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“カリフォルニア・ワインの伝説” 長澤鼎(かなえ)の子孫が「フリーマン」の新ワインメーカーに就任

ワイン王国

“カリフォルニア・ワインの伝説” 長澤鼎(かなえ)の子孫が「フリーマン」の新ワインメーカーに就任

この3月、カリフォルニア・ソノマの「フリーマン・ヴィンヤード & ワイナリー」のオーナー兼醸造家のアキコ・フリーマンさんが来日、後継者の発表を行った。聞けば、アキコさんとは不思議な縁で繋がった人物。その秘話と新ワインメーカーの素顔を紹介する。

text by Kimiko ANZAI

ワイナリーはスタイリッシュな印象。予約すればビジットも可能だ

日本人醸造家のワインが初めてホワイトハウスのテーブルに――。そんな快挙を成し遂げたのがカリフォルニア「フリーマン・ヴィンヤード & ワイナリー」のオーナー兼醸造家アキコ・フリーマンさんだった。2015年4月に執り行われたバラク・オバマ元大統領が安倍晋三元首相渡米の際に主催した晩餐会で『フリーマン 涼風 シャルドネ グリーン・ヴァレー・オブ・ロシアン・リヴァー・ヴァレー 2013年』が供されたのだ。現地のメディアはこぞって報道し、アキコさんのワインは一躍表舞台へと躍り出た。24年4月には、岸田文雄元首相訪米の折のカマラ・ハリス元副大統領主催の国務省公式昼食会において『フリーマン ユーキ・エステート ブラン・ド・ブラン ソノマ・コースト 2020年』をはじめ、コースに合わせて『フリーマン アキコズ・キュヴェ ピノ・ノワール ウエスト・ソノマ・コースト 2021年』などが供されている。以後、そのエレガントで奥深い味わいは、多くのファンを増やしている。

オーナー兼醸造家のアキコ・フリーマンさん(左)。スタンフォード大学でイタリア・ルネサンス期の美術史の修士号を取得した才女。ワインメーカーの赤星映司ダニエル氏(右)。カリフォルニア州立大学フレズノ校で醸造学の修士号を取得、ナパ・ヴァレーとソノマのワイナリーで研鑽を積む

躍進を続けるフリーマン・ヴィンヤード & ワイナリーだが、今年また新たなステージを迎えた。アキコさんが後継者として、自身のもとでアソシエイト・ワインメーカーとして活躍していた赤星映司ダニエル氏を新ワインメーカーに指名したのだ。彼女は赤星氏についてこう語る。
「彼にならワイナリーの未来を任せることができると確信したのは、一緒に働いているうちに、互いのワインの好みや味覚が似ていると気づいたことでした。私はブルゴーニュ・ワインが好きでしたので、ピノ・ノワールやシャルドネに適したソノマでワインを造りたかったのです。彼もピノ・ノワールが大好きで、しかも、彼と私はワインの方向性や味覚が似ていることがわかった。安心して任せられると思いました」

二人の出会いは13年前のこと。カリフォルニアで働く日系人醸造家が集まる会があり、その時が初対面だった。アキコさんによれば、赤星氏は知的な好青年という印象だったという。赤星氏も、その日のことは鮮明に記憶していると話す。
「初めて“アキコズ・キュヴェ”を飲んだ時、鳥肌が立ちました。ソノマでこんな美しいピノ・ノワールが造れるのだと感動しました」

『アキコズ・キュヴェ ピノ・ノワール ウエスト・ソノマ・コースト 2021年』 ピノ・ノワール100%(ユーキ・エステートを中心にグロリア・エステート、プラットエステートのブドウをブレンド)。樽熟成11カ月(新樽24パーセント)。名前の由来は、社内試飲でアキコさんのブレンドがほぼ毎年1位に選ばれることから。サクランボやスミレの花の香り。エレガントで奥行きのある味わい。750㎖ 1万5,400円

そして何年か経ったころ、赤星氏は、アキコさんがアシスタントワインメーカーを探していることを人づてに聞く。
「しばらくお会いしていなかったので、私のことを覚えているかなと思いつつ、意を決し『立候補していいですか?』とメールしました(笑)」と赤星氏。

実は、赤星氏は、ワインファンや専門家なら知っている人も多い“カリフォルニアのワイン王”長澤鼎(かなえ)の子孫に当たる人物。19世紀末、薩英戦争を背景に、当時の薩摩藩主島津久光の命によって1865年に渡英した“密留学生”だった。留学後、彼はキリスト教の団体に帰依したことを機に、カリフォルニアに居を移した。そこでブドウ栽培を始めたことで大きな成功を収め、カリフォルニア・ワイン史に残る「ファウンテングローブ・ワイナリー」を設立した。だが、禁酒法や排日運動により、多くの財産を失うなど数奇な運命をたどった。当時、多くの日本人移民を助けたことから、今も大きな尊敬を受けている。

「長澤鼎が祖先の一人であったことを知ったのは大学生の時、ちょうどワインに興味を持ち、醸造家になろうと思っていたころでした。私がファミリーにおいて最初の醸造家になるのだと思っていたのですが、150年前に長澤に先を越されていたとは……(笑)。今、彼は私の誇りでもあります」

加えて、アキコさんと赤星氏の間には、こんな不思議な縁もあった。かつて、赤星氏の曽祖父である赤星鉄馬が居住していた東京・鳥居坂の邸宅(現・国際文化会館)は、その後、岩崎小彌太(岩崎弥太郎の甥)が取得した。実はアキコさんの祖母は岩崎弥太郎の一族。アキコさんと赤星氏は、かつて互いのファミリーが交流していたことを知ったのだ。二人は驚き、アキコさんは赤星氏に「100年を経て、ようやくお会いできましたね(笑)」と伝えたという。

「祖先から続く縁を大切に、また、長澤鼎に恥じないように、素晴らしいワインを造り続けなくてはと思っています」と赤星氏。アキコさんはディレクター・オブ・ワインメイキングとして今後もワイン造りに関わっていく予定だという。

ファミリー同士の縁で結ばれた強力チームが今後どのような美しいワインを生み出すのか、カリフォルニア・ワインの楽しみがまた一つ増えた。

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