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【子どものスマホ】利用時間を減らす秘策 「家庭内でルールを作り、親も守る」が想定外の効果〔脳科学者が解説〕

コクリコ

子どもにとって誘惑の塊ともいえるスマホ。利用時間を減らすにはどうしたらいいのでしょうか? 家庭でできる工夫について、東北大学助教の榊󠄀浩平先生に効果の高い方法をお聞きしました。全4回の2回目。

スマホの利用時間が長いほど成績が低くなる!? 

子どものスマホなどの利用時間が成績に与える影響について、調査を続けてきた東北大学応用認知神経科学センター助教・榊󠄀浩平先生に聞く、「スマホ利用と成長期の脳」。1回目では、子どものスマホの利用時間が長いほど成績が低くなるというショッキングな研究結果について解説していただきました。しかし「今からでもスマホの利用時間を減らせば学力を取り戻せる」と榊󠄀先生。

そこで今回は、榊󠄀先生に実際に高い効果が得られたという、家庭でできる秘策を教えていただきました。

榊󠄀 浩平(さかき・こうへい)
1989年千葉県生まれ。東北大学応用認知神経科学センター助教。医学博士。認知機能、対人関係能力、精神衛生を向上させるなど、人間の「生きる力」を育てる脳科学的な教育法の研究、開発を行う。

失われた学力は回復できる!?

失われた学力は回復できる!?

──前回、前頭前野は小学校高学年~高校生の思春期にかけて著しく発達するというお話が出ましたが、小学校低学年以下の子どもの脳に、スマホはどんな影響があるのでしょうか?

榊󠄀浩平先生(以下、榊󠄀先生):スマホ育児が与える子どもの脳への影響については、2020年以降、世界中で多くの論文が書かれているように感じています。

いずれも悪影響を指摘しているものばかりで、「言語能力」「問題解決能力」「コミュニケーション能力」など、各能力の発達が阻害されたり、間接的に運動不足や睡眠不足に繫がったりするなど、影響の範囲は多岐にわたります。

──すでにスマホを長時間見ているという子の場合、発達の遅れは取り戻せるのでしょうか?

榊󠄀先生:発達の遅れについてはわかりませんが、学力に関しては、努力次第で持ち直せるという結果が出ています。下のグラフは、スマホなどの利用時間の変化によって、2年後の成績がどう変化しているのかを示しています。

スマホなどの使用時間の変化と学力の関係。(2015年度小学校6年生・中学校1年生1万4411人対象。2年間追跡したもの。成績:4科目〔国語、算数・数学、理科、社会〕の偏差値)。  資料提供:榊󠄀浩平

榊󠄀先生:スマホを1時間以上使っていた子でも、使用時間を減らすことで2年後の成績が伸びていることがわかります(グラフ右下)。ただ、スマホの利用時間をゼロもしくは1時間未満に減らすことができたのは、わずか13%しかいませんでした。

スマホは依存状態になるよう設計されている

榊󠄀先生:それは、スマホなどで使われるサービスが、非常に依存性の高いものだからです。最近は「依存症ビジネス」という言葉も使われるくらい、いかにユーザーを依存状態にできるかがサービス成功のカギと考えられていて、そのために脳科学の知見が使われることもあります。

テレビと比較すると、テレビは好きな番組をやっていてもせいぜい1~2時間で終わり、まったく関係のない番組が始まりますよね。しかしスマホなどで見られる動画配信サービスは、見終わるとすぐにおすすめの動画が流れてくるので、気持ちを切り替えるタイミングがありません。

さらに、スマホなどでやるゲームの多くは、ダウンロードを無料にして、ゲームの途中で課金してもらうタイプです。長時間遊んでもらうほどゲーム会社は儲かる仕組みなので、毎日アクセスすると報酬がもらえる機能を設けたり、アイテムを購入するときもギャンブル要素を高めたりしています。

──どうりではまってしまうわけですね……。

榊󠄀先生:依存状態になるほど、「やる気が出ない」「集中力が落ちる」など、学力低下につながるさまざまな悪影響が出てきます。これは、アルコール依存やギャンブル依存と同じような傾向です。スマホはそれだけ一度はまってしまうとなかなかやめられない依存性の高いものなのです。

──どうしたらスマホの利用時間を短くできるのでしょう? ルールを決めてもなかなか守れません。

榊󠄀先生:クラスや学校など、みんなで話し合って共通の目標やルールを決めることで、守ろうという意識が高まることが実験でわかっています。

ある学校では、ゲームを1日4時間以上やる子が32%もいたのですが、子どもたちが主体になってルールを決めた結果、2年後には9.8%まで減らすことができました!

スマホの利用時間を減らす秘策

スマホの利用時間を減らす秘策

──それはすごいですね。やはり家庭で対策するのは難しいのでしょうか?

榊󠄀先生:いいえ、実は家庭を対象にした別の実験を行ったところ、非常に効果が高く出た対策があるのです。

それは、「親子でルールを作り、親も一緒に守る」というもの。これをやると、いかにルールを守るのが大変か、親御さん自身も身にしみてわかるので、自然と共感的な声掛けが増えるんですね。すると親子で仲間意識が高まり、学校やクラスでやるのと同じような効果が得られるのです。

以前、中学校の期末試験に合わせて、この親子ルールの実験を行ったのですが、たった2週間でテストの成績が軒並みアップしました。さらに、遅刻が減った、宿題をやるようになったという報告もあり、私たちも本当に驚いています。

子どもだけでなく、親も共通のルールを守ることが大事と榊󠄀先生。  写真:アフロ

ルールを決める前に2つの守ること

──早速、試してみたいと思います。しかし、ルール決めが最初のハードルになりそうです……。

榊󠄀先生:ルールを決める前に、やってほしいことが2つあります。1つめは、スマホ利用のリスクを子どもに伝えることです。このときのポイントは、親の感情を差し挟まないこと。あくまでも情報として冷静に伝えることが大切です。説教臭くなると、子どもは反抗したくなりますから。

2つめは、普段自分がどれくらいスマホを利用しているか、時間や用途をお互いにリストアップすることです。これによって、自分自身を客観的に見つめることができますし、親子共通のルールも作りやすくなります。

そしてルールは、親が一方的に押し付けるのではなく、子どもと一緒に決めるようにしてください。目標は、自分自身で使い方をコントロールできるようになること。自分でルールを決めて、自分で守ることができたという成功体験は、一生ものの財産になりますよ。

ネットで調べた情報は忘れやすい

ネットで調べた情報は忘れやすい

――最近は、勉強にもスマホを使う子が増えているようです。その影響についてはいかがですか?

榊󠄀先生:ネットで調べたことより、紙の辞書で調べたことのほうがしっかり記憶されるという実験結果があります。

もちろん、短時間で効率的に調べられるのはネットですが、その間、前頭前野はゲームをしているときと同じようにほぼ活動していない状態。一方、紙の辞書を引くときは、指先で薄い紙をめくる、五十音順に文字を探すなどプロセスが複雑な分、脳は活発な状態をキープします。

1回目でもお話ししたとおり、脳は負荷をかけなければ働きません。脳の活動が高まらなければ、どれだけ調べても記憶には残りにくいのです。

大切なのは、使う目的を見失わないこと

󠄀榊󠄀先生:ネットで調べた情報を忘れやすいという傾向は、“デジタル性健忘”や“Google効果”とも言われています。仕事などでスピードや効率を重視するなら、ネットで調べればいいと思います。

しかし子どもの学習の目的は、ただ情報を得ることではなく、知識を自分の中に蓄えて活用できるようにすること。目的に合わせて使い分ける必要があります。

──学校でもタブレット学習が広がっています。

榊󠄀先生:大切なのは、「その先に何を目指すのか」だと私は思います。子どもたちのどんな資質を伸ばしたいのか、何のためにデジタル機器を使うのか、ということを十分に議論することが重要です。それは家庭でも言えること。

実は、世界に先駆けてICT教育を推し進めてきたスウェーデンは、昨年、アナログ教育への回帰を決定しています。もちろん、満場一致ではなく、いろんな意見があるでしょう。

日本は今後どうするのか、十分な検証と議論を重ねたうえで、子どもたちの可能性を伸ばしていってほしいと思います。

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親子で一緒にルールを決めて守ることで、子どものスマホの利用時間を減らせることがわかりました。大人自身も、スマホとの付き合い方を見直す必要がありそうですね。

次回からは、対してスマホを駆使した超効率的な勉強法を網羅し、成績を上げるノウハウを紹介する『東大式スマホ勉強術』の著者であり、YouTube「スマホ学園」を運営する現役東大生・西岡壱誠さんに、スマホ依存にならない正しいスマホ勉強法についてお聞きします。

取材・文/北 京子

「スマホはどこまで脳を壊すか 」著・ 榊󠄀浩平(朝日新書)

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