【KBCレインボーウィーク】 40歳の時に旧知の友人から突然のカミングアウト 現役保育士が子どもたちに伝える「誰かを思いやる想像力」
【石内禎子(さちこ)さん/51歳/福岡県糟屋郡内の保育園で働く保育士】
性的マイノリティを支援する「アライ」として、九州最大級のイベント「九州レインボープライド」の立ち上げから長年にわたって携わる。「無理に認めたり、応援したりしなくていい。ただ、傷つけないでほしい」。保育の現場から社会へ、彼女が伝えたい多様性のあり方とは―。
■「この世界をもっと知らなければ」友人の診断書が人生を変えた
石内さんの人生が大きく動いたのは、40代のころ。幼なじみがカミングアウトしてくれたときでした。
「友人が、自分と向き合った末に受け取った診断書を見せてくれました。そこには、その友人が自分の存在を認められず、どれほど苦しんで生きてきたかが記されていました。一番近くにいたはずなのに、何も知らなかった。自分に何ができるだろう、と強く思いました」
友人の「自分のような人間は結婚できない」という言葉に、当時ブライダルプランナーとして働いていた石内さんは「そんなことは絶対にない」と奮起。性的マイノリティを受け入れてくれる結婚式場を探し回りました。その過程で偶然たどり着いたのが、当事者とその家族、支援者が集う、とある団体でした。「そこには、お子さんを完全に受け入れている親御さんもいれば、『なぜうちの子が』と涙を流す親御さんもいました。さまざまな家族の形、葛藤を目の当たりにして、この世界のことをもっと深く知らなければと痛感しました」
この出会いが、彼女をアライとしての活動へと導く大きな一歩となりました。
■「当事者だけのお祭りにしない」九州レインボープライドに込めた想い
友人のために何かできないかと奔走していた時期、石内さんをさらなる運命的な出会いが待っていました。同じく性的マイノリティの結婚式を支援したいと活動していたのぶゑさん(NPO法人カラフルチェンジラボ代表理事)を手伝うことになるのです。そして2015年、のぶゑさんが「九州レインボープライド(QRP)」を発足。「ちょっとだけ手伝って」と石内さんも活動に誘われ、気が付けばその運営に深く携わることになりました。
やがて石内さんは、LGBTQに関する研修会を手伝うようになりました。企業や公民館で活動を続けていく中で、QRPの副題でもある「未来の全ての子どもたちのために」を特に強く意識したそう。当事者が子ども時代に経験した辛い思いを、これからの子どもたちには絶対にさせないー。その強い願いは、QRPのポスターやチラシを地域の小中学校へ届ける活動にもつながっていきました。
「チラシを一枚一枚子どもたちに渡せば、その先にいる親御さんの目に触れるかもしれない。一人で悩んでいる当事者の子や、その家族に必要な情報が届いてほしいと願っていました」
活動の中で 一貫して大切にした理念は、「QRPを当事者だけのお祭りにしない」こと。「知らない人に、無理に理解を求める必要はない。でも、“偏見のメガネ”を外して、ただそこにいる人たちの存在を見てもらう機会を作りたかったんです」。非当事者である自分が活動に加わることで、より多くの人に興味を持ってもらえるかもしれない。石内さんはそう考えていました。
■呼びかけは「男の子”と思う”人~」。保育の現場でまく多様性の種
現在、石内さんはQRPの活動からは離れ、保育士として、日々子どもたちと向き合っています。彼女が保育の中で意識しているのは、無意識の決めつけをしないこと。「トイレに行くとき、『男の子と思う人~?』『女の子と思う人~?』と、あえて曖昧な聞き方をして、子どもたち自身に考え、選ぶ余地を残すようにしています。ロッカーの名前札も、ピンクや水色ではなく、緑や黄色を使おうと保育園や他の先生に提案したこともあります」
園児同士で「男の子なのにプリキュアの塗り絵はおかしいよ」なんて声が上がったときも、石内さんは決してそれを否定しません。
「『そうなんだ。でも先生は女の人だけど、ウルトラマンの塗り絵もするよ』って返すんです。『おかしくないよ』『何色でもいいんだよ』って。子どもたちがその場で深く理解していなくても、『ふーん』とか『へえ』って心に引っかかるだけで十分だと思っています」。
大事なのは、決して強制せず、男の子・女の子っ”ぽく”いることも、そうじゃないこともどちらも否定しないこと。そして、さまざまな選択肢があることを伝えます。子どもたちの「ふーん」「へえ」と思う小さな引っかかりが、いつか誰かを思いやる想像力につながると信じているからです。
■「押し付けがましくならない」葛藤の末に見つけたスタンス
パワフルに活動を続ける中で、石内さんは葛藤も経験しました。活動に熱が入るあまり、実の親から「一方的に話している」と指摘され、ハッとしたこともあるそうです。「権利の主張はとても大切です。でも、戦うような言い方では相手は聞く耳を持ってくれない。保育の現場でも、少数派(マイノリティ)のために、多数派(マジョリティ)の子どもたちが我慢を強いられる場面を見てきました。どちらか一方ではなく、両方を受け止める視点が必要だと感じています」
この経験から、石内さんは「押し付けがましくならない」というスタンスを大切にしています。「知ることは大事。でも、無理に好きになったり、認めたりする必要はない。ただ、その存在を傷つけないことが守られればいい」と感じています。
“偏見のメガネ”が存在しない未来を目指し、彼女は今日も、保育園の子どもたち一人ひとりに優しい声をかけ続けます。
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