶ、総合商社の社長。バブルは崩壊しているのに


ヒロインの両親や家族ががっつりストーリーに絡むのも内館ドラマの特徴。両親がほぼほぼ登場しないトレンディドラマと違い、なんなら展開の肝になっている。

そもそもコピーやお茶くみが主業務だった令子が部長に抜擢されたのは、令子の母親・万里子(大楠道代)が原因。かつて万里子に振られた城東商事社長(村井国夫)が復讐のために、ビジネスなどできないであろう令子を部長に抜擢したのだ。20代の頃に自分を振った女とその家族に、商社の社長にまで上り詰めた50代の男が復讐… という展開には、むむ?である。執念深いにもほどがある。さらに、令子の恋人で仕事がデキる健太は、社長の私怨により重要なプロジェクトから外されて窓際に追いやられる。

いやいや、実はバブルはじけてるんだよ、不況がやってくるよ。そんな個人的な恨みで会社経営を弄んじゃだめでしょ、などと村井国夫にツッコみたくなる。

ヒロインが取り組む花ビジネス。この時代、花ビジネスは熱かった


だが、適度なリアリティを混ぜることによって、そんな強引な展開を程よいスパイスにして、説得力を持たせるのが内館牧子のすごいところ。令子が特別企画部で取り組むのが生花を扱うビジネスなのだ。花屋の娘で会社のデスクにも花を飾る令子。企画書には “どこでも気楽に花が買えるようにしたい” とぺらっと1行書いただけなのだが、花ビジネスにはちょっとリアリティがあった。

この時代、花ビジネスは盛り上がっていた。ドラマ放送の前年、90年に開催された『国際花と緑の博覧会』(通称:花博)は、特別博覧会史上最高の来場者数を記録。当時フラワーアレンジメントがOLに人気の習い事だったのも忘れちゃいけない。同じく90年に創刊された習い事の情報誌『ケイコとマナブ』(リクルート発行、2016年休刊)には、多くのフラワーアレンジメント教室が掲載されていた。突如、花ビジネスに参入する商社があっても違和感はない。

令子たち特別企画部が事業化を進めるのが、コンビニエンスストアでの生花販売。あらゆるコンビニ本部に断られながら、唯一契約してくれたのがam/pm。そう、今はなきあのam/pmだ。架空のコンビニチェーンではなく、実在していたコンビニが出てくることで、ドラマが現実と地続きになっていく気がした。

企業が “女性活躍” をPRしたがった時代


城東商事、初の女性部長ということで、令子は記者会見にまで引っ張り出される。1986年に男女雇用機会均等法が施行され、企業が “女性活躍” を唱えだしたこの頃。女性管理職、女性が活躍する部署をやたらと前面に出してPRしたがるのも、いかにも当時らしいエピソードだ。そうそう、この頃国会ではマドンナ旋風が吹き荒れていたよね。

この他にも、部長・今井美樹にナメきった態度をとる若き福山雅治(これがドラマ初出演)、典型的な九州男児役がぴったりな石橋凌、未練を引きずりまくる執念深い中嶋朋子など、見どころいっぱい。

2024年夏、TVerの「名作ドラマ特集」で『あしたがあるから』を見つけて、一気見してしまった。32年後の今も、観始めたら止まらない、内館牧子のストーリーテラーとしての力を実感させるドラマだった。

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