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“大衆感情法”に裁かれる韓流スター 堕ちる芸能人に降り注ぐ「無期限・無制限」の断罪

セブツー

未成年者との交際疑惑で窮地に立たされている韓国の人気俳優、キム・スヒョン(KIM SOO HYUN)が沈黙を破って記者会見を開いた。「していないことをしたとは言えない」。こう涙ながらに疑惑を完全否定したものの世論の反応は冷ややかで、逆風が吹き続けている。

■涙の記者会見
キム・スヒョンは「太陽を抱く月に」「星から来たあなた」「涙の女王」などの韓国ドラマに主演し、グローバルな人気を誇る韓流トップ俳優の一人だった。

しかし、韓国の女優キム・セロン(今年2月死去)が未成年だった当時、交際していたとの疑惑が噴出して以降、広告契約が次々に打ち切られ、芸能活動も事実上停止に追い込まれている。

真実は何なのか。地に堕ちたイメージは挽回できるのか――。

本人が初めて語る場となる記者会見はSNSやメディアを通じて世界に生中継され、最大同時視聴者数は1300万人に達した。

黒のスーツに黒のシャツ姿で会見場に現れたキム・スヒョンは、やや青ざめた顔で深々とお辞儀をし、口を開いた。

「私は、自分を臆病者だと思っています。私はいつも、自分の持っているものを守ることばかりに必死だったように思います」

「私は俳優になって、身に余るほどの愛をいただきました。もともと、私は大して何も持っていない人間でしたが、気づけば守るべきものが多すぎる人間になっていました」

スター俳優であるがゆえの苦悩。自身の決断や発言が周りにどんな影響を与えるのか。すべてがダメになるのではないか――記者会見を開くまでに時間がかかった理由を、キム・スヒョンはまず説明した。

個人ではなく“スターのキム・スヒョン”としての選択を常に優先してきたとも述べた。

「人間キム・スヒョンと“スター”キム・スヒョンとしての選択が分かれるたびに、私はいつも“スター”キム・スヒョンとしての選択をしてきたと思います」

■「主演の韓流ドラマ」の一場面?
キム・セロンとの交際を否定したのも、「当時の共演者、スタッフ、制作会社、所属事務所に迷惑をかけることはできない」という思いからだったと弁明した。

そして、当時に戻ったとしても「また同じ選択をする」「せざるを得ない」と述べ、涙を流した。

さらに焦点となっている“未成年時代からの交際”については、「故人が未成年の頃に交際した事実はない」と明確に否定し、「所属事務所が故人に圧力をかけ、悲劇的な選択に追い込んだというのも事実ではない」と述べた。

「故人の遺族は、私が故人の元恋人であったという理由だけで、私が故人を死に追いやったと主張しています。そして、私がやってもいないことを自白するように強要しています」

「私がしたことについては、どんな非難でもすべて受け入れます。しかし、やっていないことについてはしていいないとはっきり申し上げます」

涙を流しながら訴えるキム・スヒョンの姿は、まるで彼が主演の韓流ドラマの一場面のようにも見えた。

■冷ややかな世論
キム・スヒョンの記者会見に対し、世論の反応は冷ややかだった。ネット上には「演技のようだった」「一度も謝罪しなかった」などの批判が殺到した。

キム・セロンとの交際を否定したことについて、今でも「同じ選択を取る」「せざるを得ない」と語った点には「嘘を正当化している」との指摘もあった。

“スター”キム・スヒョンの立場から「やむをえず否定した(嘘をついた)」という弁明は、同じことがあれば「また嘘をつく」と言っているようにも取れるからだ。

過去にキム・スヒョンが主演したドラマ「星から来たあなた」にも注目が集まった。ドラマでは、記者会見の作法として「笑顔は排除して、極力悲しげで清純かつ哀愁ある表情、視線は15度下向き、誰かが一言でも発せばすぐ泣き出しそうな雰囲気で」話すことが必要と説明。また、「ガーゼのハンカチは必須。記者会見中は泣きそうで泣かず、最後の5分で号泣するのがポイント」に挙げられていた。

ネットユーザーからは「まるでこのアドバイスを参考にしたかのようだ」「ヘアメイクには手を抜かなかった」などのコメントが寄せられた。

キム・スヒョン側は、キム・セロンの遺族と保守系YouTubeチャンネル代表らを情報通信網法上の名誉毀損容疑で告訴し、120億ウォン(約13億円)規模の損害賠償請求訴訟をソウル中央地裁に提起したことを明らかにした。

しかし、遺族らは記者会見直後にも新たな写真を公開するなど、論争は収まる気配を見せていない。

■“大衆感情法”という裁き
韓国で芸能人が不祥事を起こした場合、大衆から激しい非難を浴び断罪される。その度合いは他国よりもはるかに厳しいように感じる。

有名人が対象であればよりいっそう、YouTuberなどが真偽のはっきりしない情報を拡散し、過度な不安を煽る。当事者の芸能人は“悪い意味”でスポットライトを浴び続け、大衆から無差別に攻撃を受けることになる。

一度の失敗や、過ちによって失うものは計り知れない。人気だけでなく活躍の場、財産、将来の展望など手にしていた全てを奪われ、一度脱落したら再起のチャンスはほとんどない。

これまでも多くの芸能人が将来を悲観して命を絶つケースが繰り返されてきた。キム・セロン自身も飲酒運転事故以降、同様の悪循環に追い詰められた。今度はキム・スヒョンが同じ立場に置かれている。

韓国には法律とは別に“大衆感情法”がある、と言われる。司法判断とは別に大衆が感情で罪の重さや償いの期間を左右するという考え方だ。特に芸能人の場合は、何の規定もない“大衆感情法”によって、芸能活動が大きく制限される結果となる。誰もが「非難する権利」を振りかざし、相手が地に堕ちるまで徹底的に叩く社会は健全とは言えないだろう。

SNSが発達した社会では“大衆感情”による悪循環が生み出されやすい。過ちを断罪するだけでなく、償いを受け入れ社会復帰の余地を残すことが必要だ。断罪によって分断を深めるのではなく対立を縫合し受け入れる社会の寛容性こそが今、求められているのではないだろうか。

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