遺伝子を使った治療薬って何がすごい?【眠れなくなるほど面白い 図解 生命科学の話】
遺伝子を使った治療薬って何がすごい?
治療法がなかった疾患の救世主
遺伝子治療薬は遺伝子を主成分とする治療薬で、正常な遺伝子を患者に投与し、その遺伝子がつくり出すタンパク質の作用によって治療をします。とくに遺伝性疾患に効果があり、これまで対症療法しかなかった深刻な疾患を、根本から治すことができると期待されています。
よく知られる薬として、2019年にアメリカで承認され、日本でも2020年に保険適用となった「ゾルゲンスマ」 (スイス・ノバルティス) があります。 脊髄性筋萎縮症 (SMA)の遺伝子治療薬で、SMA患者に変異がみられるSMN1遺伝子を主成分とします。SMAは筋肉の萎縮と筋力の低下をきたす遺伝性の難病で、10万人に1〜2人の割合で発症するとされています。正常な機能を維持するのに必要なSMNタンパク質が十分につくられず、脊髄にある運動神経細胞が変化することが原因とされています。
ゾルゲンスマは、SMN1遺伝子を投与することでSMNタンパク質をつくり、神経や筋骨格の機能を改善します。この遺伝子は、体内で長期間安定しているように設計されていて、1回の投与で長期に効果を発揮するといわれています。1億6700万円という価格が話題になりましたが、遺伝子治療薬時代の扉を大きく開けるきっかけになったことは確かでしょう。
遺伝子治療薬のしくみ
遺伝子治療薬は、タンパク質の設計図となる遺伝子を主成分とした薬。遺伝子をのせた運び屋であるベクター、または遺伝子を導入した細胞を患者の体内に投与。体内でタンパク質をつくらせて病気を治す。
遺伝子治療薬はまだ超高額
これまで治療法がないとされてきた遺伝性の視覚障害に対しても、遺伝子治療薬が登場。海外の実績では光の感度が 100倍にもなったといい、1 回の投与で長期間の効果が期待されている。だが、ゾルゲンスマ同様、不治の病を治すとはいえ、一般に普及する価格にはほど遠い。
日本で遺伝子治療薬が承認されている疾患例
脊髄性筋萎縮症(SMA)両アレル性 RPE65 変異遺伝性網膜ジストロフィー悪性神経膠腫慢性動脈閉塞症(潰瘍の改善)多発性骨髄腫大細胞型 B 細胞リンパ腫濾胞性リンパ腫細胞性急性リンパ芽球性白血病急性リンパ性白血病(ALL)悪性リンパ腫(DLBCL)
日本で遺伝子治療薬が検討されている疾患
X 連鎖重症複合免疫不全症(X-SCID)アデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症血友病パーキンソン病
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 生命科学の話』著:高橋祥子