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​【ギンツ・ジルバロディス監督「Flow」】 猫、犬、カピバラ…。動物たちの心の距離が縮まっていく過程をせりふなしで

アットエス

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は静岡市葵区の東宝会館ほかで3月14日から上映中のギンツ・ジルバロディス監督「Flow」を題材に。第97回アカデミー賞長編アニメーション賞を受賞した。

ラトビアのアニメーション作家による本作の世界的成功は、新時代を予見させる。ゴールデングローブ賞でも大手アニメ会社のビッグタイトルを抑えてアニメーション映画賞を受賞。ジルバロディス監督は長編2作目で大きな成果を残した。

劇場パンフによると本作の制作費は6億円以下、ジルバロディス監督がこの映画のために設立したアニメスタジオのスタッフ数は50人以下という。時に100億円を超える制作費を投じるメジャー作品とは全く異なる規模で、鮮烈な作品を作り上げた。

前作「Away」と同じように今回もせりふなし。主人公の猫、カピバラ、犬、ヘビクイワシ、キツネザルが一つの帆船に乗って着地点の見えない旅を続ける。

「Away」との共通点は「実態がはっきりしないものに追い立てられる」というところ。「Away」ではバイクに乗った少年が「進撃の巨人」を思わせる巨大な影から逃げ続けるが、今回は動物たちに原因不明の洪水が襲いかかる。地上の単独行だった前作が、水上のグループ移動に「グレードアップ」されている点が興味深い。

猫の飼い主が住んでいたと思われる家、背の高い遺跡、塗装のはげた船など人間の「痕跡」は出てくるが、人間そのものは出てこない。ジルバロディス監督は、5匹の動物の心の距離が縮まっていく過程を丁寧に描くが、過分に擬人化はしない。できないことはできないし、しぐさ振る舞いは私たちが知る「動物」そのものだ。個人的にはキツネザルが大事にしているとある「モノ」の価値を、ほかの4匹が理解し、尊重する姿に胸打たれた。

森林や水面、水中の描写の美しさもさることながら、カメラワークにも見惚れた。猫の目線、つまり地上30センチほどから見上げる視点が中心になっていて、今はやりの言葉で言えば「没入感」に近いものが得られる。

チェイスシーンのスピード感も素晴らしい。犬5匹に猫が追われる冒頭場面は、正面、背後、側面の画面の切り替えが計算され尽くしていてすさまじい緊迫感だ。

洪水の実態は何なのか、人間はどこへ行ったのかといった説明がないまま、せりふなしの物語が進行するが、全くストレスがない。明らかに作家の力である。ジルバロディス監督はアニメ作品の新しいジャンルを作ろうとしている。

(は)

<DATA>※県内の上映館。3月14日時点
シネプラザサントムーン(清水町)
静岡東宝会館(静岡市葵区)
TOHOシネマズららぽーと磐田(磐田市)
TOHOシネマズ浜松(浜松市中央区) 
TOHOシネマズ サンストリート浜北(浜松市浜北区)

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