J1残留争い…ジュビロ磐田はアウェー鳥栖戦の勝利が大前提。浦和レッズーアルビレックス新潟はどうなる?
【サッカージャーナリスト・河治良幸】
ジュビロ磐田は逆転残留をかけて、サガン鳥栖との最終節に挑む。ヤマハでの今シーズン最終戦となった前節はFC東京に2−1で逆転勝利。決定機会の阻止による相手の退場やハンドによるPKにも助けられた形だが、自分たちで掴み取った流れでもある。1週間空いてのゲームになるが、勢いをそのままアウェーの戦いにぶつけていきたいところだ。
現在18位の磐田が鳥栖に勝利しても、他会場の結果が残留・降格を左右する。16位の柏レイソル、17位のアルビレックス新潟ともに勝ち点41で、得失点差は柏が−11、新潟は−15だ。一方の磐田は勝点38、得失点差が−18となっており、もし磐田が勝利し、新潟か柏が敗れてもシンプルに磐田の残留が決まるわけではない。もし得失点差も並んだ場合は総得点で磐田が上回ることが見込まれるが、柏との差を1試合で埋めるのは簡単ではないだろう。
柏と新潟の状況は…
柏はアウェーで19位の北海道コンサドーレ札幌と対戦する。すでに降格が決まった札幌だが、“ミシャ”ことミハイロ・ペトロヴィッチ監督のラストゲームに向けて、高いモチベーションで臨むことは間違いないだろう。札幌の攻撃的なスタイルを持ってすれば、流れ次第では大勝もありうるが、5試合連続で後半アディショナルタイムに勝ち点を落としている柏も決してチームのパフォーマンスが悪い訳ではない。
今シーズンの柏が最も大差で敗れたのはアウェーの横浜F・マリノス戦で、結果は0−4だった。そうした結果が最終節で起こらない保証はないが、より現実的なのは新潟が浦和レッズに敗れ、磐田が鳥栖に2点差以上で勝利して逆転するケースだ。
ルヴァン杯で見事な躍進を見せて、惜しくも準優勝に終わった新潟だが、リーグ戦に限れば8試合未勝利が続いている。前節はホームでガンバ大阪を相手に、ほぼ互角の内容ながら決め手を欠く形で、立ち上がりに先制点を奪ったガンバに逃げ切りを許した。
しかも、新潟はカップ戦も含めて、アウェーで浦和に勝利したことが一度もなく、埼玉スタジアムを“鬼門”としている。特に磐田の山田大記と時を同じく、今シーズン限りでの現役引退を表明している興梠慎三は新潟戦を得意としており、7得点を記録している。
浦和のモチベーションは…
ラストゲームを前に、浦和の興梠はゴールに関して「自分が点を取ることが期待されてると思いますけど、点取ろうと強く思うと空回りしちゃうので。そこは平常心でやりますし、チームが勝てれば誰が点を取ってもいい」と語っている。
浦和にとって新潟戦はタイトルや残留がかかっている訳ではないが、興梠や宇賀神友弥の現役ラストゲームであり、ホームで勝利して締めくくり、チーム・選手ともども良い流れで来シーズンに繋げたいという意欲は伝わってくる。欧州から浦和に復帰した原口元気も「長く浦和を支えてもらった2人に、変な形で去らせたくない」と語っており、この一戦にクラブの命運がかかる新潟にも負けない思いを主張した。
原口は新潟について「非常に良いチームというのは聞いている」と認めながら、そこが逆に勝機があると考えているようだ。その理由として「ポゼッションしたいチームなので、良い守備でボールを取れば相手は人数かけているので、必ず空いてるところがある。そこでうまくショートカウンターを決められたら理想的な形かなと思う。リスクのあるサッカーをやっているので、そこをうまく突けたらいい」と語る。
ホーム鳥栖戦は0−3…
浦和の狙いがハマれば、もしかしたら2点差以上の結果というものも生まれるかもしれない。しかし、磐田としては試合前から他会場を気にすることなく、目の前の鳥栖を全力で叩きにいくことに集中するべきだろう。前回対戦は5月11日にさかのぼるが、ジャーメイン良がアウェーの東京ヴェルディ戦で負傷した直後の試合で、ヤマハで0−3という磐田にとっては屈辱的な敗戦だった。
ただ、シーズン後半に監督交代を経験した鳥栖は当時のスタメン選手のうち横山歩夢がイングランドのバーミンガム、菊地泰智が名古屋グランパス、河原創が川崎フロンターレに移籍し、手塚康平が古巣の柏に復帰しており、ある意味、別チームになっているところもある。
読みにくいのは3試合の出場停止明けとなるFWマルセロ・ヒアンがどういう状態になるかだ。ここまで12得点、前回の磐田戦で鮮やかなゴールを決めた鳥栖のエースだが、8月の札幌戦で負傷し、そこから4試合の欠場を強いられた。京都サンガ戦の退場劇は復帰3試合目で、この間に得点は無い。
ストライカーがこうした復帰戦でいきなり結果を出すことが、いかに難しいかはジャーメインの復帰直後のパフォーマンスを見ても明らかだが、磐田にとって嫌な選手であることに変わりはない。
しかも鳥栖は前節、アウェーでルヴァン王者の名古屋グランパスに3−0の勝利を飾っている。立ち上がりにヴィキンタス・スリヴカ、中原輝の両翼が連続得点を決めて流れに乗り、後半に中原が追加点で仕留めるという理想的な試合展開だった。
優勝を争うFC町田ゼルビアに勝利した3試合前のホームゲームを見ても分かる通り、降格が決まったからといって、鳥栖がチームとして折れていないことは磐田も肝に銘じて臨む必要がある。
山田主将が語るチームの歴史
横内昭展監督が率いる磐田にとってもクラブの行末がかかる最終節であり、東京戦後に引退会見を行った山田大記にとっても、本当の現役ラストゲームになる。山田は「(藤田)俊哉さんがきてくれて、横さん(横内監督)がきてくれて、いろんなものが変わって。今いい方向に進んでいると思う。その流れというものもJ2に落ちたりを繰り返していると、クラブ作りを難しくしてしまう、チーム作りを難しくしてしまう」と残留の重要性を強調していた。
「これまでも、継続していれば良い方向にいったんじゃないかというチームの方向性もあったが、それも降格によって断ち切られて、また0から1から作り直すというのを繰り返してきて、今に至っている。何としてもJ1に残って、去年、今年と積み上げてきたものに、しっかりと自分たちが上積みしていくためにも、どうにか残留というものを掴み取りたい」
そうしたキャプテンの思いはチームとして共有しているはず。最初から2点差勝利を意識すると、攻め急ぎや失点のリスクにつながってしまうので、まずは現在のベースとなっている5−4−1の守備で4−4−2が予想される鳥栖の攻め手を封じて、大台の20得点に1と迫るジャーメインや東京戦で貴重な同点弾を決めたマテウス・ペイショットを起点に、効果的なサイドアタックを繰り出していきたい。
前半は先に点を与えず、その中で得点を奪うという狙いがうまく行く形で、複数得点が取れれば理想だが、そう簡単に運ぶとは限らない最終節の戦いで、難しくなってくるのは後半のベンチワークとゲームコントロールだ。
スタートに関しては目の前の試合に集中するべきだが、1点リードしているケースでさらに点を取りにいくのか、しっかりとクローズするのか、同点で終盤を迎えた時のリスクのかけ方なども変わってくる。
後半途中から交代で入る選手はおそらく、他会場の試合経過に応じた戦い方も伝達されることになる。そうした心理状況が目の前の鳥栖に隙を見せることになってはいけない。ここは横内監督の手腕も問われてくるところだが、まずはシーズンの最終戦らしく、自分たちの力を信じて勝ちにいくこと。そこに2点差以上の勝利や他会場の結果が付いてくれば逆転残留のシナリオは完成するが、目の前の相手に最善を尽くす以外に道はない。