「あっ」と「わっ」と「うわっ」の違いは何? 言語学者・秋田喜美さんが日本語のオノマトペを徹底解剖!【NHK俳句】
「わくわく」「わさわさ」…「W音」で始まるオノマトペのイメージとは? 秋田喜美さんの解説を紹介!
「わくわく」「わいわい」「をんをん」…オノマトペは擬態語や擬音語の総称です。
2025年度『NHK俳句』テキストに掲載の「オノマトペ解剖辞典」は、新書大賞2024(中央公論新社主催)で大賞を受賞した『言語の本質』の共著者で言語学者の秋田喜美さんによる連載です。
様々なオノマトペを俳句とともに徹底解剖するこの連載で、日本語への興味を深め、俳句作りのヒントも学んでみましょう。
今回は『NHK俳句』テキスト2025年7月号から、「w音」のオノマトペに宿るイメージについての解説をお届けします。
共鳴音 W音で始まるオノマトペ
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「あっ」と「わっ」と「うわっ」の違いは何でしょう? 「あっ」は、驚いた時や何かに気づいた時にとっさに出る声です。一方、「わっ」を発する典型的な状況は、何かに対して瞬間的に抱いた不快感を漏らす時。「うわっ」では、さらに不快感を味わう時間と程度が増します。
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発音を見てみると、「あ」は口を軽く開けて声を出すだけで発音できる、最も簡単な母音です。そのため、とっさの反応は「いっ」や「おっ」ではなく「あっ」です。「わっ」の発音は、両唇の丸めが必要になる分、労力を要します。「うわっ」の発音では、両唇を丸める時間がそれより長くなる人が多いのではないでしょうか。
このように、唇の丸めには感情の動きとの相関が見受けられます。そして、唇の丸めを伴うW音で始まるオノマトペにもまた、感情豊かなものが目立ちます。鴨の列が足元を通り過ぎていく時の「わくわく」は、きっと胸躍る愉快な気持ちでしょう(ただ、「わくわく」はかつて不安を表すオノマトペでした。そのため、「わくわく」なのに愉快でない句に出会うこともあるかもしれません)。「わぢわぢ」は、恐怖を表すこともありますが、初釣の例では寒さによる震えを表しています。また、児の「わんわん」は激しく泣くような大きな感情の動きを表していますね。
「わいわい」は陽気さ、「わやわや」は騒がしさ、「わらわら」はにこやかさを表すことがあります。ただ、今回の句例では、これらのダイナミックな心情を連想させる数量の多さも表しています。「わいわい」からは湯気の量、「わやわや」からは切られた野菜の数、「わらわら」からは子どもたちの数が伝わります。数量の多さは、杉の花が揺れる「わさわさ」にも共通する特徴です。
W音は基本的に「わ」です。ただ、時に「を」を語頭に持つオノマトペも見受けられます。吊鐘の「をんをん」は、「うぉんうぉん」とW音で読むことで、籠った低い反響音がうまく写せます。感情に訴える重く深い音色は、「わ」から始まるオノマトペと共通のイメージを持っています。
『NHK俳句』テキストでは、ワ行のア段以外はほぼ退化している現象と日本語の特徴についても解説しています。
講師
秋田喜美(あきた・きみ)
1982年、愛知県生まれ。名古屋大学文学部准教授。専門は認知・心理言語学。著書・編書に『オノマトペの認知科学』『言語の本質――ことばはどう生まれ、進化したか』、Ideophones, Mimetics and Expressives など。
※掲載時の情報です
◆『NHK俳句』2025年7月号より「オノマトペ解剖辞典」
◆イラスト:川村 易
◆参考文献:『オノマトペの語義変化研究』(中里理子著・勉誠社)/『現代俳句擬音・擬態語辞典』(水庭進編・博友社)/『日本語のオノマトペ──音象徴と構造』(浜野祥子著・くろしお出版)
◆トップ写真:tokyoimages/イメージマート(テキストへの掲載はありません)