魚の未来を創る挑戦者から流通革新へ。独自のデジタルプラットフォームで水産業再生に挑む 【広島県広島市】
株式会社ウーオ(UUUO, inc.)は、2016年7月の創業以来、水産流通の固定概念に挑み続けています。代表 板倉一智(いたくらかずとも)さんの幼少期からの実体験と、地元での水産業再生への強い思いを原点に、同社は着実に業界の変革を進めています。スマホを活用した流通プラットフォーム「UUUO」や受注支援アプリ「atohama」によって、固定化された流通の壁を打破し、全国の漁港や市場、飲食店をつなぐ新たな仕組みを構築。ここでは、その歩みと信念、そして次世代へ託すビジョンに迫ります。
※株式会社ウーオ代表取締役 板倉一智さん
幼少期に見た港町衰退の景色と未来への決意
板倉さんは幼い頃から港町で暮らし、水産業に親しんで育ちました。帰省するたびに、かつて賑わっていた港は静まり返り、波止場に停泊する古びた漁船や活気を失った競り場の様子を目の当たりにし、「港には昔のような活気がなくなり、船の数も激減している」と感じ、「その時、絶対にこの状況を変えなければならないと心に誓った」と板倉さんは語ります。
その光景は、幼い頃の彼の心に深い衝撃を与え、「地元の水産業を再生させたい」という強い思いを植え付けました。成長するにつれ、板倉氏はなぜこのような状況になってしまったのかを知るため、実際に現場に足を運び、漁師や市場の関係者の話に耳を傾けるようになりました。そこで、昔ながらの一対一の固定取引が、業界の柔軟性や多様な可能性を奪っていることに気づいたのです。
現場で魚の評価が上がらない理由は、固定された取引形態にあるのではないだろうか。当時、板倉さんは水産業の専門知識や経験、業界のバックグラウンドを持っていなかったため、自分自身の限界を痛感しました。しかし、同時にこれが「我々にしかできない変革のチャンス」であると確信しました。そして、彼は「自分が水産の専門家でなくても、やるしかない」と決意を固めます。
デジタル技術の活用で、本当にいい魚が評価される市場を形成
創業当初、板倉さんは「やるしかない」という覚悟を胸に、現場の問題を解決するための具体的な手段を探し始めました。最初は、従来の固定化された一対一の取引体制が、漁師と市場、そして消費者との間に柔軟な交流や多様な販路を生み出せていないことに着目していました。「現場で実際に話を聞いてみると、漁師たちは『今の取引では、本当に良い魚が正当に評価されない』と嘆いていた」と板倉さんは当時のことを振り返ります。
板倉氏は、まず現場で直接漁師や市場の担当者と話し合い、どのような取引であれば彼らがより良い評価や価格を得られるのか、またどんな情報が不足しているのかを丹念に調査しました。彼は「現場で実際に話を聞いてみると、漁師たちは『今の取引では、本当に良い魚が正当に評価されない』と嘆いていた」と、現場のリアルな声を重視していました。これを受け、従来の方法にとらわれない新たな仕組みの必要性を痛感したのです。
そこで板倉さんが模索し始めたのは、スマートフォンとインターネットを活用したデジタルプラットフォームの構築でした。具体的には、漁港や市場の各種情報から漁獲量、魚種、産地、さらにはその日の相場や品質に関するデータをリアルタイムで共有できる仕組みを作ることです。初期のアイデアは、漁師がスマホで情報を入力し、市場関係者や飲食店がそのデータを即座に閲覧して取引に生かすというものでした。
徹底した現場主義で漁業者や市場、飲食店の信頼を獲得
「スマホで魚の情報を共有できれば、従来の固定的な取引に変革がもたらされるはずだ」と板倉さんは語り、実際に現場で何度も試行錯誤を重ねました。初期は、現場での直接サポートが不可欠であり、板倉さん自身も漁港に足を運び、実際の操作方法や使い勝手を確認しながら、漁師や市場関係者に丁寧に説明を行いました。実際に、対面でのサポートが行われる中で、「このアプリがあれば、今まで得られなかった情報がリアルタイムでわかる」と、利用者から徐々に前向きな声が上がり始めたのです。
さらに、板倉さんは、情報の正確性や共有のスピードが取引の透明性や公平性を高めることに注目しました。具体的には、各地域ごとに異なる流通の現状や課題に合わせたカスタマイズも必要であると考え、初期のサービスアイデアに加えて、地域ごとの特性を反映する機能の検証も行いました。「各地域での取引状況を正確に把握することが、全国規模での流通の最適化につながる」との考えのもと、複数の試作版を開発し、実際の市場でテストを重ねるプロセスを経ました。
この過程で、板倉さんとそのチームは、デジタルプラットフォームを単なる情報共有ツールとしてではなく、漁師、市場、飲食店といったステークホルダーが双方向でコミュニケーションできる総合的な流通支援システムへと進化させることを目指しました。実際、初期の段階で「アプリで魚が売れるなんて」と懐疑的な意見もあったものの、対面サポートや現場での試行錯誤の結果、徐々に利用者の間で「このシステムがあれば、より良い価格で取引ができる」という実感が広がっていきました。
また、板倉氏は、システムの検証段階において、利用者からのフィードバックを積極的に取り入れることの重要性を強調しました。「このシステムで、現場の声をそのまま取引に反映できるなら、流通の透明性も高まる」と、板倉氏はその効果に期待を寄せ、サービスの改良に余念がありませんでした。
現在、同社は広島本社と東京支社を拠点に、スマホで全国の漁港、市場、飲食店を結ぶプラットフォーム「UUUO」や、受注支援アプリ「atohama」を展開しています。徹底した現場主義と、創業当初からの利用者の声を反映した試行錯誤の結果、これらのサービスは従来の固定化された流通体質に挑む革新的なツールとして、徐々に評価を得るようになりました。実際、現場では「どこの市場に行っても、このシステムのおかげで取引がスムーズになっている」といった声が聞かれるようになり、業界全体に新たな風を吹き込む一助となっています。
水産業にとって、なくてはならない存在へ。
今後、板倉さんは「ウーオが水産業にとってなくてはならない存在になっていってほしい」という強いビジョンを掲げ、さらに持続可能な流通モデルの実現と全国展開を推進していく考えです。彼は、今後も現場のリアルな声を重視し、利用者との双方向のコミュニケーションを通じてサービスを進化させるとともに、デジタル技術を駆使した新たな取引の可能性を探求することで、50年、100年先を見据えた持続可能な水産業の再生に挑戦し続けると述べています。これらの取り組みが、業界全体に革新の波を広げ、次世代に引き継がれる確かな基盤となることが期待されます。
取材、執筆 木場晏門