ホームセンターの接客からナースアシスタントへ。患者さんが教えてくれた「接し方の正解はひとつじゃない」|私のキャリアチェンジ #1
医師や看護師と協力し、患者さんの療養や入院生活をさまざまな角度から支える「ナースアシスタント(看護助手、看護補佐)」。資格がなくても医療現場で活躍できるため、未経験から転職するケースも増えています。2024年春にテレビドラマ『となりのナースエイド』(日本テレビ系)で題材になり、看護補助者の普及広報を目的とした厚生労働省とのタイアップでも話題になりました。いま、認知度が急拡大している職業です。
北里大学病院に勤める平澤さんは、医療系の専門学校を卒業後、ホームセンターでの店頭接客などを経験したのちナースアシスタントに転職。新人のころは、接客業との大きな違いに「意外な気づき」があったといいます。そんな平澤さんに、ナースアシスタントの仕事のリアルややりがいについて聞きました。
プロフィール
平澤さん(44歳)
前職はスーパーやホームセンターなどで勤務。2008年から看護補佐として北里大学病院に派遣。2010年専任職員に登用。入職後は心臓血管センター、消化器外科、乳腺甲状腺外科・形成外科、血液内科などで勤務。
医療系の学校に通ってはいたが、業界未経験での挑戦だった
Q 最初に、平澤さんのこれまでのキャリアについて教えてください。
専門学校を卒業後、事務職をはじめ、いくつかの仕事を経験しました。在職期間が最も長かったのはホームセンターの社員で、約3年間勤務。さまざまな業務を担当しましたが、メインは店頭での接客でした。
Q ナースアシスタントになろうと思ったきっかけは?
ナースアシスタントという職業があることは、専門学校時代に知りました。医療系の学校だったので「医療事務」の実地研修があり、実は北里大学病院にお世話になったんですよ。そこで初めて、ナースアシスタントの方をお見かけしたんです。
そして、転職しようと求人情報をあたっているときに「ナースアシスタント」という言葉が目に留まって。祖母がリウマチで介護が必要だったこともあり、 専門学校ではおもに介護の知識を学んできたので、その経験も活かせるのではと考えてチャレンジすることにしました。
ナースアシスタントは「人と向き合う力」を磨き続ける仕事
Q 実際にナースアシスタントになって、意外だった気づきはありましたか?
ナースアシスタントとして働く前は、サービスを提供する相手が「患者さん」であることをきちんと理解できていなかったと思います。
たとえば、入職して間もない頃のこと。朝、病室を回りながら大きな声で「おはようございます」とあいさつをしていると、「少し声のボリュームを抑えてほしい」といわれてしまったんです。体調が優れないときは外からの刺激に敏感になることも多いので、「元気すぎるあいさつ」はここでは不適切なのだと学びました。
ナースアシスタントも接客業も、相手にサービスを提供するという点は同じ。でも、患者さんは病気やケガを抱えているデリケートな状態にあります。 一人ひとりの様子や反応をより注意深く観察して、接し方の正解を探る必要があることは大きな気づきでしたね 。
一方で、前職で培ったスキルが活きていると感じることもありますよ。ホームセンターの社員だったときは、お困りのお客様がいないか常に注意し、積極的にお声がけしていました。その習慣は今も役立っていて、早めのお声がけができています。
Q 働いていてやりがいを感じるのはどんなときですか?
患者さんが心を開いてくれて、距離が近づいたと感じるときにやりがいを感じます。ご家族のことや、人には少し言いにくい愚痴などのプライベートな話をしてくださった後に、 「聞いてくれて心が軽くなった」「話しやすいあなたが担当してくれてよかった」 という言葉をいただけるととてもうれしいです。
また、看護師をはじめとした同僚からの 「助かったよ、ありがとう」「平澤さんがいてくれてよかった」 といった言葉もやりがいにつながっていますね。
Q 反対に、仕事のどんなところに難しさを感じますか?
私たちナースアシスタントは、病気やケガを治す医療行為ではなく、患者さんが安心して、快適に過ごせるためのサポートをしています。そこで重要になるのが、 コミュニケーション です。
どんな話し方や距離感なら、その患者さんが「居心地がいい」と感じられるか。つらそうにしているときにどんな言葉が求められるか。これらの「ひとつの正解やゴールがあるわけではない問い」と向き合うのはやはり難しいです。今でも至らなかったと思うことはありますし、きっとこれからもずっと向き合う課題だと思っています。
医療チームの一員として、これからも患者さんの役に立ちたい
Q ナースアシスタントとして、今後どのように成長したいですか?
患者さんのケアは、多職種が密に連携し、協力し合うことで成り立っています。自分だけ、ひとりだけではできないことだらけ。つまり、ここでもコミュニケーションが大切になります。
必要に応じて自ら発信ができ、また相手からも気軽に相談してもらえる。職種やキャリア、年齢を問わず、誰とでも質の高い連携がとれる。そんなナースアシスタントを目指したいです 。そのために、日々知識を積み上げ、言葉遣いを工夫しながら積極的に声かけし、周りの方々のいいところを見て学ぶ意識を常に持っていたいと思っています。
Q 最後に、これからナースアシスタントを目指す方にメッセージをお願いします。
ナースアシスタントは、患者さんや同僚とたくさんコミュニケーションをとる仕事なので、人と話すことが好きな方が向いていると思います。会話が「得意」というより「楽しめる」と、きっと成長していけるのではないでしょうか。
現場では医療の知識もある程度求められますが、研修があったり、周りの人たちがフォローしてくれたりするので、学ぼうとする姿勢があれば大丈夫です。
大変なこともあるけれど、患者さんの役に立てるというやりがいは何にも代えがたいので、ぜひ多くの方にチャレンジしてほしいです!
平澤さんの1日のスケジュール例/早番の日
医療現場では丁寧なコミュニケーションが必須!
ナースアシスタント歴16年の平澤さんと、同じ北里大学病院で働くナースアシスタントの高橋さん。ベテランのおふたりに、仕事上のコミュニケーションで大切にしていることを聞きました。
平澤
病院のスケジュールは、オペ(手術)や検査が長引いたり、優先順位が急に入れ替わったりして、どうしても変更が生じるものです。そのため、職種の垣根を超えて、チーム全体でこまめにコミュニケーションをとり、常に最新の情報を全員に共有する必要があります。
高橋
コミュニケーションをとる際に大切にしているのは、「相手に伝わったか」の確認を徹底することですね。ただ伝えるのではなく、相手の状況や反応を見て、理解しているかを確認しています。
平澤
医療現場では勘違いが重大な結果になりますからね。私は、情報を正確に伝えることを意識しており、たとえば患者さんの名前は必ずフルネームで伝えます。どんなに基本的なことでも、「言わなくても伝わるだろう」と思うことでも、省略しないようにしています。
関連記事: 経理事務からナースアシスタントへ。磨いたコミュニケーションスキルで医療チームの「縁の下の力持ち」に|私のキャリアチェンジ #2
取材協力:北里大学病院
編集・撮影:求人ボックスジャーナル編集部