新連載【作家さん!いらっしゃい】第1回は超大物ゲスト!直木賞作家・村松友視さんが語る悪口の極意、そして作家の極意とは?
皆さん、こんにちは。静岡新聞社編集局出版部のマッサンこと、増田です。久々の投稿になります。今回は新コーナー、「作家さん!いらっしゃい」と題して、作家さん(プロ・アマ問わず)の想いや本音、本作りの裏側などをインタビュー形式でお伝えします。
記念すべき第1回は、超大物ゲスト!静岡市清水区出身の直木賞作家、村松友視さんです。村松さんは2024年8月29日に「悪口の極意」(静岡新聞社発行)を出版したばかり。静岡新聞社から村松さんが出版されるのは、実に25年ぶりです。ご本人に悪口の極意、そして、作家の極意を聞きました。
悪口コンテストは豊かな「言葉遊びの妙」
―まずは今回の書籍「悪口の極意」について、著者としての感想をお聞かせください。
村松:本書の一つの核となる「愛するあなたへの悪口コンテスト」が、なぜ20年続いたのか、首をかしげるところがあったけれども、改めて20回までの作品群を見ると、当然だなという手ごたえがありますね。その悪口コンテストを土台とした今回の本は、豊かなものをはらんだ本だと、自画自賛だけど思いますね。
(同書は島田市で20年にわたって続く「愛するあなたへの悪口コンテスト」=同実行委員会主催=の歴代傑作と、第1回審査委員長を務める村松友視氏の選評を収録。エッセー・コラムは書き下ろし。イラストは本県出身の新人漫画家・塚田ゆうた氏が担当した)
―村松先生は、かつて悪口コンテストのことを「言葉遊びの妙」だと評されましたが、大賞作をはじめ、入賞作は実に面白い作品ばかりですね。
村松:世の中で、文化じゃないと思うことも、目を凝らして見れば立派な文化だというものがいっぱいある。「言葉」というのは視点をズームインしていくと、相当な膨らみがある。言い換えれば、奥行きと広がり、さらには思いもかけない意味があると思いますね。
悪口は本来、色気があるもの
―私は学生時代でしたが、村松先生の著書「カミさんの悪口」は1990年代にドラマ化(田村正和・篠ひろ子主演、TBS系)され、大ヒットしました。“悪口の達人”ともいうべき、村松先生にとって、悪口とは何でしょうか。
村松:悪口は言い換えると、大絶賛だと思うんです。悪口を向けるということは、いろいろな褒め方がある時の一番の頂点をひっくり返して、さらに、その上にあるのが悪口だと思うんです。本当はめちゃくちゃ褒めているのだと。
他者に対する最高の評価なんです。でも相手がそれを額面通り、言葉通りに受け取ればそれっきりだというスリル感が悪口にはある。もろ刃の剣のようなものがあるんです。
ただ、最近のSNSやネットの悪口は言いっ放しで色気がない。言葉に責任を持っていないんです。悪口は本来、色気があるものなんです。
―先生は筆が速く、今回も6編あるコラム・エッセーを1日で書いてしまったと伺いました。どうしたら、それほど速く文章を書けるのですか。
村松:(作家としては)ダメだからではないですか。文学的に、文学的な文章を探る工程が、僕は苦手だからじゃないですかね。
「角を曲がると次の景色が見えてくる」「次の景色をまっすぐ行くとまた角を曲がって、また次の景色が見えてくる」みたいな感じで、出来事的に文章を書いているものだから結果的に早くできちゃう。
ただ僕は昔、自分のことを「劇的記憶術師」と言ったことがありましてね。記憶を思い起こす過程で、どうやらいろいろな物語を埋め込んでつくってしまうところがあるようなんです。こうなった方が面白いなというふうにね。
小説を書くことは誰にでもできる
―最後に、先生のような作家になるためには、どうすればよいでしょうか。
村松:そもそも、僕は、自分が小説家になり切れていないと思っているんです。「作家装い」という小説を書いたことがあるけれど。
だから自分が作家みたいなことを言ったりすると、どこかで、自分で自分に笑っちゃうみたいな、そういうところが残っているわけです。だから、後輩にこうすれば作家になれると言うことはできない。
昔(編集者時代)、いろいろな作家の小説をチェックしたり結構文句を言ったりしたけれども、それは編集者だからなんですね。この雑誌に掲載する「責任の重さ」で、「これはちょっとおかしいのではないですか」とか、「これはこうした方がいいのではないですか」と言ってきたんです。
作家としての目で、作品を批評したりすることは難しいことだと思うんですよね。小説を書くことは、誰にでもできることのような気がするけれども。
―とはいえ、作家を目指す中学生や高校生に何かアドバイスをいただけますか。
村松:むしろ中学生、高校生からこそ学びたいですよ。あなた方の瑞々しさを忘れるな、大人の言うことを聞くな、という感じですね。
倣ったような字を書くのと同じで、倣ったような文章を書くのは面白くない。僕が編集者だった時にチェックするのはそこで、どこかで見たような形容詞だとか、言葉遣い。言葉を編み出す術を会得したいというならば「愛する悪口コンテスト」の受賞作(「悪口の極意」に掲載)を読んでくれと言いたいですね(笑)。
■著者紹介:村松友視(むらまつ ともみ)
1940年東京生まれ。静岡市清水区(旧清水市)に育つ。静岡市立城内中学校、県立静岡高校、慶應大学文学部卒業。中央公論社「婦人公論」「海」編集部を経て、1980年に「私、プロレスの味方です」で作家デビューし、1982年「時代屋の女房」で第87回直木賞を受賞、97年「鎌倉のおばさん」で第25回泉鏡花文学賞を受賞。「カミさんの悪口」は1993年に田村正和・篠ひろ子主演でテレビドラマ化され、人気を博した。「駿河ピープル物語 だけん、人はいいだよ」(静岡新聞社発行)など著作多数。1987年新語・流行語大賞(流行語部門・大衆賞)「ワンフィンガー ツーフィンガー」を受賞したほか、テレビ・CM出演など多方面で活躍、島田市の「愛するあなたへの悪口コンテスト」では第1回から審査委員長を務める。
第1回目の「作家さん、いらっしゃい」、いかがでしたでしょうか。村松先生は現在、新作の小説を執筆中とのこと。次回作が楽しみですね。「悪口の極意」は静岡県内の書店、新聞販売店などで絶賛販売中です!アットエスの「静岡新聞社の本」からも購入できますので、ぜひ手にとってごらんください。
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