まさに「大岡裁き」!名画に描かれた赤子を争う2人の女、どちらが本当の母親なのか
「なんだか良かった」だけで終わってしまう美術鑑賞に、物足りなさを感じている方へ。書籍『美術館が面白くなる大人の教養 「なんかよかった」で終わらない 絵画の観方』(KADOKAWA)は、「絵画をもっと深く味わってみたい」と思う皆さんにおすすめしたい一冊です。「オフィーリアは何を描いているの?」「モナ・リザの魅力って?」...そんな疑問も、この本を読めば氷解します。東京大学で美術史を学んだ著者が、絵画鑑賞の「コツ」を丁寧に解説。物語や歴史の知識をひも解くことで、名画がより一層、鮮やかに見えてきます。この本を手に、美術鑑賞をさらに有意義な体験に変えてみませんか。
※本記事は井上 響 (著)、 秋山 聰 (監修)による書籍『美術館が面白くなる大人の教養 「なんかよかった」で終わらない 絵画の観方』から一部抜粋・編集しました。
赤子を争う二人の女性
ガスパール・デ・クライエル
《ソロモン王の裁き》
ガスパール・デ・クライエル《ソロモン王の裁き》 1620-22年頃、ヘント美術館、ヘント(ベルギー)
「この赤子を真っ二つにせよ」
これはそんな判決の場面を描いた絵画です。
一段高いところに座る王は、今まさに命令したところです。右側を見ると、兵士が赤子を斬り殺そうとしています。
これはどういう場面なのか。
あるところに、争いあう二人の女性がいました。一人の女が言います。
「王よ、赤子を私のものだと認めてください。この赤子は私が産んだ子です」
もう一人の女も負けじと言います。
「いえ、この子は私の子です」
彼女達は同じ家に住んでいて、同じ日に赤子を産みました。けれど一人の子は、生まれてす
ぐに亡くなってしまいます。
そして一人の女が主張するのです。
「この女は、私の赤子と自分の死んだ赤子をすり替えました。私の赤子は、本当は生きているのに、この女に盗られたのです。ある朝目覚めると、この女の死んだ赤子とすり替えられていたのです」
もう一人は言います。
「そんなことはない、これは私の子だ」と。
そうして二人とも、自分の子だと争います。しかし、どちらも証拠に欠けており、どちらが本当の親か分かりません。
そんな訴えを聞いた王が出した答えは...
「子を真っ二つにして、半分ずつ両方に与えよ」
というものでした。
一方はその判決を受け入れます。しかしもう一方は子を可哀想に思うあまり、子を殺すことを拒否し、相手に渡してくれと王に申し出ます。それを見た王は、愛情を持つ女が本当の親であるとしました。本当の親なら、子を殺さないことを見抜いていたのです。
先ほどの絵画は、王が命令をしてまさに赤子が殺されようとする場面です。
中央の兵士は今まさに剣で赤子を真っ二つにしようとするところです。右側の女性はそれを受け入れ、左側の女性は殺すのを止めようとしています。
ニコラ・プッサン《ソロモンの審判》 1649年、ルーヴル美術館、パリ(フランス)
こちらの作品でも観てみましょう。
こちらの作品でも同様に左側の兵士が赤子を殺そうとするところです。
中央にいる一人の女性は殺せと叫んでいるようにさえ見えます。
そして左側の女性は慈悲を願っているところです。
それを見た中央のソロモン王は、左側の女性に赤子を渡すように、指示をしたところです。
これらの作品はなんとも賢い判決をした王様の物語を描いた絵画なのです。
主題
ソロモン王の審判
主題を見分けるポイント
赤子を争う二人の女性と王
鑑賞のポイント
構図、どちらを本当の親として表現しているか