ガス G.「自分の大好きなことを目的にすれば、それが好きな人達も必ず見つかるハズさ」2024来日インタビュー
東京、大阪で盛況に2公演を終えた数日後、ガス G.への対面インタビューのチャンスを得た。取材序盤、ライヴ・サウンドについての指摘でいきなり機嫌を損ねてしまった…ものの、ガス自身はショウの内容に大満足していたようで、オーディエンスの反応の良さにも大感激していた様子。また彼は、オールドスクールなHR/HMへのコダワリについても“自分のやるべきこと”として熱く語ってくれた…!!
INFO
ファイアーウインド13年ぶりの熱狂来日公演、たどり着いたバンドの完成形! 2024.5.15 @渋谷クラブクアトロ
ギター主体のヴァイブに戻りたい…というのもあった
YG:まずは久々のジャパン・ツアーを終えた感想から聞かせてください。
ガス G.(以下GG):最高だったよ! 僕達ファイアーウインドにとって、これまでになくマジカルな最高のショウが出来たからね!!
YG:東京公演を観させてもらいましたが、正直お客さんの入りは上々とは言えなかったものの、終始盛り上がりが凄くて、歓声なんて実際の人数の数倍に感じられるぐらいで、本当に素晴らしいショウでした!
GG:そうだな──ソールドアウトとはいかなかったけど、でも…結構な数のオーディエンスがいたんじゃない? そして彼等は、間違いなく大きな大きな歓声で迎えてくれた。正直、あんな良い反応が返ってくるなんて思ってなかったよ。みんなショウ開始直後から凄く夢中になってくれて、一緒になって歌い、ヘッドバンギングも激しかった! 曲と曲の合間でさえ、ずっと歓声を上げていたしね。日本のオーディエンスって、いつもは曲が終わって拍手をして、そのあとは静かになるだろ? でも、あの水曜日(5月15日)のショウはそうじゃなかった。いや、あそこまでの大歓迎は予想出来なかったな。プロモーターだって想像だにしていなかったんじゃない? 実際、彼等も驚いていたしね。間違いなく最高の経験になったよ!!
YG:ひとつだけ気になったのはキーボードがいないことで、例えばギター・ソロ・パートなどで音が薄いな…と感じたことだったのですが?
GG:う〜ん…その指摘には同意できないな。何故なら、キーボード・サウンドはバッキング・トラックで流しているからさ。
YG:ここのところ、ずっと鍵盤奏者不在でやってきていますが、以前のような5人編成に戻すことは考えていませんか?
GG:その質問に対する答えは、「このバンドに5人目のメンバーを迎えることはない」だな。僕は4人組が好きなんだ。このバンドには、僕のギターだけで充分だからね。それについてバンドの他のメンバーにも訊いてみたら、全員が同じ気持ちだった。だから、僕達はバンドとして今の4人編成という状況を楽しんでいるのさ。その方がツアーでの移動が楽だし、ステージのセッティングもずっと容易になる。あと、キーボードを多用することなく、ギター主体のヴァイブに戻りたい…というのもあった。
ただ、さっきも言ったように、キーボード・パートはすべてバッキング・トラックで流している。それどころか、以前鍵盤奏者が在籍していた頃のライヴでは、すべてのキーボード・サウンドを生演奏では出していなかったけど、今は同期音源を駆使して出しているしね。事前にレコーディングされた音源を実際のアルバムから抜き出して使うんだ。いや〜、まさかヤング・ギターからそんな質問をされるなんてさ…。もしかして今回は、『YOUNG KEYBOARD』の取材なのかい?(笑)
YG:いえいえ…(苦笑)。ということは、2020年にボブ(カティオニス)が脱退した時、もう鍵盤は必要ナシ…とすぐ思ったのでしょうか?
GG:そうだよ。当時は、新しいバンド名で新たなスタートを切ろうかと思ったぐらいさ。新生ファイアーウインドとして、言わば別のバンドになるワケだからね。それにそもそもこのバンドは、実のところ4人組として始動したんだ。最初の数枚のアルバムでは4ピース・バンドだった。だから、鍵盤が脱けたから後任を…とはならない。つまり、今の編成は意識してそうなっているということさ。
YG:「Rising Fire」(2020年『FIREWIND』収録)で、ギター・ソロがハモっているように聞こえましたが、あれも同期音源で…?
GG:そう、事前にレコーディングしておいたパートがあるからね。さっきも言った通りだよ。ギターとキーボードの両方があるんだ。ハーモニー・パートのセカンド・ギターは、事前にレコーディングされている。「The Fire And The Fury」(2003年『BURNING EARTH』収録)でも同じさ。バッキング・トラックにはギターも含まれているよ。勿論、イントロなどではエフェクト・サウンドだとか、ありとあらゆるものを使ってライヴ・サウンドを強化しているんだ。
YG:なるほど。実は、ベース・サウンドも弱いと感じたのですが、それも含めて“ソロ・パートで音が薄くなった”と思ったのは、観ていた場所が悪かったのかもしれません…。
GG:君がどこから観ていたのか知らないけど、ウチのサウンド・エンジニアは優秀だから、僕は彼を信頼しているよ。
YG:勿論です! 個人的に音が薄いと感じたのは事実ですが、最初に言ったように、ライヴそのものは本当に素晴らしいと思いました。
GG:うん、それはありがたいね。
観客からの凄まじいエネルギーを、僕達全員が確かに感じた!
YG:約100分と長いショウで観応えも抜群でしたが、海外ではそこまで長いショウはやっていないのでは?
GG:ああ。ヨーロッパでは80分、アメリカは75分だったかな…。
YG:2011年の来日公演では、確か2時間ぐらいプレイしてくれましたが、やはり日本のファンのために特別に…?
GG:うん。今回は久々の来日というのもあったしね。あと、日本ではサポート・バンドが付かないから…というのもある。実際、ツアーによりけりなんだ。ヨーロッパではマスタープランとのダブル・ヘッドライナー・ツアーをやったから両バンドとも80〜85分ずつプレイしたし、アメリカ・ツアーの時は全3バンドで廻ったから、どうしても時間的制約があってさ。その点、日本ではより長くプレイすることが出来る。ロンドンでも、サポート・バンドがひとつだけだったんで、同じぐらいのロング・セットをやったことがあるよ。でも、日本ツアーに向けてさらに2〜3曲増やしたんだ。前回のツアーでやらなかった「Head Up High」(2008年『THE PREMONITION』収録)と、あと「Orbitual Sunrise」(『FIREWIND』収録)などをね。後者は日本のためだけに加えたんだよ。
YG:セットリストを決めるのは大変だ…という話をよく聞きますが、今回は20曲近くもあって、もしかすると楽しみながら選曲していったのでは…?
GG:いや〜、やっぱり大変だよ。アルバムが増えれば増えるほど、どんどん難しくなる。だから、メンバーとアイデアをやり取りしながら決めていくのさ。最終的に、なかなか良い感じに落ち着いたんじゃない? 言うまでもなく、全員を満足させることなんて絶対に不可能だ。アルバムが増えていけば、それだけ選択肢は増えるんだからね。それに、やらなきゃいけない定番曲というのもある。
ただ今回のセットリストでは、ニュー・アルバム(2024年『STAND UNITED』)のプロモーションも行ないつつ、過去のバンドについても良い形でアピール出来たと思う。ニュー・アルバムから収録曲の約半数をプレイしながらも、ちゃんとキャリアを網羅出来ていたんじゃない? というか、是非そうあって欲しいな…!
勿論、どこの国でプレイするか…というのもある。特定の曲にこだわるファンもいるしね。「あの曲をやってくれなかった…!!」と言われることなんてしょっちゅうだよ。ギリシャでは日本よりももっと頻繁にライヴをやる機会があるからか、みんないつも、僕達が思いも付かないようなあまり知られていない曲をリクエストされるんだ。その点、日本では前回の来日公演のことも考慮して、これまでのキャリアを振り返りながら新曲もしっかり加えて、なかなかイイ感じの演目が組めたと思う。
YG:インストの「The Fire And The Fury」は途中までしかプレイしませんでしたが…?
GG:もう15年間あの形でプレイしていて、丸々やることはないよ。でも、それについてはみんなで話し合ってもいるところなんで、もしかしたらいずれフルでやることになるかもしれない。次のツアーでどうなるか、楽しみにしていてくれ(笑)。
YG:いずれにしても、100分のショウでも全く中だるみすることなく、最後までオーディエンスのテンションが落ちなかったのも凄かったと思います。ライヴの終演後って、周囲から「◯◯が気になった」とか「◯◯をやってくれなかった」といった声がよく耳に入ってくるものですが、今回は本当に「良かった!」「凄かった!!」という声しか聞こえてこなくて…。
GG:そうなの? それは良いね!!
YG:感動のあまり泣いている人も…。
GG:ああ、知ってる! ハービーも言ってたな。オーディエンスの中の何人かが泣いていることに気付いた…ってね。とにかく、色々な感情が入り交じっていたんだ。みんな大興奮してくれて──まぁ、あの涙は嬉し泣きだったと信じたいね。悲しくて泣いていたんじゃないことを祈るよ(笑)。でも、観客からの凄まじいエネルギーを、僕達全員が確かに感じたのは紛れもない事実だ。だって、みんなギター・メロディやリフの一部まで歌ってくれていたんだからさ…! オープニング曲の「Salvation Day」(『STAND UNITED』収録)なんて、新曲なのにいきなりサビが大合唱になって、あれは本当に嬉しかったな…!! 実に素晴らしいライヴだったね、うんうん。
Herbie Langhans(vo)
YG:オーディエンスはみんな、「毎年、来日してくれたらイイのに!」と思っていたのでは?
GG:僕もそうなれば…と思っている。事実、こうして僕はまだ日本にいるけど、次回の来日についてもう考え始めているしね!
YG:あと個人的に嬉しいのは、ガスがずっとトラディショナルなHR/HMをやり続けていることなんです。オジー(オズボーン)のバンドでプレイしたことで、アメリカのショウビズに揉まれ、それに染まっていき、いずれヒップなバンドから声が掛かって、メインストリームのロック/メタルをプレイすることになるのかな…なんて思っていたこともありましたが、全くそうはなっていないワケで。
GG:そう言ってもらえて嬉しいよ。でも、それが僕のスタイルなんだろうな。僕はただ、自分の好きな音楽をプレイしているだけだから。ごく単純なことさ。ずっと意識してこれをやっている。特に、オジーのバンドを辞めて以降は…ね。あのまま大物バンドで雇われギタリストを続けるチャンスもあっただろうけど、僕は自分の音楽をやることにした。自分をハッピーにしてくれるのは、これしかないんだし! アーティストとして何かを創造したいと思うんだったら、心からプレイ出来ることをやらないといけない──そう思うよ。でないと、やる意味なんてない。だから、今ファイアーウインドでやっていることは、正に僕が作りたい音楽だ…と言える。
これはいつも言っていることだけど、自分の大好きなことを自分の目的にすれば、それが好きな人達も必ず見つかるハズさ。だから僕はそうしている。僕には、それこそが──それだけが意味のあることなんだ。コマーシャルだとかトレンドだとか、そういったこととは無関係だよ。事実、僕はラジオでかけてもらうために音楽をやったことは一度もない。というかさ、そもそもラジオでかけてもらいたいと思うんだったら、こんな(ファイアーウインドのような)音楽をやったらダメだよね?(笑)
YG:ギター・ヒーローであり続けてくれているのも最高です。一時はギター・ソロを弾くのがカッコ悪いという風潮もありましたから…。
GG:うん、確かにそうだった。実際、僕がファイアーウインドを始めた’00年代の初めは、ギター・ソロを弾くことはあまり人気がなかったんだ。ところが、2003年だか2004年だかに何かが起こって、突然またクールになったのさ。でも、それって欧米での傾向なのかもしれない。だって日本では、常にギタリストや演奏スキルのあるミュージシャンを評価し続けてくれていたからな。要は、何にだってサイクルというのがあって、いつか一巡する…ってことだよ。あのアメリカのシーンで、ずっと低迷していたギター・ソロが再びクールになったんだからね。
だからこそ──そういったことは予測出来ないんだから、やっぱり自分のやるべきことをやるしかないんだよ。もしかしたら、また10年間ギター・ソロがダサくなってしまうかもしれないし、その先に再び人気が盛り返すかもしれない。いつだってそうさ。’80年代もそうだったし、’90年代はグランジのおかげでギター・ソロは死に絶えてしまった…。そして、’00年代半ばになってまた戻ってきたけど、この先はどうなるか分からないから。
YG:是非、このまま弾きまくっていってください!
GG:勿論だよ!
“ライヴならではの演出”だね!
YG:ところで──今回はジャクソンのシグネチュア・モデル“Gus G. Star”の黒と白を使っていましたが、それぞれの使い分けはどのようにして…?
GG:違いは…そうだな、色かな?(笑) いやいや、黒にはフロイドローズ・トレモロが付いていて、白──正確にはアイボリーだけど、そっちはフィックスド・ブリッジになっている。あと指板も違う。黒い方はローズウッド指板で、アイボリーの方はパーフェローなんだ。それで、セット本編では黒い方をずっと弾いていたよ。その後、アンコールで持ち替えたけど。
YG:それは、特に“この曲はこのギターで”というではなくて、単に気分を変えるとか…そんな感じで?(笑)
GG:正にそうだ(笑)。チューニングはひとつしかないからね。ファイアーウインドはあまり色んなチューニングを使わない。アルバムではたまに変えるけど、ライヴでは1種類だけさ。あとは、チューニングをリフレッシュさせるために、ギターを取り替えた方が良い…という考え方もあるな。それから、トレモロの有り・無しもあるかもしれない。新しめの曲には、トレモロをちょこっと使うモノがあるから。昔の曲ではフィックスド・ブリッジに戻っているから、そっちにトレモロは必要ない。
YG:アーミングといえば、トレモロ・バーが付いていないギターを弾いたアンコールでネック・ベンドをやっていませんでしたか?
GG:どうだろう……憶えてないなぁ。
YG:無意識のうちにやっていたとか? それを見て、だったらトレモロ・バー付きのギターを使えば…と思ったんです。
GG:ああ、分かった! ギターを高く抱え上げて低音弦をベンドさせたのを、ネック・ベンドと勘違いしたんじゃない? 確か「Maniac」(マイケル・センベロのカヴァー:『THE PREMONITION』収録)のエンディングでそんなことをやったような気がするから。あれって、プレイというよりはパフォーマンスなんだ。低音弦でフィードバックを出して少し放っておいたあと、ギターを持ち上げて、“グイ〜ン”とやったんだと思う。まぁ、言わば“ライヴならではの演出”だね。
YG:最近は棒立ちや、ネックとにらめっこしているかのように淡々と弾くギタリストも多いので、是非ともガスには今後もガンガンそうやっていって欲しいです!
GG:そうか、嬉しいな! よし、今後ももっとやるよ…!!(笑)
(インタビュー&文●奥村裕司 Yuzi Okumura 通訳●川原真理子 Mariko Kawahara 写真●Yuki Kuroyanagi)