発達障害のある人の秘境駅の清掃を巡る物語「秘境駅清掃にハマってる」太田信吾監督インタビュー【Yahoo!ニュース「ベスト エキスパート2025」】
ドキュメンタリー作品『「秘境駅清掃にハマってる」JRから感謝状、発達障害男性と母親の人生を変えた掃除とは』受賞インタビュー
2025年2月26日に、Yahoo!ニュース主催「ベスト エキスパート2025」が発表されました。ドキュメンタリークリエイター部門では、発達障害のある男性を追いかけたドキュメンタリー作品『「秘境駅清掃にハマってる」JRから感謝状、発達障害男性と母親の人生を変えた掃除とは』を配信した映画監督・俳優・演出家の太田信吾さんが特別賞を受賞。今回は、太田さんにドキュメンタリー制作への思いをインタビューしました。
発達障害のある男性による秘境駅の清掃を巡る物語。ドキュメンタリー制作への思いとは?
―― この度は、Yahoo!ニュース主催「ベスト エキスパート2025」において、ドキュメンタリークリエイター部門 特別賞を受賞されたとのこと、おめでとうございます!
太田さんの作品『「秘境駅清掃にハマってる」JRから感謝状、発達障害男性と母親の人生を変えた掃除とは』について、どのようなきっかけでドキュメンタリーの制作を始められたのでしょうか?
太田信吾さん(以下、太田さん):ありがとうございます。私は長野県千曲市出身なのですが、大学生の頃には早稲田大学の学内でサークルをつくり、長野県下でNo.1の高齢化率に直面する長野県天龍村で自治体とも連携をしながら村の課題を解決するためのボランティア活動に励んでいた時期がありました。当時、村内のいくつかの空き家をお借りして滞在をしていたのですが、2021年に学生時代にお世話になった方から電話があり「最近、君たちが滞在していた場所に面白い若者が来てるから会いに来てみたら?」と言われました。私は久しぶりにお世話になった方々に会いたいということもあり、村を訪れました。そこには見慣れない清掃器具や改造された清掃用品が多数置かれており、「誰だこの人は!?」と興味を惹かれました。清掃という仕事にあまりフォーカスが当たることは少ないと思うのですが、彼と接していると清掃は娯楽でもありメディテーションでもあり、コミュニケーションのツールでもあり……美化や環境整備という従来の意義だけではない可能性に気づかされ、この驚きを映像で伝えたいと思いました。
――ドキュメンタリーで取り上げられていた髙橋祐太さんは、行動力にあふれ、積極的にいろいろな方とコミュニケーションをとりながら支援の輪を広げていく様子が、素晴らしいなと感じました。実際お会いしてみて、髙橋さんはどのような方でしたか?また、ドキュメンタリー制作を進める中で、気をつけた点や大切にされた点などを教えていただけますか?
太田さん:良くも悪くも一つのことに集中し始めるとほかのことが見えなくなるタイプの方だなと思いました。自分自身も落ち着きがなく多動的で周囲が見えなくなることが多々あるので、シンパシーを感じました。ドキュメンタリーは他者がいてこそ成り立つものなので、あまりこちらのペースを押し付けすぎないようには気をつけました。彼のリズムを崩さないように。
ニュースへの掲載が、多くの支援者や協働者が関わるきっかけに
――作品では、清掃活動やイベント企画を行っている髙橋祐太さんの生き生きとした表情、心配しながらも清掃活動を見守るお母さまの姿がとても印象的でした。太田さんが作品の中で、特に心に残ったシーンはどのようなところでしょうか?
太田さん:感謝状を受け取るところです。初めて、第三者にオフィシャルな形で評価をいただくことができた場面だからです。清掃の場所が秘境駅周辺ということもあり、なかなか人に気づかれず、評価をしてもらいづらい状況がありました。もちろん彼は好きでやっているだけで評価を得るためにやっていないのですが、「トレイルイベントを実現する」という目標のためにはやはり応援者が不可欠で、そのためにもこの感謝状やYahoo!ニュースへの掲載が大きな転換点となり、多くの支援者や協働者が関わるきっかけになったと感じています。
――髙橋さんのように発達障害のある人が地域で暮らしていくときに、必要だと感じたことはありましたか?
太田さん:周囲の方々の理解が必要だと思います。髙橋さんの場合は、危険が伴う場所で活動されているということもあり、活動に熱が入るがあまり安全面は疎かになりがちです。 そういった時に髙橋さんのお母さんのように理解があれば、GPSで状況を確認したり、こまめに連絡を取ったりと、安全を確認しながら彼のやりたいことを実現することが両立できると感じています。 またそれをネガティブなこととして捉えすぎないことでしょうか。個性としてそれを活かせるライフスタイルや環境をつくっていくことで、障害が魅力や個性になることは大いにあると思います。
――ポータルサイト「発達ナビ」は、発達障害のあるお子さまの育児をされている保護者の方や、支援者の方に多くご覧いただいています。太田さんが本作を通じて伝えたいメッセージを教えてください。
太田さん:ぜひ作品をご覧いただきご感想を寄せていただいたり、周囲の方々とのコミュニケーションを振り返る機会、自分の人生の目標を改めて考えるきっかけなどにしていただけたらうれしいです。
小和田駅にいらっしゃる時にはタイミングが合えば髙橋さんとご案内させていただきます。
『「秘境駅清掃にハマってる」JRから感謝状、発達障害男性と母親の人生を変えた掃除とは』
「ベスト エキスパート2025」の受賞者や授賞式の詳細については、以下の特設ページでご覧いただけます。太田さんの作品『「秘境駅清掃にハマってる」JRから感謝状、発達障害男性と母親の人生を変えた掃除とは』も、ぜひチェックしてみてください。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。