SHISHAMO バンドの充実ぶりがうかがえる“攻めたセットリスト”、『ワンマンツアー2024初夏』国内ファイナル公演を振り返る
SHISHAMO ワンマンツアー2024初夏「退屈なハッピーエンドに迷い込んだのは君のせいだ」
2024.6.30 Zepp DiverCity(TOKYO)
2024年6月30日、 東京 Zepp DiverCity(TOKYO)で『SHISHAMO ワンマンツアー2024初夏「退屈なハッピーエンドに迷い込んだのは君のせいだ」』の国内ファイナル公演(7月13日の台北公演が正式なファイナル)を観た。CDデビュー11年目のSHISHAMOは、さらに高い次元へとステップアップしていた。これまでの魅力を維持しながらも、新境地を切り拓いていたからだ。“新しいSHISHAMO”の予感は、会場に入った瞬間からあった。最新のアーティストヴィジュアルにもリンクするような「SHISHAMO」の文字を形取ったネオン管風の照明が設置されていたからだ。4月10日にリリースしたアルバム『SHISHAMO 8』の充実ぶりも、今回のツアーへの期待を高いものにしていた。
宮崎朝子(GtVo)、松岡彩(Ba)、吉川美冴貴(Dr)がステージに登場すると、大きな拍手と熱烈な歓声が起こった。1階のスタンディングゾーンはぎっしり満員。この人口密集率の高さは、コロナ禍を乗り越えてきたことの証しでもあるだろう。オープニングナンバーは『SHISHAMO 8』収録の「会えないのに」だった。吉川がスティックでカウントを取り、宮崎が歌い始めた瞬間に、観客を一気に歌の世界へと引き込んでいく。松岡のドライブ感あふれるベースが気持ちいい。疾走感あふれる演奏でありながら、一つひとつの音のニュアンスが豊か。主人公のもやもやした思いまでもが鮮やかに伝わってくる。一転して、ほのぼのとした歌と演奏、キュートなコーラスが心地よかったのは「犬ころ」だ。素朴さを備えた演奏からは、日常の空気感までもが伝わってくるようだった。エモーショナルな歌声と演奏が染みてきたのは「私のままで」。曲の主人公にエールを送るような歌と演奏から、SHISHAMOの成長を感じた。3人はこれまで以上に深く楽曲の世界に踏み込み、より強く客席に向けて届けていた。冒頭から新曲が続く展開となったが、こうした“攻めたセットリスト”からは、最新アルバムに対するメンバーの手ごたえがうかがえる。MCでも3人それぞれからこんな言葉があった。
「みなさんに新曲を直接演奏して届けられることによって、『SHISHAMO 8』が完成するんじゃないかと思っています」(吉川)
「この3年間やってきたことを詰め込んだアルバムができました」(松岡)
「CDデビュー11年目に自分でも最高と思えるアルバムを作れたことは希望であり、うれしいことです」(宮崎)
『SHISHAMO 8』はラブソングであると同時に、ヒューマンソングと言いたくなる楽曲が目立っている。自分を肯定して愛すること、世界を愛することなど、広い意味での“愛”が描かれた作品がたくさん収録されている。そしてそれらの曲に込められた思いが、人間味あふれるプレイで表現されることにより、鮮度の高い状態でダイレクトに届いてきた。観客が内面から揺さぶられていることも伝わってきた。客席から「かわいい!」との声がかかると、「ファイナルだもん。そりゃ、普段よりもかわいかろうよ」と宮崎。ファイナルの気迫を集中力へと変換しているところも見事だ。ネオン管型のSHISHAMOのロゴの照明や柱状の照明など、ライティングによる演出も多彩で、エンターテインメントショーとしても充実したステージを展開していた。
「ハリボテ」は宮崎のギターと歌での始まり。ハリボテの世界で恋人と2人で生きているというSF的な設定の楽曲の世界を、甘美さやシュールさの混じった歌と演奏で見事に表現していた。表現力の豊かさと解像度の高さを備えたバンドサウンドなのだ。密やかな恋心を繊細かつ緻密な演奏で見事に表現していたのは「なんとなく。」。歌心を持った3人のアンサンブルが見事だ。躍動感と開放感あふれる演奏に体が揺れたのは「わたしの宇宙」。観客がハンドクラップで参加している。温かさと力強さを備えた歌と演奏に、会場内が包み込まれていくようだった。
「『SHISHAMO 8』のツアーですが、聴いていない人もいると思うので、『8』以外の曲もやります」(宮崎)とのことで、「笑顔のおまじない」「狙うは君のど真ん中」「ひっちゃかめっちゃか」「きっとあの漫画のせい」など、おなじみの人気曲も交えつつの構成。聴かせることと楽しませること、盛り上げることのバランスも絶妙だ。既発曲を挟んで、再び、最新作の曲へ。主人公の痛みがリアルに伝わってきたのは「春に迷い込んで」だ。3人が楽曲の世界の中に踏み込んで演奏しているからこそ、観客にしっかり届いていくのだろう。桜色の光を使ったライティングも効果的だった。深海から鳴り響くような松岡のベースと、強い意思を込めていくような吉川のドラムで始まった「溺れてく」では、オルタナティブな演奏がズシンと響いてきた。陰影に富んだ宮崎の歌とギターが染みてくる。大胆にして繊細な演奏だ。
後半は「最高速度」「夏恋注意報」「君と夏フェス」「君の目も鼻も口も顎も眉も寝ても覚めても超素敵!!!」と、疾走感と爽快感あふれるバンドサウンドでたたみかけていく展開。熱気が充満する会場に風が起こったのは、観客が一斉に赤白タオルを回した「タオル」だ。タオルを回したり、ハンドクラップしたり、歌ったりして、参加できるところにも、SHISHAMOのライブの楽しさがある。「東京、ファイナル、最高です」と宮崎。3人が笑顔を見せるシーンもあった。もちろん、客席にも笑顔の花が咲いていたのは間違いないだろう。平日を頑張った人々をねぎらい、そしてエネルギーを充填する「明日も」、ソリッドなバンドサウンドが全開となった「明日はない」で本編が終了した。熱くて力強いエンディングだ。
アンコールの3曲は、どれも最新アルバム収録曲。自分を信じることの大切さを描いた「きらきら」、SHISHAMO史上、もっともせつない曲と表現したくなった「ハッピーエンド」、人を好きになることのかけがえなさが伝わってきた「恋じゃなかったら」と、観客を揺さぶる演奏を展開していた。楽曲の主人公たちに寄り添うと同時に、観客に寄り添うような演奏だ。“新しいSHISHAMO”とは、リスナー一人ひとりの人生の味方になってくれる“頼もしくてたくましいSHISHAMO”でもあった。3人からこの日のライブについて、こんな感想もあった。
「あっという間でした。お客さんの盛り上がる声を聴けて、楽しかったです。みなさんとこの時間を過ごせて、うれしかったです」(松岡)
「ステージとか客席とか関係なく、みんなで素晴らしい夜を一緒に作れて、幸せでした」(吉川)
「今日はいい日でした。みんなのおかげで、ここにいていいんだと思えるようになりました。ちゃんと届いているんだってことを感じられて、いい時間でした。これからも、モリモリやっていきます」(宮崎)
観客層が広がっていることも感じた。若い観客も増えているのだが、老若男女、客層の幅が広い。SHISHAMOもあらゆる世代が楽しめるステージを行っていた。聴く側にとって、入り口のたくさんあるステージだったからだ。楽曲の世界に浸ることも、参加して楽しく盛り上がることも、バンドサウンドを堪能することもできる。10月4日からライブハウスツアーが行われることも発表された。自分たちの住む街にやってくるSHISHAMOのステージを観ることは、きっと格別な体験となるだろう。
取材・文=長谷川誠 撮影=柴田恵理
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