“アンダーバー・オルタ”の過去に焦点を当てた、『UNDER THE LIVE 2024 ~オルタ・ジ・オリジン~』をレポート
UNDER THE LIVE 2024 ~オルタ・ジ・オリジン~
2024.8.31 1000 CLUB
みんな仲良く平和に楽しく。誰もがそう願えば、世界はとっくに穏やかなものとなっているはずなのに。結局のところは古今東西に関わらず、争いやその火種となるものが地球上から消え去ったことは一度たりとてないのが現実だろう。
飽きもせずあちこちで派手に争うばかりか、今や人間はweb上でまで不必要なほどの諍いや論争を激化させるという有り様。そもそもは生存競争という自然の摂理がある以上、人に限らずほとんどの生きものが時に敵との戦いに挑み、時には敵から攻撃されるのが常ではある。淘汰を経て生き延びたものたちだけが進化を遂げていくことは、生物学の観点からいけばむしろあたりまえのことなのかもしれない。
《一万数千年前、宇宙では惑星間の争いが絶えなかった。そして、その時アンダーバー星でも内戦が起きてしまった。これはわたしがアンダーバー王国の家来になったばかりの頃の話である……》
題して『UNDER THE LIVE 2024 ~オルタ・ジ・オリジン~』。前述したシリアスな口上から始まったのは、あのアンダーバーがこのたび“アンダーバー・オルタ”として企画制作および出演したという、限りなくミュージカルに近いライブパフォーマンスで、内容としては2019年12月に発売されたアンダーバーの活動10周年を記念したコンセプトアルバム『ダバランティス』と、2023年4月1日に開催された『UNDER THE BIRTHDAY LIVE 2023 ~アンダーバー・オルタ~』において描かれていた世界観がベースとなっていた。そのうえ、今回の場合はタイトルにてオリジンとうたっているだけあり、物語は過去に焦点を当てながら“アンダーバー・オルタ”の生まれた経緯を提示していくものとなっていたのだ。
ちなみに、アンダーバー自体には“アンダーバー星の国王で、地球を侵略しに来ている立場”という基本設定が存在するものの、今回の物語における“アンダーバー・オルタ”は王になる前の王子時代から話が繰り広げられていくことになり、公式インフォメーションによると【アンダーバー王子の「ありえたかもしれないもう一つの未来。」として生まれたのがアンダーバー・オルタになります。】とのこと。
〈我らが望むものとは 光かそれとも闇か〉
まず始めにアンダーバー王子が王国の民衆たちと歌い上げた1曲目の「Rebellion」は、どこか『レ・ミゼラブル』の「民衆の歌」や『ノートルダムの鐘』の主題曲を彷彿とさせるような力強くドラマティックな合唱曲で、このとき舞台上にはnero、しゃむおん、NORISTRY、ピコ、shuri、千葉端己、廣瀬真平、らぶてん、精鋭ダンサー陣といった多彩な演者が顔を揃え、それぞれに歌い、演じ、踊ってくれていた。
幸いにもアンダーバー王子の活躍により内戦はひとまず終結へと至ったが、惑星間戦争の影響による食料不足はなかなか解消されないという社会情勢。その中でアンダーバー王子は愛と思いやりの大切さを訴え続け、笑顔でいることの大事さを「Nice smile」という曲を通じて真摯に楽しく伝え続ける。
しかし、そんなアンダーバー王子のスタンスに対して「笑顔だ、愛だが何になる!」「己と向きあえだ? 向き合ったらメシでも出てくんのかい?!」と、辛辣に受け止める国民たちも出現。貧すれば鈍するのことわざのごとく、追いつめられた一部の暴徒は凶悪化し、内戦によって両親を失った少年(小林侑純)がひとりで健気に暮らしている家を襲うと、畑の作物を奪ったうえに少年まで手にかけてしまう。
以前からこの少年のことを気にかけていたアンダーバー王子は、ちょうど様子をうかがいに行った先でまさにその事件現場と遭遇。こときれる少年を前にして、悲しみと怒りと絶望に駆られることで彼は“アンダーバー・オルタ”へとメタモルフォーゼし、犯人たちを自ら振り降ろした剣で冷酷な制裁を発動していく。
「そうか。これがおまえたちの望んだ世界なのか」
「なに言ってんのよ! わたしだって愛を持って笑顔で過ごしていた。でも、このガキを殺して食糧を奪わないと……」
家来が制止しようとする声も届かず、“アンダーバー・オルタ”は犯人の言い訳を受け容れようともせず、“彼”はただただ不憫な少年のかたきをとり続けて犯人たちを殲滅。このあとに歌われたアグレッシヴチューン「ORIGIN」の中にあったのは〈これがお前らの望んだ世界なのか ならばそれに応えよう 絶望の最中 光を望むのなら 俺が導こう Freedom is not free〉という歌詞だ。
また、このくだりのあとには“アンダーバー・オルタ”の闇落ちぶりを表わすのにあたってまたとない選曲と言えた「FAITH」と「FANATIC」(※両曲とも過去にはアンダーバーとしての歌ってみた動画が投稿されている)が歌われることになり、今度は場内が一転してライブ会場ならではの高熱量な空間へと変貌。
ほどなく“アンダーバー・オルタ”は王から王座を奪取して君主としての独裁体制を固めていくが、途中には家来を演じるしゃむおん、政権内の有力者たちを演じるnero、NORISTRY、ピコらが「未来のために」という正調ミュージカルナンバーを披露する一幕も。なお、この曲の前に演奏されていたのはメタルと言って差し支えない激音チューン「オルタナティブ」であったこともあり、今回の『UNDER THE LIVE 2024 ~オルタ・ジ・オリジン~』は振れ幅が相当に広い音楽劇であったとも言えそう。
それでいて、本編後半では「KING」や「シャンティ」などボカロ文化圏の楽曲たちが集中的にエントリーされているシーンもあり、その最には“アンダーバー・オルタ”から以下のようなおふれが出され、ファンはそれに従うという展開もみられた。
「俺はここからさらに多くの者たちを導こうと思っている。そのためには、より広く俺の存在をまだ目覚めぬ愚民どもに認知させる必要があるのだ。そこで、あらたな命をおまえたちに下そう。さぁ、おまえたちが携帯している端末を今すぐ取り出すがいい。そして、このあと俺の4つの演舞について撮影することを許可しよう。その後、それを世界へと広めることをおまえたちに命ずる。俺の存在を広めることを怠るな」
横暴な口調ではあるのに、何故か突如として4曲分も撮影許可のファンサをしてくれる“アンダーバー・オルタ”様。拡散希望のおねだりも含めて実はツンデレ(?)。そういえば、今をさかのぼること8年前の2016年にとある雑誌でインタビューした時にアンダーバーはこう述べていたと記憶している。「皆を笑顔にさせたい、というようなことをアンダーバーとしてはいつも言ってきてはいるんですけど。実は僕、根本的にはネガティヴなところがあったりするんですよ(苦笑)」と。つまるところ、やはりアンダーバーも“アンダーバー・オルタ”も根っこの部分はおおよそ同じで、その発露の仕方が逆方向なだけとも推察できはしまいか。
かくして、このあとには“アンダーバー・オルタ”による「我に忠誠を誓え!」という厳命に対してファンが「YES MY KING!」と宣誓する場面もありつつ、物語は急展開。“ありえたかもしれないもう一つの未来。”がこの舞台上での出来事だとすると、一方には並行する“これとは別の世界線”もあるということのようで、家来はこう君主に告げることとなったのである。
「世界線の揺らぎに変化が生じ始めております。恐れ多いのですが、国民たちの“向こうの世界を望む声”が少し強まっている可能性があります」
その報を聞き、まるで狂ったように笑いだす“アンダーバー・オルタ”。そこから一呼吸を置くと、彼は次に激昂するに至った。
「今のこの世界は実に醜い! 愚かどもは自ら笑顔を捨て去ったというのに、また笑顔を望むだと? なんと愚かで強欲なやつらだ。……そうか、時は熟したか。最後におまえたちに機会をやろう。現実と過去を直視するがいい。そして考えろ。おまえらが本当に望む世界とは何なのかを!」
ここで歌われたのは、再度〈我らが望むものとは 光かそれとも闇か〉の歌詞が場内に大きく響きわたった「Rebellion」。
「人は歴史から学ぶことがない愚かな生きものだ。おまえたちがいくら笑顔を求めようと、いずれはまたおまえたち自身の手で壊すことになるだろう。そのたびに俺は現われる。俺を望まぬと言うのなら、おまえたちの望む未来を壊さぬようにせいぜい努力を続けるがいい。笑顔を望むのなら、俺を否定し続けろ! あがいてみるがいいさ。おまえたちとまた会うのを楽しみにしているぞ」
かくして、“アンダーバー・オルタ”はこの言葉を残して去りゆき、物語も一旦は終結をみる。だが、それでもほどなくしてのアンコールでは再降臨して「星王襲来(Re:arrange)」を単独で歌いあげたあと、家来と以下のやりとりが。
「我々はどのような結末になろうとも国王様に着いて参ります。しかし、この先は一体どうしたら?」
「安心しろ。世界の軸が向こうへ移ろうとしているだけだ。俺らの世界がなくなるわけではない。歴史は繰り返す。またその日は必ず来るだろう。そう遠くはない。どのような結論になろうとそれもまた必然。さぁ、道は違えど我らも理想の世界を目指すまでだ!」
〈大いなる意思へと集い 行こう未来の先へ〉
カーテンコールのごとく、今宵の出演者たちが総出で歌ってみせた「次元を超えし者達」が感動的ですらあったのは当然のことで、この『UNDER THE LIVE 2024 ~オルタ・ジ・オリジン~』は高い完成度を誇る舞台芸術として堂々の大団円を迎えた、ということになろう。ミュージカルのようであり、なおかつライブとしての醍醐味もあわせ持ったこの一夜を生みだしたアンダーバーa.k.aアンダーバー・オルタのエンターティナーとしての手腕とそれを裏打ちする熱い情熱は、間違いなく賞賛すべきものと言っていい。
思えば、今年は3月にはミュージカル『悪ノ娘』にジョセフィーヌという名の“馬”を演じる役として出演したほか、6月にも舞台『SEPT presents WORLD BROKER』でも引き続き現場経験を積んでいた彼は、今回の『UNDER THE LIVE 2024 ~オルタ・ジ・オリジン~』に向けて周到に動いてきていたことになる。並々ならぬ思い入れで臨んだのであろうこの舞台の成功は、必ずやアンダーバーとアンダーバー・オルタの未来に良き影響を及ぼすに違いない。
我らが望むならば。いずれかの世界にまた“彼”はやってきてくれるはずだ。
文=杉江由紀
撮影=粂井健太