Yahoo! JAPAN

子どもを主語にした部活動改革を|NPO法人『部活動リノベクエストLabo』が描く“ミライのブカツ”

Sports

教員を中心に60人以上の会員で構成され、部活動改革を推進するコミュニティを運営するNPO法人『部活動リノベクエストLabo』。理事長の藤田晋太郎さん(以下、藤田)は、「子どもを中心に考えた部活動改革で、子どもたちに“フェアな選択肢”をつくりたい」 と語ります。

同法人は、産学官民連携によってアントレプレナーシップ教育を軸に「運動×食事×学び」のプログラムを一気通貫で行う「アントレLabo」や、子どもたち主体で地域クラブを運営することを目指した「ミライのブカツ構想」などのプロジェクトを立ち上げ、単なるスポーツの機会創出にとどまらず、人間力の育成にも力を入れています。

今回は、藤田さんだけでなく、副理事長の宮守陽介さん(以下、宮守)、北野和良さん(以下、北野)、事務局長の河合洋さん(以下、河合)、事務局の東達哉さん(以下、東)の5名にお話を伺いました。

構成員の3分の2が教員以外、新たな部活動改革コミュニティ

ーー部活動改革に取り組むNPO法人部活動リノベクエストLaboは、どのような経緯で設立されたのですか?

藤田)もともと私は学校現場で教員として、いわゆる“部活動大好き教員(BDK)”としてやってきました。しかし、子どもを置き去りにした部活動をただ地域に移行するだけの部活動改革に対して、「このままの部活動で本当にいいのか?」と未来に対する疑問を持つようになりました。そのような問題意識から、3年前に同じような想いを持つ仲間と一緒に団体を立ち上げ、学校や行政と連携しながら“未来の部活動の地域展開”のモデルづくりに取り組み始めました。

ーーそのビジョンに共感してくれた人たちが集まり、コミュニティとして広がっていったのですね。

藤田)最初は教員中心でスタートしましたが、そのコンセプトに共感してくださった多様な仲間が集まってくれました。企業の方やスポーツトレーナー、さらにはプロアスリートの方々など、部活動に強い思いを持つ人たちがどんどん加わってくれました。今のメンバー構成としては、小・中・高の教員が約3分の1ほど、専門的な指導ができるトレーナーやコーチが10名ほどで、保護者や企業関係の方が20名ほど参加してくれています。

多彩なバックグラウンドを持つNPO法人部活動リノベクエストLaboのメンバーたち

ーー教員以外のプロのトレーナーや企業の方など、さまざまな専門性をもつ方々が参加されていることが大きな特色だと感じました。

北野)私は長年トレーナーとして活動しており、娘が中学1年生で女子バスケ部に所属しているという、まさに“保護者としての当事者”でもあります。私はプロのトレーナーが部活動の地域移行に関わることは、指導の質を向上させるだけでなく、トレーナーとしての職域を広げることにもつながると感じています。これまで私は高校生や大学生を中心に指導してきましたが、実は本当に重要なのは、基礎的な体の使い方や怪我を防ぐための知識といった“フィジカルリテラシー”を、小学生や中学生のうちからしっかりと学ぶことです。そうした力を身につける機会として、現在進んでいる部活動の地域移行には大きな可能性があると感じています。

ーープロのトレーナーとして活動していく上で金銭面での課題などはありますか?

北野)現状では、自治体から支払われる指導者への謝礼だけでは、私たちプロのトレーナーが生活を成り立たせるのは現実的ではありません。子どもたちを預かる以上、安全管理などに対する責任は非常に重く、その責任を担う仕事をボランティアの延長線で行うには限界があります。だからこそ、私はこのNPOの活動を通じて、金銭面の課題もクリアしていくことで、部活動の地域移行をきっかけに、私たちトレーニング指導者がより若い世代の子どもたちと関わる機会を広げていきたいです。

プロのトレーナーが監修する専門的なトレーニングプログラム

ーー先ほど、企業の方も参加されているというお話がありました。どのような目的で参加されているのでしょうか?

河合)私は元リクルート社員として、企業出身の立場から部活動の地域展開に関わっています。地元の教育に貢献したいと考える企業は増えており、今後の部活動支援に参画する可能性は十分あります。また、企業での経験を活かし、地域の子どもたちの成長に貢献したいと考える社会人も増えており、私自身もその1人です。

子どもの多様なニーズを置き去りにしまう、現在の部活動制度の課題

ーーそもそも現在の部活動にはどのような課題があるとお考えでしょうか?

宮守)私は現在大阪府の公立高校で現役の教員として勤務しているのですが、現在の部活動には、制度と現場の実情との間に大きなギャップがあると感じています。たとえば、野球の場合だと大阪府の公立高校では部員数が年々減少していますが、選手1人ひとりそれぞれが多様なニーズを持っています。“初心者”や“野球を楽しみたい”という目的の選手もいれば、“上を目指したい”選手もいます。そういった選手たちが同じチームにいながらも、それぞれの思いが叶わないまま、我慢して引退していくような状況があります。

ーー現状の学校の部活の仕組みで対応することは難しいのでしょうか?

宮守)学校現場は前例主義が根強く、新しい発想や仕組みが生まれにくい風土があります。その結果、子どもたちの多様なニーズが置き去りにされがちです。また、保護者対応などの負担により、かつては部活動に熱意を持っていた教員が「もうやりたくない」と感じてしまうケースも増えています。実際、地域によっては中学校教員の6〜8割が「今後は部活動に関わりたくない」と考えているという調査結果もあります。

部活動は子どもの非認知能力を育む貴重な場であり、教員にとっても学びや成長の機会です。子どもの成長だけでなく、教員の負担軽減とやりがいを満たすためにも、現場のニーズに応えるための新たな仕組みづくりが求められています。

ーー一方で、子どもの多様なニーズに応えるためには、教員の負担が増えてしまうというジレンマもありますね。

藤田)部活動の地域移行にあたっては、従来の『学校単位』や『全員で同じ目標に向かう』といった一律の枠組みにとらわれず、子ども一人ひとりの目的に応じて柔軟に選べる仕組みが必要だと考えています。たとえば、甲子園を目指す子と、レクリエーションとして部活動を楽しみたい子が、それぞれの目標に合った形で活動できる環境が理想です。そのうえで大切なのは、すべての子どもたちが自らの活動を選択できる“フェア”な環境を構築することです。

今こそ私たち大人が真剣に向き合うべき課題だと思います。そして環境を整える際には、「能力」で振り分けるのではなく、「マインド(やる気や意志)」に応じて選べる仕組みにすることが重要です。そうすることで、子どもたちが自己実現に向かって多様で開かれた道を歩めるようになると考えています。

『アントレLabo』のアントレプレナーシッププログラムで学ぶ子どもたち

アントレプレナーシップを育む「ミライのブカツ」

ーー教員の負担軽減をしながら、子どもたちの活動を充実させるという課題がある中、現在取り組まれていることについて教えてください。

藤田)私たちは現在、3つの事業を軸に活動しています。まず『novel部活アカデミー』では、学校施設を活用し地域・企業と連携したイベントを開催しています。次に『箕面ちいきLabo』では中学校と連携し、地域移行型クラブのモデルづくりを実施しています。この活動ではそれまで公式戦未勝利だった野球部が府大会ベスト16に進出する成果もありました。最後に『アントレLabo』では小学生を対象に、運動能力・非認知能力やリーダーシップを育む統合型プログラムを開発しています。

ーーどれも多くの関係者を巻き込んだ活動で、すでに成果が出ている活動もあるのですね。3つ目の『アントレLabo』について詳しく聞かせてください。

藤田)「運動 × 食事 × 学び」を統合した本プログラムでは、これら3つの要素を小学生高学年に一気通貫で提供するプログラムや仕組みを開発しています。休日の午前中や平日は、主にフィジカルトレーニングやアントレプレナーシップ教育を中心に、必要に応じてフード(食育)の要素も取り入れていく予定です。そして、このプログラムを受講して育つ次世代リーダーが、「ミライのブカツ」を自分たちで運営していくことを目指します。

また、この取り組みのもう一つの大きなポイントが、学校施設の有効活用です。現在、部活動が十分に機能していない高校では、施設に空き時間が多くあります。その空間を地域活動の場として活かすことで、学校・地域・子どもたち、それぞれにとって価値のある仕組みをつくりたいと考えています。

『アントレLabo』で重視する3つのリテラシー

ーー1日の活動で、3つの要素を取り入れるというのは新しい取り組みですね。ただ、それぞれの専門性が必要になるので体制づくりが大変そうですね。

藤田)このプログラムでは専門的な方々と連携できる体制を整えていきます。例えば食の分野では、スポーツ栄養に特化した管理栄養士の方にご協力いただく予定になっており、運動の分野では、トップアスリートやプロ野球選手のサポートを担当されていたトレーニングコーチの方など、高い専門性を持つ方々が連携してプログラム開発に関わってくださっています。スポーツを行う上で、フィジカルと、それを支える食事は切り離せない関係にあります。また、普通に生活をしていくうえでも食に関する知識は絶対に必要です。そのため、運動と食の両面からのアプローチは極めて重要であり、こうした視点に立った教育的価値の高いプログラムを提供できると考えています。

ーー今後の展望についても教えてください。

“部活飯”のような食のブランディングにもチャレンジしたいと考えており、地域の飲食店とのコラボレーションも模索中です。教育と地域産業が結びつく、新しい価値創出にもつながる取り組みとして展開を目指しています。そして、「アントレLabo」で育ったメンバーが中心となり、中学校段階で地域クラブの運営・経営陣となり、チーム運営の主体として活動していく「ミライのブカツ」の展開を目指します。これまでの「与えられた環境で取り組む部活」ではなく「自らが環境を作るブカツ」で価値を生み出していく場が「ミライのブカツ」です。

ーーまさに、部活動リノベクエストLaboさんの想いを形にした取り組みですね。上記の取り組み以外にこれまでの活動で特徴的な活動は何かありますか?

東)2022年と2023年に、学生主体で大会を運営する『BUKA Dream Match』という大会を開催しました。この大会は、企画から球場確保・資金確保(クラウドファンディング)・スポンサー獲得・参加選手獲得など運営のすべてを現役高校生が担い、さまざまな大人や民間企業の方々と関わる中で、学校だけでは得られない社会経験を通じて自己実現を目指すプロジェクトです。複数の高校から集まった70名の選手が混成チームを組んで試合を行う、いわばプロ野球のオールスターのような形式です。電光掲示板での演出や国歌斉唱などもすべて高校生が企画し実施しました。子どもたち主体で運営する「ミライのブカツ」の源泉はここから始まっています。

連携は“ビジョンの共感”から始まる

ーーこれまでお話を伺ってきて、多くの関係者と連携しながら活動されている点が、とても印象的でした。自治体や企業の方々と連携していくうえで、特に大切にされていることは何でしょうか?

藤田)連携において一番大切にしているのは、私たちのビジョンやコンセプトをきちんと共有できるかどうか、という点です。私たちが目指しているのは子どもたちの“生き方”や“アントレプレナーシップ”につながるような教育です。そのため、行政と連携するときも、単に地域クラブの受け皿を整えるという発想ではなく、社会の未来像を見据えた長期的なパートナーシップを築けるかどうかを重視しています。

NPO法人リノベクエストLaboが目指すビジョン

ーー企業との連携についてもビジョンの共感が大切ということでしょうか?

藤田)企業との連携においても、ビジョンを共有し、長期的視点で教育に投資できる企業との関係が重要です。学校・地域・民間をつなぐハイブリッド型の仕組みにより、企業も自然に教育現場に関わることができ、社会貢献の機会も広がります。今後は制度設計の段階から対話を重ね、共通の目的を持つ関係づくりがより重要になると考えています。

ーーこれまでにも多くのビジョンをお話しいただきましたが、今後、さらに目指していきたいことについて教えてください。

藤田)今後は、まず箕面市でロールモデルをつくり、それをベースに全国へと広げていくことを目指しています。そのために現在は、プロのトレーナーや栄養士など多くの専門家とともにプログラムを開発し、その効果の検証を行っている段階です。今後は、このプログラムを地域ごとの強みや特性に合わせて実践していき、さらに、さまざまな立場の人々が力を合わせることで、より大きなムーブメントを生み出していきます。

ーーそのためには、特に何が重要だと思われますか?

藤田)小学生の段階から次世代リーダーを育てることが重要だと考えています。子ども自身が主体的に未来を創る時代に向けて、「子どもたちを社会に解放する」ことが求められています。その実現には、教育の一貫性と社会全体での合意形成が不可欠であり、関係者との丁寧な対話を通じて共感を広げていくプロセスが大切です。私たちは、産学官民が連携し、子どもたちがアントレプレナーシップを発揮できる『ミライのブカツ』の実現を目指してこれからも本気で取り組んでいきます。

ーーありがとうございます。部活動の地域移行に本気で取り組まれているからこそ感じられている課題や、それに向けた具体的な取り組みについて、詳しく伺うことができました。

               クラウドファンディングに挑戦中!

NPO法人部活動リノベクエストLaboは、大阪府と村上財団による「SDGs達成に向けた社会課題解決事業」に採択され、「ミライのブカツ」実現に向けた次世代リーダー育成プロジェクト「アントレLabo」創設のためのクラウドファンディングに挑戦中です!
クラウドファンディングHPはこちら

おすすめの記事