生後半年から始まった、激しすぎる人見知りと場所見知り。「これって特性?」2歳半で自閉症と診断されて
監修:藤井明子
小児科専門医 /小児神経専門医/てんかん専門医/どんぐり発達クリニック院長
5歳になっても人見知りと場所見知り。親戚の赤ちゃんを見て思い出す、大変だったあの頃……
今年のお正月。
親戚が集まる中、たーちゃんは私にべったりくっついて離れませんでした。親戚のおじさんおばさんから話し掛けられても無視。同年代のはとこと遊びもせず。食事もそこそこに、自宅へ帰りたいと騒ぎ始めました。
ASD(自閉スペクトラム症)の息子は不安感が強く、人見知りと場所見知りをしているのだろうなぁ、と夫と私はすぐに気がつきました。
対して、久しぶりに会うはずの私にもニッコニコで抱っこされる親戚の赤ちゃん。じっと私の顔を見て、二本だけ生えた前歯を覗かせて笑ってくれました。
そういえば、たーちゃんの人見知りと場所見知りが始まったのは、生後半年頃だったなと思い出します。
生後半年から始まった人見知りと場所見知り。私と夫以外には懐かず、自宅以外ではどこでも泣いていた……
人見知りと場所見知りの始まりは、生後半年頃でした。
何度も訪れているはずの実母の家で突然泣き出したのを覚えています。1時間ほど経っても泣き止むことはなく、ずっと私が抱っこしていました。「赤ちゃんならよくあること」と実母は笑っていましたし、私もそこまで気にしてはいませんでした。「きっと1歳頃にはよくなるだろう」と、気楽に考えていました。
しかし、たーちゃんの人見知りと場所見知りは落ち着くどころか、ますます激しくなっていきました。1歳になっても、初対面の人だけでなく何度も会っている親戚や友人の前でも泣いてばかりでした。泣き声や暴れ方も激しくなり、抱っこで大人しくさせることも難しくなっていきました。
近くに住む義母の家はさすがに慣れてほしいと思い、毎週のように義母の家へ通ってみた時もありました。しかし、あまりに激しく泣き暴れるので1時間も経たずに帰宅……なんてことがしばらく続きました。
外だったら場所見知りもないのでは!?良かれと思って決行したピクニックでも……
そんな状況のまま、たーちゃんは1歳半に。落ち着く気配のない人見知りと場所見知りに困った私と夫は、ある案を思いつきます。「家でなく、外で会えば大丈夫かもしれない!」と。
私と夫とたーちゃんと公園に行き、そこで義母と義祖母と落ち合ってピクニックをすることに決めました。「閉鎖的でない場所なら場所見知りはないだろう。人見知りしてもすぐ泣き止むのでは」と思っていたのですが……。
実際は、義母と義祖母と会った途端に泣き出し、車に戻ると言って聞かず。抱っこでもベビーカーでも落ち着かずに、地面に転がって暴れていました。義母も義祖母も反応に困っていたと思います。
たーちゃん以外の大人は楽しい時を過ごせると思っていたけれど、たーちゃんにとってはつらい時間になってしまいました。
結局、その日はピクニックどころではなく、すぐに解散しました。帰りの車内では、けろりとした顔をしているたーちゃん。私は準備したお弁当を見ながら、「どうして?」と悲しい気持ちになっていました。
2歳になるまでは、どこでも誰とでも泣いてばかりで外出や外食もほとんどできず、自宅に遊びに来た同世代の子にも泣くほどでした。よくなるばかりかひどくなる一方の人見知りと場所見知りに、「発達障害なのでは?」と私は思うようになりました。
言葉の発達がゆっくりで、癇癪やこだわりもあったため、2歳になる前あたりから発達外来の受診へ向けて動き出しました。
激しい人見知りと場所見知り。いつまで続く?
この激しい人見知りと場所見知りは3歳頃まで続きました。言葉でのコミュニケーションがとれるようになっても、たーちゃんの不安の強さは変わりませんでした。子どもが喜びそうな遊び場についてすぐ、入り口で「いかない!」とUターンしたことも何度もありました。
しかし、その頃にはたーちゃんの扱いにも慣れてきましたし、「たーちゃんも周りの人も無理をしない」をモットーにしていたので、悲しんだり怒ったりせずにすぐ切り替えて別の場所で遊ぶように予定を変更したり帰宅していました。
それでも、「どこにも出かけられない」、「誰とも会えない」、「出かけた先で『癇癪を起こさないだろうか?』といつも心配になる」……そんなマイナス思考になってしまう時が私にもありました。
わが家は想像していたより長く人見知りと場所見知りと付き合うことになりました。それに、5歳の今でも初めての場所では緊張しやすいですし、久しぶりに会う人とはあまり話そうとしません。
けれど、時間をかけて、徐々に、確実に良くなっていきました。激しい人見知りと場所見知りに付き合う保護者の方は大変かと思いますが、お子さんも保護者の方も無理せずに過ごせれば……と思います。
執筆/みかみかん
(監修:藤井先生より)
徐々に確実に良くなってきた激しい人見知りと場所見知りのコラムをありがとうございます。きっと、このコラムを読むことで、私一人だけではないのだと、人見知りと場所見知りが激しくて、対応に苦慮されている親御さんの励みになったと思います。すぐには解決するわけではないですが、お子さんの成長とともに、また、場所見知りがありながらもさまざまな場所に行って経験を重ねることで、少しずつ、少しずつ症状は軽減していきます。声かけや、視覚的な支援での見通しを立てたりすることで、落ち着いて過ごせる時間、場所が長くなっていくお子さんもいます。人見知り、場所見知りが激しくて、日常生活に大きく影響がある場合には、興奮を和らげる漢方薬などを検討されても良いでしょう。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。