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クジラの死は生命の始まり<鯨骨生物群集> ホエールフォールと呼ばれる命のサイクルとは?

サカナト

ホエールフォール(提供:こやまゆう)

クジラが死んだあと、その亡骸はどうなるのだろう。

海で息絶えたクジラは、種によっては比重の影響でゆっくりと海底に沈んでいく。

深く冷たい深海には光も届かず、餌になるようなものはほとんどない。

そんな過酷な世界に現れたクジラの死骸には、その豊富な栄養分を求めて様々な生物が次々に集まり、命が巡っていく。クジラの死は生命の始まりだ。

ホエールフォールの遷移過程

海に沈んでいく光景イメージ(提供:PhotoAC)

クジラの死骸は時間の経過により段階的に遷移して、そこに巨大な生態系が構築されることがわかっている。

「ホエールフォール」、専門的には「鯨骨生物群集」と呼ばれているこの独自の生態系は、極限環境生物の進化を知る重要なヒントとして研究が進められている。

腐肉を主な食料とする「スカベンジャー」と呼ばれる生きものたちが死肉に集まる最初の段階を「腐肉食期」という。クジラの脂肪や内臓などのやわらかい部分を、深海に住むサメやエビなどが数か月~数年という長い時間をかけて食べつくす。

クジラ(提供:PhotoAC)

肉がなくなると骨が露出され「骨浸食期」となる。骨に含まれた有機物を栄養源としているホネクイハナムシなどの生物が現れ、この段階も数か月~数年継続する。

やがて骨に残った脂肪分も細菌などによって分解されていくと、硫化水素が発生し「化学合成期」となる。この「化学合成期」がいちばん長く、数十年~長ければ100年ほど継続すると考えられている。

硫化水素は、ほとんどの生物にとって猛毒だ。しかし深海という特殊な環境で生活する生物のなかには、この硫化水素を利用して生きることができるものも存在する。

チューブワームと呼ばれる深海生物の体内には、硫化水素などの無機物を利用して有機物と合成させる「化学合成細菌」が共存しており、チューブワームに栄養を与え生き延びることを可能にしている。

この「化学合成期」が一番長く、数十年~長ければ百年継続すると考えられている。
こうして骨の有機物がすべて使われ、空っぽになったクジラの骨は、最後には単なる“骨格”となり、深海の生物たちに住処を与える。

なんと無駄のない美しいサイクルなのだろう。クジラは死んだあともなお、深海の命に大きな恩恵をもたらしているのだ。

クジラの死が教えてくれる生命の循環とその哲学

クジラの死骸は最大で100年という長い年月、多様な生物の生命を支えている。死後も時を超えて、たくさんの人を救い続けるブッダのようではないか。

大きなクジラの死骸が天からゆっくりと降りてくる様は、暗く、飢えた世界において、ひとすじの希望の光のようにみえることだろう。

クジラの死が新たな命を生み出す姿は生命の循環そのものであり、自身の死生観についてまで考えさせられる。

(サカナトライター:こやまゆう)

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