5年ぶりに対馬で<カワウソ>の生息を確認 繁殖している可能性あり?
2017年、長崎県の対馬で野生のカワウソが撮影され、大きな話題となりました。一方、翌年の2018年には、糞のDNA解析により生存が科学的に確認されたものの、それ以降は生存を裏付ける明確な証拠は得られていませんでした。
そんななか、高知大学自然科学系理工学部門の研究グループは、2024年2月に対馬で採取されたカワウソの糞を解析。ミトコンドリアDNAの全塩基配列の解読が行われました。
この研究成果は2025年5月17日に開催された「第76回日本動物学会中国四国支部大会」で発表されています。
ニホンカワウソは絶滅危惧種
日本のカワウソ(ニホンカワウソ)はかつて、全国に広く分布しており、河川や沿岸域などの水辺の生態系を象徴する動物の1つとして親しまれてきました。
しかし、ニホンカワウソの乱獲や水質汚染、生息環境の破壊により個体数は激減。1979年に高知県の新荘川(しんじょうがわ)で目撃されたのを最後に、生息に関する確かな証拠が得られておらず、2012年に環境省はニホンカワウソを絶滅種に指定しました。
絶滅種に指定されたニホンカワウソですが、その後は再発見が期待されており、長年にわたり高知県をはじめ、かつての分布域で探索が継続されています。
しかし、これまでの調査では確実な痕跡は確認されていなかったそうです。
カワウソ再発見?
そうした中、2017年2月には琉球大学が長崎県・対馬に設置したセンサーカメラによりカワウソと思われる動物が撮影されます。
環境省が実施した緊急調査では、現地で採取された糞からユーラシアカワウソのDNAが検出。対馬における野生カワウソの生息が科学的に証明されたのです。この発見は国内で実に38年ぶりとなる野生個体の記録であり、学術的にはもちろんのこと社会的にも大きな反響を呼びました。
その後の環境省が行った調査では、島内にて追加の糞が採取され、遺伝子解析から少なくとも4個体の存在が推定されています。さらにこれらの糞から得られたミトコンドリアDNAの一部配列に基づくハプロタイプ解析により、これらの個体が韓国南東部から移入した可能性が高いと考えられています。
しかし、2019年以降は糞などの直接的な痕跡が確認されず、対馬での生息が継続しているかどうか不明な状態が続きました。
動物の糞を解析
対馬でカワウソが定着・繁殖しているのか、あるいは偶発的に渡来したのか対馬のカワウソの継続的な生存確認及び遺伝的な解析が求められる中、それらを明らかにすべく研究が行われます。
今回、高知大学自然科学系理工学部門の研究グループが行った調査では、日本各地でカワウソの痕跡調査を行う山本大輝氏が2024年2月に対馬で発見したカワウソとみられる動物の糞が対象になりました。
この動物の糞を用い、ミトコンドリアDNAの塩基配列を決定し分子系統解析を実施。ミトコンドリアDNAの一部塩基配列を確認したところ、カワウソに特異的な塩基配列が確認されたとのことです。
さらにハプロタイプ解析を行ったところ、環境省の調査と同様、韓国南東部のユーラシアカワウソのハプロタイプと一致したのです。
今回の研究で解析した個体は韓国のユーラシアカワウソ個体群と近縁であり、2017~2018年にかけての環境省の調査で確認された個体群と同様の系統に属していると考えられています。
対馬のカワウソの生息状況
今回の発見により、2018年12月以降で確認がされていなかった対馬のカワウソは、5年後の2024年にも生息していることが明らかになりました。
対馬におけるカワウソの生息状況は、「2017年に確認された個体が2024年まで生存」「韓国南東部から新たな個体が漂流」「対馬で繁殖し新たな個体が誕生」の3つの可能性が考えられています。
今後は高知大学と他の研究機関との連携により、2017~2018年に確認された個体と今回の個体と遺伝比較を進めるとのこと。この先も対馬のカワウソから目が離せませんね。
(サカナト編集部)