まるで魔法のよう。カウンターのみの小バコで堪能するイタリアンのフルコース【福岡市・清川】
裏路地にあり、ビル地下にあり、さらにカウンター10席のみの小バコ。前情報なく「アメリア」を初めて訪れる人は、誰もがかなり驚くことでしょう。まさかこんな小さな隠れ家的なお店で本格イタリアンのフルコースがいただけるなんて、想像に及びませんから。
「アメリア」は、中洲のワインバー「ジェリーピーンズ」でシェフを10年間務めていた冨嶋将之さんが独立し、清川にて2017年に開業しました。おまかせコースを主軸にアラカルトやミッドナイトランチなども提供し午前4時まで営業していましたが、コロナ禍を経験したことにより「営業スタイルも料理の内容も、改めて見つめ直しました」と冨嶋シェフ。昨年の2023年から23時ごろまでの営業に変え、メニューもおまかせコースに絞られました。
もともと「ジェリービーンズ」で鍛えられた経験をもとにイタリアンをベースにオリジナル料理を探求していた冨嶋シェフ。そのうえで「お客様にもっと楽しんでもらえるよう、さらに踏み込んだ工夫が必要だと考えました」と月替わりでコースにテーマを設け、常に新しい料理を考案するよう自分に課しているようです。
コースは8800円と11000円の2種類あり、いずれもスターター3〜4品、前菜3品、パスタ、魚料理、肉料理、デザートのフルコースで提供されます。今日は8800円の方を注文。8月ということで、テーマは「夏の海鮮フェア」でした。
こちらは、冷前菜の「ウニのフラン」です。冨嶋シェフのスペシャリティで、一年を通してだいたいコースに組まれています(ウニでない時期もあり)。フランの上にビーフブイヨンのジュレを重ねてあり、ウニとビーフの旨味の二重奏。この一品だけで、お酒が軽く2杯は進みそうなほど濃密で深い味わいです。
こちらは温前菜の「ズワイガニのテリーヌのソテー」です。殻付きカニの身をほぐしてテリーヌに仕上げてソテーし、その上にボイルしたカニ身とエディブルフラワーが美しく盛られています。まるでブーケのような愛らしさで食べ崩すのがもったいないほどですが、食欲には勝てず冷めないうちにいただきます。
カリッと香ばしく焼き上げたテリーヌ、素材そのものを味わうカニ身、さらにカニの殻を使った風味豊かなアメリケーヌソース……今度はカニのおいしさの三重奏によって口福感が満たされます。このようなオリジナル性の高い料理をどのように考案しているのか尋ねてみると、「だいたい食材を見ていて思いつきます。この料理は市場でカニを見て、カニって焼くとおいしいよなって思ったのがきっかけでした」と冨嶋シェフ。
次に出てきたこちらも温前菜ですが……一体なんでしょう? 石ころのような物体に植物のようなものが絡まり、料理というよりもアート作品のように見えます。
その正体は「サワラとゴボウの竹炭パン粉焼き」でした。ゴボウのムースとサワラの身を竹炭パン粉で包んで焼き上げたもので、薄くスライスしたゴボウチップで飾られ、ゴボウのソースが添えられています。また、周りには焦がし魚粉も散りばめられていました。
サワラの身はふわっとして優しい味わい。そこに、ゴボウの強い風味と魚粉の香ばしさがいい塩梅で交わっていきます。面白いのが食材は多用せず、テクニックによって食材のもち味を何パターンも引き出しているところ。これも冨嶋シェフのスタイルと言えます。
そして、こちらは「タコのラグー トマトパスタ」です。タコの風味が生きているとはいえ、かなり濃厚な旨味です。聞くと、白ワインもたっぷり入れたうえでソースをじっくり煮詰めているそう。「基本的に塩は極力使いません。食材にじっくり火を入れて凝縮し、そこから生まれる味を大切にしています」と冨嶋シェフ。
パスタの後にメインの魚、肉、デザートまで続き、かなりのボリュームになりますが、お腹の具合によって量を調整してくれるのでそこはご安心を。なんでも、最年長の常連さんで93歳の女性も、一皿の量は減らすものの毎回コースを完食されるそう。小バコならではの距離感と気遣いもありがたいところです。
なお、「アメリア」は基本的におまかせコースのお店ですが、20時以降は「深夜食堂」のように食べたい料理をリクエストするスタイルで、アラカルト注文もできます。ですが、コースでの驚きと感動の体験はやはり別格。テーマで七変化する料理を楽しみに、何度も通いたくなるはずです。ちなみに9月のテーマは「ヨーロッパのキノコフェア」とのこと。あぁ、もう早くも次なる誘惑が……。
cucina italiana Amelia(アメリア)
福岡市中央区清川2-11-33中西ビルⅡ B1F
092-531-7280