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チョンマゲが愛したサラメシは? ― 太田記念美術館「江戸メシ」(レポート)

アイエム[インターネットミュージアム]

ユネスコの無形文化遺産にも登録されている「和食」。現在でも人気が高い寿司、天ぷら、蕎麦などのルーツは江戸時代にあり、庶民の暮らしを描いてきた浮世絵には、さまざまな料理が登場します。

「食」をテーマに、さまざまな浮世絵作品を紹介する展覧会が、太田記念美術館で始まります。


太田記念美術館「江戸メシ」会場


展覧会は3章構成で「さまざまな料理」では、浮世絵に描かれた料理を紹介しています。

まずは蕎麦。美味しそうに蕎麦をすする達磨大師、脇には空っぽのせいろも山積みになっています。宿場町である守山の地名から、山盛りの蕎麦を連想したのかもしれません。


歌川国芳《木曽街道六十九次之内 守山 達磨大師》嘉永5年(1852)7月


花見の宴が行われている妓楼の作品には、木桶のなかに握り寿司が描かれています。

寿司のルーツは、酢飯を箱に詰めて上に魚介をのせた押し寿司。握り寿司の登場は意外と遅く、文政年間(1818〜30)頃とされています。

染め付けの大皿には、マグロと白身の魚の刺身も盛られています。


歌川国貞(三代豊国)《見立源氏はな乃宴》安政2年(1855)12月


皿の上にある金魚の形をしたものは、金花糖という砂糖菓子。白砂糖を水で煮詰め、型で冷やし固めて作ったものです。

白砂糖は輸入品のみの高級品だったので、金花糖も非常に高価な贈答品でしたが、江戸時代後期に国内での砂糖製造が成功し、嘉永年間(1848~54)には庶民にも広まりました。こちらは新収蔵の作品です。


歌川国貞(三代豊国)《誂織当世島 金花糖》文政14〜弘化3年(1843〜46)


続く2章は「調味料・食材」。「初物」とはその季節に初めて出てきた食材のことですが、江戸時代の人々が最も好んだ初物が、初鰹です。

この作品では、魚売りが道端でカツオをさばいています。魚売りの周りには、皿を持った女性たちが集まっています。


歌川豊国《豊広豊国 両画十二候 四月 三枚統》享和元年(1801)


醤油は江戸時代の前期までは主に関西で作られていましたが、江戸時代後期になると、関東で濃口醤油が開発され、人気を呼びました。

醤油の名産地が下総国(現在の千葉県北部)の銚子と野田で、描かれている「万」の印は、現在のキッコーマンの商標につながっています。


三代歌川広重《大日本物産図会 下総国 醤油製造之図 西瓜畑之図》明治10年(1877)


こちらは日本橋の風景。右下にいる男性2人が担いでいる樽には「剣菱」のマークがみえます。

江戸で飲まれていた酒の多くは、上方から運ばれてきたもので、剣菱は現在の伊丹市にあった坂上家が醸造していた銘酒。現在の剣菱酒造に、このマークはそのまま使われています。


歌川広重《東海道 一 五十三次 日本橋》嘉永2〜5年(1849〜52)


最後の3章は「食を楽しむ場」。日本で食文化が盛んなまちといえば「食いだおれ」で知られる大坂(現在の大阪)。堂島の米市場、天満の青物市場と並ぶ賑わいをみせたのが、雑喉場(ざこば)の魚市場でした。

この作品には籠に入ったタコを見せる人、魚を投げ渡す人、大きな魚を天秤棒で担ぐ人などが描かれ、当時の活気が伝わってきます。


歌川広重《浪花名所図会 雑喉場魚市の図》天保5〜6年(1834〜35)頃


「伊勢屋」は上野山下(現在の東京都台東区上野4丁目)にあった料亭。暖簾には「しそめし」と書かれており、紫蘇飯が名物だったと思われます。

後に「雁鍋」という店名になり、夏目漱石の『吾輩は猫である』にも登場。猫の主人が「雁が食いたい、雁鍋へ行って誂らえて来い」と語っています。


歌川広重《名所江戸百景 上野山した》安政5年(1858)10月


「食をテーマした浮世絵」として、しばしば取り上げられるのがこの作品。現在も巡回展が続いている特別展「和食 ~日本の自然、人々の知恵~」でも、この作品は大きく使われていました。

タイトルの「二十六夜待ち」は、7月26日の夜に月が昇るのを待って拝む行事。高輪の海辺には多くの人が集まり、見物客を目当てにさまざまな屋台が並びました。


歌川広重《東都名所 高輪廿六夜待遊興之図》天保後期(1837~44)頃


今回の展覧会では、1階と2階の展示室を使用し、通常の70点前後を超える91点の作品が展示されています。浮世絵ならではの鮮やかな色彩や当時の食文化が詰まった作品群をたっぷりと堪能できます。

江戸時代の食をテーマにした浮世絵の魅力を余すことなく楽しめるこの展覧会。肉筆浮世絵も見どころの一つです。太田記念美術館で、江戸のグルメと食文化の奥深さを体感してみませんか?きっと、お腹も心も満たされる時間が待っています。

[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2024年12月24日 ]

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