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中国人留学生の高田馬場リアルライフ。“ガチ中華”の店でひと息つく若者が日本で学びたいのは、アートやデザイン

さんたつ

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現代の中国の若者は、この国でなにを学び、将来を思い描こうとしているのだろう。高田馬場で青春を送るふたりが、日々の暮らしや考えを、ありのままに聞かせてくれた。

話を伺ったのは……

閻昱衡(エンイクコウ)さん
26歳(2025年4月取材時)。西安出身。2024年来日。日本語学校と進学塾で勉強中。

魏沅钟妤(ギゲンショヨ)さん
18歳(2025年4月取材時)。深圳出身。2023年来日。進学塾を経て武蔵野美術大学に合格。

日本への関心を深めたきっかけ

「『下妻物語』を観たんです」

独特のファッションをまとう理由を、魏さんはそう話す。深田恭子主演の、日本の映画だ。茨城県の下妻で暮らし、ロリータファッションをこよなく愛する主人公だが、田舎町ではずいぶんと目立ち、浮いてしまう存在だった。それでもめげずに、自分のスタイルを貫く……そんな話だ。

「感銘を受けました。自分もそういう意識で生きていきたいと思ったんです」

もともと『進撃の巨人』や『呪術廻戦』など日本のアニメに影響を受けて育ち、小学生の頃から留学を見据えて日本語を学んできた。そして2023年に来日し、中国でもよく知られた進学予備校、启程塾(チーチャンシュ)に通うため、高田馬場にやってきたというわけだ。

閻さんもやはり、アニメを通じて日本への関心を深めた。

「デザインがすごいと思った。建築でも日本は評価されています。だからデザイン関連の勉強をしたくて」

大学を終えてから来日し、やはり启程塾を選び、それからは高田馬場と日本語学校のある駒込とを行き来する生活を送っている。

勉強の息抜きは“ガチ中華”

駅前の看板の中にも中国人向けの塾とガチ中華が目立つ。
中華フライドチキン店の上に進学塾。

高田馬場って、どんな街だろう。聞いてみればふたりとも、「勉強をする場所」と口をそろえる。

「予備校や大学がいっぱいあって、学術の街という雰囲気です。買い物する場所もたくさんあって便利ですね」と閻さん。

息抜きはクラスメイトとの食事だ。魏さんがよく行くのは四川の鍋料理が有名な『2100K冒鴨燙肚(マオヤタンドゥ)』。

「ここはスイーツもあって、冰粉(ビンフェン)がおいしいんです」

フルーツたっぷりの四川風アイスゼリーを推す。それと、世界中に展開する台湾のタピオカミルクティー『CoCo Bubble Tea』もお気に入りだとか。出身の広東地方の店は高田馬場には少ないが、

「どの地方の料理とか、そういうこだわりはないんです。四川でも湖南でも、気分次第。あと、『マクドナルド』とか『富士そば』とか、回転寿司も行きます」

なんて言う。閻さんおすすめは、

「四川料理の『尋味楽山』(シュンウェイローシャン)。辛いけどおいしい。ひとりで行くのは『楊銘宇 黄燜鶏米飯(ヨウメイウ ファンメンジーミイファン)』とか、麻辣湯の店」

だとか。やはり日本食も食べるが、若い男子らしく「『牛繁』はみんなでよく行きます。食べ放題コースがあるから。それと駅前の博多ラーメン。替え玉が2玉まで無料なんです」と照れ臭そうに笑う。高田馬場の暮らしにも、けっこうなじんできたようだ。

閻さんおすすめ『尋味楽山』。
台湾サンドイッチ『洪瑞珍』。

後悔のない生き方をしたい

魏さんは启程塾で1年ほど学び、武蔵野美術大学に見事合格を果たした。目標はトイデザイナーだ。

「共遊玩具をつくりたいんです」

目や耳の不自由な子供たちも一緒に遊べるおもちゃのことだが、そうした勉強は中国ではできないのだろうか。

「中国は実用性を大事にしていますが、日本はヒューマニゼーションや情緒をコンセプトにして、製品をつくっていると思うんです」

そこに惹(ひ)かれるのだと話す。

閻さんも卒業後は日本で美術系の大学院に進学するか、デザイン会社に就職することが目標だ。

大手予備校・行知学園の校舎は街に点在。
路地裏にもガチ中華。
中華&ベトナム食材の『熊猫(パンダ)物産』。

ふたりのように、日本のデザインやアートの分野で学びたい、働きたいという中国人の若者が増えている。日本のソフトパワーは、日本人が考える以上に、世界から評価されているのだ。そして夢を持って日本にやってきた若者たちは、日本語学校や進学塾や予備校で学び、“ガチ中華”の店でひと息つく。高田馬場はそんな街なのだ。魏さんは言う。

「毎日毎日この街に来て、授業を受けて、友達とご飯を食べて。忙しかったけど、意義のある日々を送ってきたと、そういう印象が残っています」

これだけ日本語で表現できても、入学したばかりの大学では授業についていくのも同級生との会話もたいへんだというが「でも、すごく楽しい」と笑う。

大学にも個性的な装いで通っているようで「後悔のない生き方をしたいから、こういう格好をしているんです」なんて真剣なまなざしで話すのだった。

取材・文=室橋裕和 撮影=泉田真人
『散歩の達人』2025年6月号より

室橋裕和
ライター
1974年生まれ。新大久保在住。週刊誌記者を経てタイに移住。現地発の日本語情報誌に在籍し、10年にわたりタイや周辺国を取材する。帰国後はアジア専門のライター、編集者として活動。おもな著書は『ルポ新大久保』(辰巳出版)、『日本の異国』(晶文社)、『カレー移民の謎』(集英社新書)。

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